第33話 狂人VS偽善者
「お前がどうしてそれを持ってるッ!!」
「答えませ~ん?あひゃひゃ!!」
――相変わらず耳障りな笑い声を響かせる。
「答えないならいい!!――俺がそれを回収するまでだ!これ以上お前みたいなやつをこの世界において置くわけにはいかないんでな!!」
俺は右手をフォースに伸ばす。
それを嘲笑うように、ケタケタと薄気味悪い笑顔のままイセルは体をうねらせる。
「おやおや?狙いが分かりやすい――よッ!!」
「――ちッ!!」
イセルはバックステップで俺が前に進むより速く後方に下がる。
人間の反応速度とは比べ物にならないほど、俊敏だ。
「くそッ!腐っても神族だな!!――身体能力が俺らと段違いかよ!」
「腐ってなんかいないさ!私は正真正銘、美と神聖を体現した男なのだからね!!」
――神聖な奴が人殺しなんてするわけないだろうが、くそが!!
ゲーム内で操られた風間君のスチルが頭を何度もよぎる。
人を殺すその顔は邪悪そのものだった。
そんな顔をさせたお前が神聖であるはずがないだろう!
「醜いものを傷つける!それがお前らの言う神聖だとでもいうつもりか!!」
「むしろ神の慈悲さッ!醜い体から魂を開放している!!――それを救いと言わずなんていうだい?これは世界のため、そして私のためさ!!」
演説でもするようにオーバーに身振り手振りで独りよがりな講釈をたれる。
――やっぱ狂人とは話にならねぇな。
「命を何だと思ってやがるッ!お前が自分勝手に死は救いっていうなら、俺は俺の信念でお前が殺す命を助けて、救ってやるよ!!」
「おやおや、それでは私たちは同類ということですね?あなたは自分の感情のまま人を助ける――私は感情のまま人を殺す。ここに何の違いがありましょう?なぜなら!どちらも感情の赴くままに行動している!!――素晴らしい!私たちは似た者同士ということでしょうッ!!」
弾丸のような速さでイセルの拳が迫る。
それをギリギリで躱した、脇髪が数本パラパラと落ちる。
威力は日本刀と遜色ない、もう一度あれをかわせと言われても出来る自信がない。
それくらいこいつら神族の身体能力は桁違いだということだ。
非常に残念そうにイセルは前に手を組む
「あぁ……殺せなかった……同士であるはずの者に理解してもらえないとは!――あぁ……私はなんて不幸なんだ!」
「何が不幸だッ!お前が奪った命達の方が不幸だったに決まってるだろ!!」
体を回転しながら、イセルはケラケラ笑う。
まるで分かっているとでもいうように……
「あなたも不幸でしょう?分かるのです私には――あなたも私と同じなのですから!誰にも自分の感情を理解されない孤独!!――あなたも見返りを求めない救いや助けなど、他人からさぞ気持ち悪がられたでしょう!――自分が良かれと思ってやっても他人から避けられる!そうでしょう!!」
「―――」
その指摘に俺は反論ができなかった……
――俺の昔の記憶がフラッシュバックする。
俺が人を助けたいと思うのは、笑顔になってほしかったからだ……
だから人の喜ぶ顔が、俺にとって何よりの報酬だった。
――だけど周りはそうは思わなかった。
何を見返りを求めず、手を差し伸べる俺はさぞかし奇妙な存在として移っただろう。
そのうち人から避けられるようになっていった。
俺はそのことがショックで引きこもり、学校に行かなくなってしまった。
――くそ、嫌なこと思い出しちまったじゃねぇかッ!
「お前と一緒にするなよ!」
「図星ですか~?あなたは私と同じで理解者などいなかったのでしょう?」
「ははっ!」
俺は鼻でその指摘を笑った。
理解者などいない、確かにそうだな……今までもこれからもそういう奴は現れることなんてないのだろう。
だけど……生き方を否定しなかった奴はいたよ!
「いる……いたんだよ!こんな俺の生き方を肯定してくれた奴がなッ!!――だから何度でもいうぞ!お前と一緒にするな!!」
「――残念です……あなたが人でさえなければ、私はあなたと親友になれると思っていたのですが……」
「俺はお前となんか友達になんてなりたくないねッ!俺の親友はただ1人ッ!!――司だけだッ!!!」
会話で油断した所を狙って首のフォースを狙う。
イセルは反応が遅れているのか微動だにせず立っている。
フォースを俺の右手が掴んだ。
――とった!あとは譲渡と言えばッ!!
「――本当に、残念ですよ……」
「じょ――がッ!?」
刹那、イセルの手元がぶれ、瞬きした間に奴の右手は俺の首を掴んでいた。
言葉を発することもできない――俺はフォースを握る手が段々弱まっていく――
ノータイムであれほどの動きができるとは思わなかった!
まずい!サードで脱出を!!
――そう思った時には遅かった。
体からMPがごっそりと吸いだされる感覚に襲われ、頭が、ボーとする……
これでは転移もできない……
これが、フォースの吸収の力……か……
「終わりにしましょう……」
ひどくつまらなそうにイセルは自分の左手を強く握る。
その手を開くと神具ソハヤと同じ斬撃が出現する。
フォースは吸収だけでなく放出もできる。
俺が放った斬撃をそのまま返すつもりだ。
もがこうにも体に力が入らず、頭も回らない……
まずい……このままだと……
斬撃はイセルの手から放たれ、俺の首を切断しようと飛翔する。
――あ、死んだ……すまねぇ……司…………
そう思って目をつぶった時だった。
カンッという壁に反射したような音がなった。
再び俺が目を開けて目にした光景は、イセルの左手が切断されている光景だった。
「なぜ?私の……美しい――左手がぁぁぁぁ!!!」
イセルが発狂し、首をつかんでる右手で俺をぶん投げる。
数メートル飛ばされ、俺は受け身をとってダメージを減らした。
ゴロゴロと転がり建物の陰から出る一歩前で止まる。
痛みをこらえるように、イセルはのたうち回る。
――何が起こったんだ?
俺の体が止まった時に後方から話しかけられる。
「全く……君という奴は――助けるのは今回限りだぞ?」
「我が友の求めに従い、汝の敵を屠ろうではないかッ!!――このセリフ一度言ってみたかったんだよね!」
後ろを振り向くと日野さんと氷上さんがツールズをを構えて立っていた。
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