第32話 新たな……

「似合って……ると、思う……よ?」


「くふっ――お、お腹が――いたい」


「笑ってんじゃねぇよッ!」



俺はお土産屋の一角で、顔がばれないようなものを購入するためにいるのだが……

土産物屋の鏡で自分の姿を見る。


顔に遊園地のマスコットキャラを模した仮面……なのだが……

ピエロの帽子とメイクをしたパンダのようだが、顔が怖い……

はたから見たら完全に不審者だよな、これ子供泣かない?



「まぁいいや……顔を隠す目的は達したし、よしとするか」



会計を済ませ、土産物屋を後にする。


なんでほんとこんなことになってるんだろ……

百合に挟まりたくないのに、挟まれる男の気持ちも少しは考えてくれよ。



「あっ、私あっちのジェットコースター乗りたい!」


「単細胞だな、それしかレパートリーがないのかい?」


「何よ!」



このケンカップル、イチャイチャしないでほしいよ、全く……

俺は、歩きながら周囲を何となく眺める。


さっき俺が買った仮面の着ぐるみが、子供たちに風船を配ってる様子が目に入る。

あの見た目でよく子供たち泣かないなと感心していた時、その隣にいる場違いな男が目に入った。


背中に翼を生やし、白い衣をまとった、金髪のイケメンな男性、神宮寺とはまた違ったイケメンで、言うなればホストに近い印象を受けた。


俺はあいつをゲームの資料で見たことがある。

仮面越しに男と目が合った瞬間、底意地の悪そうな笑顔を向けられる。



「――なんであいつがここにいんだよ……」


「何か言ったかい?」


「悪い、俺トイレ行ってくる!」


「ちょ、鈴木君!?」



止める日野さんを無視して、俺はダッシュでその男に近づく。

――あいつが俺の知っている奴なら、まずいことになる……


案の定、俺の嫌な予感は、的中する。

男が拳を振り上げ、子供たちに殴りかかろうとする!


ふざけんなよッ!!



『走っても間に合わねぇッ!!――サード!認識ずらしと転移ッ!!』


『なるはやってことね!』



俺は男の目の前まで転移して、全力でタックルする。

――あいつごと、俺は建物の陰に突っ込む。


男を壁に押さえつけ、司から借りている神具ソハヤを首元に当てる。

司がもしものためって言って、神具ソハヤをを俺に貸してくれていたのは正解だったようだ。

――じゃなければ、こいつには対処できなかったろう。


ニヤニヤと薄気味悪い笑顔を男は向ける。



「おやおや、いきなり手痛い歓迎じゃあないか――殺したくなってくるねぇ?」


「――黙れよ、お前今何しようとした……子供に手出そうとしただろッ!答えろッ!!――イセル!!」


「やはり、私の名前も知っているか――やはり貴様、ただの醜いサルではないな!私が見えているということはホルダーだな!!――こんなところで早速見つけられるなんて、運も美しさもある私ってなんて罪深いお・と・こ」



ケラケラと耳障りな甲高い声で笑う。


こいつはイデアの愛人、そして……風間君を操っていた、張本人だ。

性格は見て分かる通りの人格破綻者、醜いものを殺すことが生きがいで、あっちの世界の魔族を何十人も殺している狂人だ。


決してこの世界には来ることができない異世界人、それが目の前にいる。


前回のモンスターの場合は特殊というか、知性を持っていないからできた荒業、サード以外の方法でやったら――まず頭が使い物にならないレベルにまで知能が下がるはずだが、こいつにその症状が見られない。

狂っているのはあっちの世界でも変わらないので、これがこいつの平常運転だ。



「貴様、人を殺したことがないだろう?手が震えているぞ?――ほ~ら、首を近づけちゃうぞ~」



イセルが自らの首をソハヤに食い込ませようとしたので、咄嗟に首元から神具ソハヤを離してしまった。


その隙を突き、イセルは俺を突き飛ばし、後方に下がる。

ニヤニヤとこちらを見透かすように


――こいつ、自分自身の首すらためらわずッ!イカレてやがる……

神具ソハヤをイセルに向ける。



「やはりな!あいつの言ったとおりだ!!――敵にまで情けをかけるとは実に美しい感情だが、それだけだ――なぜなら見た目は不細工だからな!なんだそのキモイ仮面は、貴様にはお似合いだな!!」


「お前の美しい基準なんで俺にはどうでもいい……それよりあいつとは誰だ?お前を送り込んできたやつか、目的はなんだ!」




「はい、実は……なんて話すわけないじゃ~ん」



アハハ!とこちらの精神を逆なでするように嘲笑する。

無言で俺は、神具ソハヤをフルスイングする。


斬撃が飛び、右手めがけて飛翔する。

手首ぐらいならあっちの世界の医療技術で助かるのは分かっている。

終わったら送り飛ばせばいい、殺さずに済ませるなら利き手を使い物にならなくするほかない……


敵だと分かっていても人を傷つけることには抵抗がある。

心にくるな……これ……


そんな俺の心配も無駄に終わる。


飛翔した斬撃は確かに微動だにしなかったイセルの右手に当たった……

当たったはず、なんだ……


奴の右手は今もなお、そこにはあった。



「なん、で……」


「そっちの攻撃終わった?じゃあ次は私からッ!!」



イセルは瞬きの間に俺と距離を詰めて、神具ソハヤに触れようとする。

狙いは神具か!



『サード!』


『もうやってぇる!』



神具ソハヤを俺の部屋まで転移させる。

手が届くギリギリで転移が間に合ってよかった。


イセルの手が空を切った。

だがそんなことは意にも返さないように、ニヤリと笑い、手を大きく広げた



「素晴らしいッ!!やはりこうでなくては!!――無様にあがく人間を絶望させ、じっくりと追い詰めていくこの感覚ッ!……くせになってしまいそうじゃないか?」



ゾワッと背筋に寒気が走る。


――なんだこいつ……

資料集で見た時より現実で見た方が何倍も気持ち悪いぞ……


あいつの顔を見たくなくて、視線を下げた時にとあるものが目についた。



「おまえ……それ――どこで手に入れた……」


「おや?やはり気が付くよね!――そう!これがある限り私は美しく、無敵だ!!――もとより私は美しいがな!!」



――あいつの軽口などうでもいい。

それより重要なのは首からぶら下げている、貝殻のアクセサリーの方が重要だ。


おいおい……嘘だろ?


なんでお前がナンバーシリーズのフォースを持ってるッ!!


ゲームでは一切出ず、設定資料集でしか見なかったナンバーシリーズ。


それが俺の目の前に――しかも最悪な相手に渡っていた……

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