第31話 なんでいるの?

俺は司たちから逃げ、建物の陰に逃げ込む。



「ここまで来れば、いいか……はぁ……疲れた」



壁にもたれかかり息を整える。

これでうまくいくだろ、全く兄妹そろって、感情表現が苦手すぎるんだよ。


……さて、俺の役目も終わったし、帰ると――



「見つけましたわよ!このナンパ男ッ!!――司様の妹はわたくしの妹同然!そんな方を泣かせてタダで済むと思っていますの!!」


「茨木、さん……ちょっと、休ませ、て」


「何故私まで、私は頭脳労働専門なんぞ……」


「お嬢様、往来ですのでお静かに、願います、です」



俺は声のした方に顔を向けるとそこには私服姿の茨木さんと柴田さん――そして日野さんと氷上さんがそこにはいた。


――なんでいるの?



「お前らなんでこの遊園地いるの?女子会?」


「何故、わたくしたちを知っていますの!?」


「いや、クラスメイトの顔くらい覚えて……ってそうか、今化粧してて分からないのか――俺だよ鈴木だ」


「「「えッ!」」」



茨木さん以外の3人が驚愕する。

3人が驚く中、茨木さんは首をかしげる。



「知りませんわよ!そんな人!!」


「覚えましょうよ!?昨日だってあってるでしょうがッ!!――ほら、司の隣にいたでしょう?」


「……あぁそんな人がいたような――印象薄くて忘れていましたわ……」


まじで司以外覚えてないのかこの人!



「えっ、本当に鈴木君?――別人にしか見えない……」


「あぁ……あのモブ顔がここまで化けるのか……」


「……僕も驚いてる、です」



やっぱ気づかれないもんなんだな、司にすら俺だってバレなかったし――

妹がすごすぎる……もしかしたら俺が想像していたよりすごいのでは……



「そんなことはどう~でもいいんですわ!そんなことよりこの男が泣かせた事実が重要なんですわ!!」


「いや、私たちも聞いてたけど、鈴木君は相談に乗ってるだけだったよ?何かひどいこと言ってたようには――」


「日野に同意するのは癪だが、この男は何もしていないな――むしろ気遣ってたくらいだ」



2人が俺を擁護してくれる。

擁護してくれるのはありがたいが……あの会話どこまで聞いてたんだ?

聞かれてた内容によっては口止めしなければならないが……



「聞いてたのか……どこから聞いてたんだ?」


「君の、好きな気持ちに優劣も――のあたりからだよ、私たちは座席が君たちに近かったからね、盗み聞きはよくないと思ったが……耳に入ってしまったのでな」



よし、肝心な部分は聞かれてないな、そこからなら聞かれていても問題ない内容なはずだ。



「それにしても、君――随分思い切った恋愛思考を持っているね、あの語り方だと傷つける覚悟さえあれば、誰でも傷つけて構わない……そう言っているようだったよ」


「あれは妹ちゃん専用の恋愛アドバイスだ――あの子は優しいから無差別に傷つけることなんてない、むしろ彼女は恋愛に対して引っ込み思案すぎるんだよ……優しすぎるから自分の気持ちを行動に移せないでいた、その背中を押すために言ったまでさ」



兄妹そろって誰も傷つけないために本当の気持ちは吐き出さない……

そのくせ俺には本音でしゃべる、似たもの兄妹だよ全く……


氷上は珍しく驚いた表情をする。



「――君、よく人を見てるな――バカのくせに……よほど恋愛経験豊富なのだろう?」


「そんなわけあるかよ……昔から恋愛相談には多くのってたから慣れてるだけだ、俺自体に恋愛経験はないよ」



――というか、今さらっとバカって言ったか?

妹ちゃんの次に口悪ないこいつ……


その時、茨木さんが目をキラリとさせる。



「なら!わたくしの恋愛相談にのってくださいまし!!――あなた司様の友人なのでしょう?それで泣かしたことはチャラにしてあげますわ!!」


「――なんで俺が、あんたに許しを請わないといけないんだよ……まずその人の話を聞かないのと自己中を直せ、司の一番苦手なタイプだからな?佐藤さんを見習え、佐藤さんを」


「そ、そんな……」



茨木さんはガクリとうなだれ、柴田さんが支える。


なんで昭和の少女漫画みたいな反応なんだよ……

髪も相まって親和性が高いな、おい――

 


「それより、お前らなんでここに?」


「私は茨木さんに今日の朝、無理やり連行されてきたから……」


「――同じく……」



――ってことはこのお嬢様の独断専行か……2人がかわいそうだよ。



「はっ!」



ショックから茨木さんは立ち直り、いつものビシッとした態度に戻る。



「そうでしたわ!こんな事をしている場合ではありません!!――司様を見守りませんと!!」


「ま、待ってくださいお嬢様~」



茨木さんは走って司たちのもとに向かい、それを柴田さんがこちらに一礼してから追いかける。


日野さんと氷上さん、そして俺が置き去りにされた……



「あの人何がしたかったんだろ?おかげで遊園地の入場料無料で入れたけど……」


「――きっと友達として、一緒に遊びたかったんじゃないの?ここで司さえ見つけなければ、だけどね……それにしても自己中だと思うが……」


「私もあのタイプは苦手だ……感謝はするが……」



悪いやつではないんだけどな……恋愛絡むとほんとポンコツすぎる。



「せっかくだし、2人で遊んだきたら?俺はバレる前に帰りたいし――」


「「絶対いやッ!」」



だから仲いいな、おい……



「氷上と2人きりなんて何言われるか分かったもんじゃないよ!」


「日野のバカに付き合っていたら、こっちだって疲れるね!」


「――なんか、ごめん」



 すぐ喧嘩する……ほんとこの2人は……

不意に日野さんが俺の手を引っ張る。



「氷上と2人で行くくらいなら、鈴木君と行く!」


「なッ!――わ、私だってそいつといこうと思っていたんだ!!――真似しないでくれるかな!?」



――何故巻き込まれる。

俺帰るっていったはずなんだけど……


百合カップルの間に挟まる男は死ぬんだよ?知ってる?

――全く、こいつら……


氷上さんにだけ聞こえるように小声でいう。



「あんたも日野さんに対してちょっとは素直になったら?――恋愛のアドバイス……あんたにも言えることだよ?」


「んッ!?――君!どこまで知ってッ!!」



氷上さんは顔を赤くし、珍しくうろたえた。

分かりやすいな……



「――何してるの2人とも?はやくいくよ!!」


「はいはい」


「ちょ、引っ張るな!この単細胞!!」



日野さんは俺と氷上さんの手を引っ張り、表通りに戻る。

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