第30話 好きな気持ち

もう最悪、疲れた……

あれから3時間しか経っていないが、疲労がすごい……


おにいたちは昼食のため、遊園地内のフードコートにいる。

私たちもバレないように席を離して、座っているけど……


私は机に突っ伏す、体が疲弊している。

こんなに疲れているのも……



「お待たせ、昼食と飲み物買ってきた!」



鈴木が笑顔でハンバーガーと飲み物を持ってくる。

ひったくるようにハンバーガーをとり、食べ始める。


――こいつが悪い。

鈴木が、あれこれもと、助けようとするのが悪いのよ。


行き先が分からなくなってる困っている外国人カップルに道を教えようと話しかけに行って、英語できなくてあたふたしてた。

私がスマホの音声機能使って翻訳して、それを外国人カップルに伝えた。


次に財布落として困ってる男性がいて、鈴木が財布を地道に探そうとしたので、落とし物センターの場所を私が教えた。


そしてついさっき子供が迷子だったから、子供を肩車して、その子の親を探そうとしたのを止めて、迷子センターへ連れてったばっかりだ。


何とか、おにいたちのアトラクションの待ち時間で解決できて見失わずに済んだけど……


――場合によっては見失ってた。


ほんと、この人考えなしだ。

助ける気持ちあっても行動が伴わなきゃ意味ないでしょうに……



「……はぁ」


「ため息つかないでよ……助けるの手伝ってくれたお礼に、ごはんおごったじゃん……」



本当にこいつは私の神経を逆なでする。

いや、それだけじゃないのだろう……

私がイライラしている理由は……


おにい達の方を見る。

2人はとても楽しそうに話しながら、昼食を食べている。

どう見ても付き合いたてのカップルのようにしか見えない……



「ほんと……お似合いの二人だよね……」



ぽろっと出た本音……分かってた、本当は分かってた。

2人が思いあっているなんて最初から……



「ほんと、何やってるんだろ……私――」


「好きな人が自分以外の女の子といる――だから嫉妬して気になる、あたり前の感情で行動だろ?間違ってないんじゃないか?」



――分かったようなことを鈴木が口にする。



「あんたに何がわかるの……こんな気持ち普通じゃない――血がつながった兄妹に恋心を抱いて……あたりまえの感情なわけないでしょ……」



なんでこいつにこんなこと話してるんだろ……

誰のも相談できなかったこの気持ちを……


鈴木は優しく微笑んだ。



「好きな気持ちに優劣も、普通や異常もないさ――ただその感情をどう行動に移すかじゃない?――行動次第で自分が好きな人を、周りを、そして自分すら傷つけることもあるかもしれない――必要なのはそれも全部ひっくるめて、思いを伝える覚悟があるか……ただそれだけじゃない?」



どうしてこいつは私をはげまそうとしているのだろう……

私は何度も傷つけることを言ったのに……


あなたを殺そうとしたことだって……



「でも、結婚や子供だって――」


「結婚や子供を作ることが恋愛の全てなの?確かにそれも1つの幸せだと思うし、否定はしない――けどそれだけがゴールじゃないと思うんだよ、2人で一緒にずっと思いあって、法的に認められていなくても、結婚や子供ができないとしても、ただ一緒に人生を共にする……そんな幸せがあってもいいんじゃないかな?」



どうして私を肯定してくれるのだろう……

友達にも否定されたこの気持ちを……




「だけど、こんな私じゃ……」


「こんなって自分で言うけどさ……妹ちゃんいい子じゃん――少なくとも、俺はいいところたくさん言えるぜ?――兄のために怒れる優しいところ、率先しておとりをかって出た勇気あるところ――朝だって、誰かも分からない奴を助けてくれた、俺がコーヒーカップにいるって言ったのを自分の意見曲げて信じてくれたこと――そして俺の人助けを手伝ってくれる面倒見の良さ、まだまだ言い足りないけど、ここ最近出会った俺がこんだけ言えるくらい、妹ちゃんは素敵な人だよ――だから自身持ちなよ!」



誰にも認めてくれなかった努力をこいつはどうして認めてくれるのだろう。


この人は最後まで私を絶対に否定しなかった……


なんで……

――気が付けば、私の頬には涙が止めどなくこぼれていた……



「あっ、ごめん泣かせるつもりは……俺のハンカチよかったら使――」



私がハンカチを受け取った瞬間、あいつは私の前からいなくなった。

――いや、脇から手が出て来て引っ張られた。


そういった方が正しかったかもしれない。


私は隣を見る。

――そこには、おにいが鈴木の襟をつかみあげ――鈴木の体を浮かせる光景だった。


なんで、おにいがここに!?

――いや、それよりもおにいの顔が今まで見たことないほど、怒りに染まっていた。

普段感情を表に出すことがないおにいがここまで感情的になるのを初めて見た……



「誰かは知らないけど……君さ――うちの大事な妹に、何したの?」



問い詰められても、鈴木は一切しゃべろうとしない。


なんで声を出さないの鈴木……

あんたが誤解だって、自分だって言えば済むじゃない、なんで……


おにいが襟を離し、鈴木を突き飛ばす。



「うせろ――」



鈴木は逃げるように走り去る。

おにいは走り去る鈴木に興味がなくなり私に向き直った。



「大丈夫か紬!怖かっただろ?何もされてない!」


「なん、で?おにいデート中だったんでしょ?――どうしてこっちきたの……」



おにいは大きくため息をついた。



「バカなの?――妹を守るのが兄の役目だよ、デートより大事に決まってるじゃないか?――家族なんだから」



何を当たり前のことを――とでもいうように、笑いかけてくれた。


あぁそうか……私、大事にされてたんだ。


今まで私に対して、興味がないと思っていた……

でもそうじゃなかった、感情表現が苦手なだけなんだ、この人は……


何年も一緒にいて、そんな当たり前のことにやっと気づけた。

あいつはそれに気づかせるためにわざと何も言わなかった……


そしておにいと私の邪魔にならないように、ここにいる事実を――

自分の存在をなかったことにしたんだ。


おにいは笑って、私に手を伸ばす



「ほら、せっかくだし、一緒に紬も回ろうよ――いいよね美鈴」


「えぇ一緒に周りましょう?紬ちゃん」


「――うん!」



おにいの手を取った……罪悪感はある。


デートを邪魔してしまった罪悪感が……

だけどそれすら飲み込む。


思いを伝えるなら傷つける覚悟、それが必要なんでしょ?


ハンカチをぎゅっと握りしめる。

その時、この場にいない鈴木の笑顔が頭をよぎった。


私を応援してくれて、肯定してくれたあいつの顔が……

――トクンと何故か胸が高鳴った……そんな気がした。


気のせい……絶対に気のせいよ……


――ありえない、あんなモブに胸が高鳴るなんて……


私が好きなのはおにいだけ、おにいだけなんだから……


顔が赤くなっているのもおにいと手を繋いでいるから、きっとそうに違いないと言い聞かせながら、3人で仲良く並んで歩く。

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