第29話 デート尾行
6月10日の朝9時、蓬莱町の若者がこぞって来る、蓬莱遊園地に二人の男女が訪れる。
男は半袖無地のTシャツに紺のパーカー、いつもの長い前髪をあげている中性的な顔だちの美少年が時乃司――女性の方はベージュのワンピース、ショートの髪を巻いて普段フワフワしている雰囲気をさらに強調させている美少女、佐藤美鈴
はたから見たらカップルに見えるその2人を後ろから尾行する女がいた。
そう……私、時乃紬です。
やばい、おにいイケメンすぎ!
いつもかっこいいけど更にイケメンッ!!
美鈴姉もかわいい!
写真に収めたいくらいかわいい!!
写真をとろうと壁から身を乗り出そうとした時、不意におにいがこちらの方を見ようと振り向いた――私は慌てて隠れる。
――危ない危ない……ばれるところだった。
「――?どうしたの?」
「いや、なんか視線感じてさ――それじゃあ行こうか」
2人は手をつなぎ、遊園地のゲートを通る。
――私はようやく物陰から出られた。
「……やっぱ……そういう関係ってことだよね………いや!まだ分からないし!!」
あの2人が仲いいことは昔から知っていた。
だけど、それは幼馴染として仲良くしているだけ……
――だけのはず……
「それより、合流するって言ったのにあいつまだ来ないじゃない!」
合流する予定の奴は、おにいの最近できた友人で、鈴木とかいう前世からおにいに付きまとっているキモイ男。
私がおにい好きなこともばれているので、あんなのでも何かの役に立つはず――
そう思ったから、おにいたちに尾行に連れて、来るつもりだったのだが――
今だにそれらしい人影はない。
どうせ、また助ける人が――とか偽善活動をしているのだろう。
ふと周りを見渡した時、1か所に人だかりができている事に気づく。
女性が多く集まっているようだけど……何かイベントでもあったのかな?
遊園地内ならすぐおにいを見つけられるので、気になったさっきの集団に近づいてみた。
どうやら男性1人に女性が群がっているようだ。
「お兄さん1人?私たちと遊ばない?」
「い、いえ!あ、あの、ひ、人を……待っているので……」
「えぇやだ!見た目クール系なのにおどおどしててかわいい」
「ねぇダメ?お姉さんと行こうよ」
男はタジタジでいかにも女性になれてない雰囲気だ。
なんだ、ただの逆ナンか……時間無駄にした。
その場を去ろうとした時、私と男の目が合った。
男はパァと明るくなり、救われたような笑顔になる。
えっ、なに?怖い……
男は女性に触れないよう最新の注意を払いながらこちらに向かってくる。
「待たせてごめん!!」
「なんだ、彼女連れだったの……残念」
女たちは残念がり、くもの子をちらすように去っていく。
この男……私を明らかに女性よけに使ったわね……
「はぁ……女性たち去りましたから、あなたも見知らぬ人を女性よけに使わないでくださいね?それじゃ――」
「えっ、ちょ、ちょっと!呼び出しといてひどくない?」
呼び出した?この人は何を言っているのだろうか?
男を再びよく見る。
青のカーディガンに白いシャツ、黒いズボンの平均的な身長。
顔は作り物でできたような顔だち、髪もワックスで小綺麗にヘアセットされている。
いかにも女性受けはしそうな男性だ。
私にこんな知り合いはいない……
「すみません……どちら様でしょうか?」
「ひどッ!いくら嫌いだからってそこまでッ!?」
男性は肩を落とし、うなだれる。
本当に知り合い?いやでも覚えがない……誰……?
「俺だよッ!鈴木だよッ!!」
「――は?」
目の前にいるのがあの鈴木?
あのザ・モブを絵に描いたような男が?
――ありえない……
「あんたその格好どうしたのよ?」
「妹に頼んで、色々してもらったんだよ、カラコンとか初めて付けたよ……化粧もあんな時間かかるんだな、朝4時おきだったわ、そりゃ女性も来るのに時間かかるよな――兄者は化粧映えする顔だとかなんとか言ってたが、知り合いにばれないレベルで変われるんだな俺、これで隠密もばっちりだな!」
鈴木がサムズアップする。
その笑顔に周りの女性たちがキャーキャー叫んでいるのが聞こえる。
――いや化粧映えとかそういうレベル?
あんたの妹さん何者よ……
「気合入りすぎてキモイ……」
「辛らつ!?」
この反応で鈴木だってことがようやく認識できた。
まぁいいや、こいつのことはどうでもいい……
それより、おにいたちを見失う。
「ほら、さっさといくわよ!あんたのせいで時間食ったんだから!!」
「わ、わかった!あっ!!――それと似合ってるねその服」
走り出そうとするといきなり服を褒められた。
「どこ見てんの……きっも……」
「素直な感想言っただけなのにッ!?」
入場券を買い、ゲートをくぐる。
おにいの好きなのはジェットコースター
――なら最初ジェットコースターのエリアにいるはず……
「ジェットコースターに向かうわよ!」
「――いや、多分司たちならコーヒーカップエリアにいるぞ?」
――鈴木を睨む。
何?私より分かってるアピール?
「うっざ!いなかったらあんた今日の昼おごりなさいよ!!」
「わ、分かった……おごるからそんな睨まないでくれよ……」
私たちはコーヒーカップエリアに向かう。
あたってなかったら文句言って、散々なじってやる!
――そしてコーヒーカップエリアに来るとおにいと美鈴姉がコーヒーカップに乗り、楽しそうにしてた。
「あ、当たってる……なんで!?」
「いや、確かに司だけで来たらジェットコースターだろうけど――誰かと来てるなら相手に合わせると思ったんだよ……」
あっ、そうだ……美鈴姉絶叫系が苦手だった。
……でも、なんでこいつが知ってるの?
ジト目で鈴木を見る。
「あんた美鈴姉のストーカー?」
「違うからなッ!そういう話を司がしてたの覚えてただけだ!!」
あやしい……
だけど、こいつに構ってる余裕はない。
おにいたちも発見できたし、これで尾行できる!
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