第28話 家族

俺は残った女子達の方を見る。

日野さんはまだ怯え、俯いているが……

――妹ちゃんと氷上さんの二人は平然としている。


いや、平然としすぎてるといった方がいいかもしれない。



「一応確認だけど、何かされなかった?」


「はぁ……バカじゃないの?おにいの作戦ぶち壊しじゃない!」


「作戦が無駄になったね……やはり、日野と同等のバカか……」


「それどういう意味よ!」


「えっと……どういうこと?」



――まるで意味が分からんぞ。

司の作戦?――何も聞いてないんだが……


ため息をつきながら氷上さんは話してくれた。

――つまりこういうことらしい。


司は3日前からこのことを危惧しており、いじめの証拠集めのため、あいつを泳がせておいた。


物を壊させたり破いたりさせたのもわざと――壊されていいものを見つかりやすい場所において、壊させ、証拠とする。


ただこれでは証拠として弱い……

だからこそ、今回の待ち伏せを映像として残し、決定的な物としたかったらしい。


だから俺が放課後3人についていくの止められたのか……司が何故か俺を引き留めて、3人を見失うまで時間を稼いでいたってわけだな……



「えっ、でも私何も聞かされて――」


「俺もなんだけど……」


「バカな君たち2人に話したら顔に出るだろ?だからあえて話さなかったのわからないかい?」



氷上さんが嘲るように言い、日野さんがそれに突っかかっていった――氷上さんは後退しながら、2人で帰っていく。


残ったのは妹ちゃんと俺だけになった。

妹ちゃんの方を見る。



「いやでも……こんなおとりみたいな方法、危な――」


「――あのね?私たちはツールズ使えば、どうとでもなるの忘れてない?おにいがそこを配慮しないわけないじゃない――ほんとバカね?」



妹ちゃんが被せるように言葉を遮る。

そうでしたね……つまり俺はボコられ損ってわけか……

妹ちゃんは俺に近づき耳打ちする。



「でも、助けようとしてくれたことには感謝するわ……ありがとう」



俺はバッと妹ちゃんから距離をとった。

近い、近いよ!


キスした時ほどでもないが顔が熱くなってるのがわかる。



「どんだけ女子に免疫ないのよ――顔真っ赤だし……きっも……」



妹ちゃんはバカにしたように笑い、それだけ言うとその場を立ち去る。


俺は地面に倒れこむ。


童貞には刺激が強いんだよ!

まだ耳元がざわざわしてる……



「ボコられ損……ってわけでもなかったか……」



全く単純だなと自分でも思った。




□□□




「ただいま~」


「兄者、お帰りなさいでござる」



俺が帰ると結が私服にエプロン姿で出迎えてくれる。


「今日は部活なかったのか?」


「被服部が休みでござったからな、今日は腕によりをかけて拙者が作るでござるよ!」


「それは楽しみだな」



ほんと我が妹は将来いいお嫁さんになるよ。

結がリビングの方にちょうど戻っていった際――

ピロンっと突然通知音が鳴る。


スマホを見ると――どうやら妹ちゃんからのようだ。

不意に俺は耳を触ってしまう。


――意識しすぎだな……俺はスマホを開く。



「えっと内容は――んッ!?」



トーク画面には……


【明日おにいが美鈴姉とデートするから私も尾行する、あんたもついてきなさい】


――ってことが書いてあった。


いやお断りしますけど?

何が悲しくて友人のデート見なきゃならんのだ……


断ろうと文字を打ち込もうとしたとき、追加で妹ちゃんからメッセージが送られてきた。


【断ったら、あんたに無理やりキスされたっておにいに言うから】


――拒否権ないじゃないですかッ!!

今まで売った文字を消し、了解とメッセージを送った。



「どうしよう……」


「どうしたでござるか?玄関先にずっと立っているようでござるが――」



結がリビングの扉から顔をひょこっとのぞかせる。

我が妹ながら、かわいいと思ってしまった。



「今メッセージ来て、明日ちょっと友人と出かけることになってな――」


「もしかして先週の美人さんとでござるか!――2人でござるかッ!デートなのでござるかッ!!」



興奮気味に俺に近づく結、ほんとなんで妹ちゃん絡むとこんなテンション高いんだ?



「確かに2人……かな?――だけど前も言ったろ?俺じゃない好きな人がいるって……」


「BSSでござるか!僕が先に好きだったのにでありますか!!――そんなもの寝取り返してしまえばいいんですよ兄者!!」


「何を言ってるんだお前はッ!?」



リアルでそんなもんできるわけないだろ!?


妹よ……ネットに毒されすぎだ……



「と、とにかく、明日俺は外に出るから――」


「――おっと逃がさないでござるよ、明日のデートを完璧にするため!拙者が兄者を大改造するでござるよ!!」


自分の部屋に戻ろうとすると結に両手で肩をつかまれる。

ち、近い……そして圧が――圧が強い!



「わ、分かった、分かったから!何しようとしてるか分かんないけどおまかせするから、まず離れてッ!」



俺は肩から結の手をどけて、とりあえず家に上がる。



「全く……まぁでもありがとうな結、心配してくれて」



俺は結の頭をなでる。

それを黙って素直に受け入れてくれる。



「――変わりましたな……兄者……いい意味で……」


「そうか?自分では気づかないが――」



頭をなでながら、考える。


あっちの世界とこっちの世界でやってることはほぼ変わらないはずなんだがな……



「――以前の兄者なら、拙者の話を真面目に聞いてはくれなかったでござるよ……あの頃から兄者は変わってしまったでござるからな……今は昔の優しい兄者に戻ったでござるよ」


「あぁ……そういうことね……」



そうだ、確かに違う点はあった。

俺と司が出会わなかったから起きた弊害――


こっちの世界の俺は、助けることをやめた世界の俺だ……


とあることがきっかけで助けること、人と関わる事を恐れ、誰とも友人にならなかった――家族でさえ、最低限の会話しかせず、代り映えしない毎日を過ごし、後ろ向きな生き方をしていたのかもしれない。


俺も司に出会わなければそうなっていた、ということだろ。

――司があの時、肯定してくれたから今の俺がいる。


だから俺は今でも前だけ向いていられるんだ。


俺はなでる手を止め、結を正面から見る。



「結?……これからは色々話そうぜ?今まで話せなかった分さ……くだらないことでも学校の話題でも何でもいい、俺は結に話しかけ続けるよ……うざいなと思ったら離れてくれて構わない、俺が今までそうして会話を拒んできたんだからさ――それくらい甘んじて受け入れるよ」



「いいのでござるか!拙者は話が長いでござるよ?覚悟はいいでござるか?――あと兄者を無視する?それこそあり得ないでござるよ、家族なんでござるから……たとえ拙者がこの家を出て、距離が離れたとしても、こちらから話しかけ続けるでござるよ――それこそ兄者がうんざりするくらいに……」



結を見ると自信に満ちた、満面の笑みだった。

――ほんと、俺はいい妹を持ったもんだよ……



「さて、兄者も来たことでござるし、夕飯作り急ぐでありますよ!――父と母は遅いでござるから、先に食べていようでござる」


「なら俺も手伝うよ――」



リビングに俺と結は向かう。

その日一緒に作ったカレーライスはいつもよりおいしいと感じた。

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