第50話 サードちゃんの憂鬱
白い部屋、ワタシの領域、ワタシの空間。
そこに外の様子が映し出されている。
妹ちゃんに怒られる間抜けな主人公様の姿がね。
「あはは、妹ちゃんに怒られてぇやんのぉ、あのぉ主人公!やーいやーい!!」
「……おぬしの主も怒られておるがな?」
セカンドちゃん?主はいいんだよ?
ムカつくやつが嫌な目にあってればそれでいいのよ。
「負けた腹いせに笑っただけじゃない?それとも、柄にもなく主が笑われるのは気に食わない?」
「あの小僧のことはどうだっていい――だが、サード……お前に対して疑問がある」
疑問?何かな?
ワタシにおかしなところあった?
「サード、貴様……わざと負けただろう……」
「――さぁてね?何の事かなぁ?」
「とぼけるか……腹黒め、貴様の強さはよく知っている――だからこそ、貴様がただの天才なだけの小僧ごときに負けるわけがない」
おやおや、そこまでワタシを買いかぶってくれてるんだ?
でもでも、ワタシただの転移出来るだけのツールズよ?
「セカンドちゃん?強いってぇ、ワタシがぁ?……勘違いじゃぁない、だってぇワタシは――」
「能力が弱いから――などと戯言をぬかすなよ。能力の使い方の1割も教えず、弱者を演じるならそれもいいだろう。だが、同じナンバーシリーズにそれが通じると思うな。大方、主の不安を代わりに吐き出して、周知させるのが目的だったのだろう?――もう一度問うぞ?貴様はわざと負けたな」
ありゃりゃ、セカンドちゃん怒ってる?
さすがにはぐらかし続けるのも無理があるか……
仕方ない。
「そうですぅよ~だ。暴走したフリしてぇ、わざとぉ負けてあげましたぁ主のためぇにしたことですぅ反省してまぁす――これで満足?」
「なおさら解せんな、腹黒の貴様とあの正直者を絵に描いた直情的な小僧――そりが合うようには見えんが……どうしてそこまであの主に尽くす」
どうして……か、あなたには一生分かんないでしょうね。
世界を変えるものばかりに選ばれ続ける、あんたなんかには――
「べっつに?今までの契約者の中じゃ一番ましだった……たったそれだけの理由かもよ?」
「――あぁ、確かに貴様の前の契約者共はそろいもそろってクズな性格だったな――それではあやつが眩しく見えよう」
クズって……まぁ否定はしないけどさ?
どうにもワタシには契約者を見る目がないらしく、そういう奴らばっかりだったから分からなくもない――だけど……それで納得するのもどうなの?
「疑問は晴れた、我は帰る」
「もうちょっとゆっくりしてけばいいのに、相変わらず愛想がないわね?誰に似たのかしら?」
「貴様もあの契約者に似てきておるぞ?我は知識の収集で忙しいのだ。――新たな知識を献上するのなら、その時は話し相手くらいにはなってやろう」
そう言って、セカンドからの通信はきれた。
相変わらずの知識収集の鬼っぷりね?
気に入ってる……か、あながち間違いじゃないかも?
基本気に入らない契約者はそそのかして、能力使う許可出させて海に沈めてみたり、土の中に転移させてみたりとか、契約するのは暇つぶしのため――ワタシ、とんでもなく性格悪いしね?
今回契約したのも暇つぶしだったはずなんだけど……なんでだろう、今は主のためならなんでもしてあげたくなっちゃうのよね?
ツールズであるワタシを物扱いではなく、同じ人間のように見てくれる彼に情が移ったのかもしれない。
主の事は人として好きだとは思うんだけど……恋人関係の好きって言うより母性?――なのか知らないけどワタシがいないとダメって感じがするのよ。
実際、主は優しいだけのただの一般人、むしろ誰かを助けたいというその気持ち1つだけで、よくここまでやれているとほめてもいいくらいだと思う。
そんな優しい主も今回の件で潰れそうだった。
強さが欲しい、もっと強さを!と追い求め、魔具ライオスに手を出した。
使った代償でマナ暴走を起こし、体が弾けて契約も終了、それで終わり――前のワタシだったら、そんな主は見限っていた。
でも……手を貸してしまった、この契約を続けたいと思ってしまったんだ。
主に成り代わり、嘘をつき、主を演じて、感情を吐き出させる。
そうやって周りの奴にSOSを送った。
主が言ってるようにふるまい、より助けたくなるように……
だから主人公をボコボコにしたのも私怨じゃないのよ?
えぇ、私怨じゃないですとも!別にあのすかした天才が気に入らないからって理由じゃ決してないからね!!
ある程度したら引くつもりだったのに、まさか神具リースまで出してくるとは思わなかった。
結局大立ち回りして、退場せざるをえなくなったし……ほんと、あいつ余計なことしかしない。
まぁ相棒って主が呼んでくれたから、許してあげるけどさ?
これから、戦いは苛烈を極めていくだろう――その中でワタシは主に何をしてあげられるだろうか?
そんなもの決まってる。
誰かを助けるために彼は動き続けるなら、ワタシは能力と噓という名の武器で一緒に戦ってあげることだけだ。
嘘も虚偽もワタシの味方、周りが彼を偽善者と呼ぶなら、ワタシが偽りの部分を背負う。
そしたら彼は善人でいられるのだから……
平凡で平均的、普通で凡人、そして……世界一優しいワタシの主様。
あなたを主人公にさせるって願い、諦めたわけじゃないんだよ?
だって物語の主人公は、いつだって……
どこにでもいる普通で平凡な、誰よりも優しい人だって相場が決まってるんだから。
白い部屋でワタシは待ち続ける。
いつの日か彼が主人公になることを願って……
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