第51話 肝試し
時刻は進み、7月2日の夕方。
あれから色々あった……
大浴場に茨木兄が興奮状態で突入してきたり、お昼に作られた茨木さんの料理の1つで司が帰らぬ人になりかけたり――ほんと、色々とね。
司の看病とか、していたら時間がたつのもあっという間で、もう夕方だ。
食堂で夕食をとりながら、みんなと談笑する。
「皆さん!楽しんでいるようでなによりですわ!!――ですが悲しいお知らせをしなくてはなりませんわ……」
お知らせ?なんだろう。
茨木さんのいつもの元気がないところを見ると、そうとう深刻だと思うけど――
「この度、近くで天災などが起こり、別荘での長期の宿泊は困難となったため――今日が最後の宿泊となりましたわ……」
「あぁ、そういうことか」
確か、記憶改ざんで俺たちの戦闘はそういう風に処理されたんだっけか?
あれのせいで宿泊もキャンセルか、妥当と言えば妥当かな。
むしろ最初から拉致られてるし、天災があろうとなかろうとそういうの気にしない人だと思ってたけど、意外と考えてるんだな。
「ですので!今夜この夏での別荘、最後の思い出作りに肝試しを開催させていただきますわ!!」
「「「「「肝試し?」」」」」
そこは花火じゃないのか?
よくある夏の定番はそれだと思うんだが……
みんなも俺と同じ感想なのか、首をかしげる。
「これで司様との距離を……」
小声で茨木さんは小声でボソッと呟く。
そういう魂胆か……司も大変だな……
一応聞いとくか?
「茨木さん、質問いい?」
「えぇ、いいですわよ!――えっと、モブ木さん!!」
惜しい!語感は似てるからもう少しだね。
いや、そうじゃなくてだな!!
「肝試しって一人一人行くのか?それともペアかグループか?」
「もっちろんペアですわ!柴田、例の物を!!」
「承知しました」
柴田さんが何やら四角い箱を持ってくる。
一か所が穴が開いており、中には紙が複数枚入っているようだ。
抽選箱か、これ……
「中には男性陣の名前と記号が書かれた紙が入ってますわ!女性陣がこの中から1枚引き、書いてある紙の男子と組むのですわ!!――ちなみに記号を引いた場合、女性陣と当たるようになっていますのであしからず」
確かにこれなら平等だな。
茨木さんの事だから、ワタシは司様とペアですわ!
――とか言い出すと思っていたけど、杞憂だったな。
司が何やら考え込んでるようだけど、どうした?
気になることでもあるのか?
「ちょっと、失礼」
「つ、司様!?ちょ、やめ――」
箱から紙を机にバサバサとすべて出す。
司が箱に手を入れたかと思うと、中からべりべりと言う音がした。
次に司が手を出すと一枚の紙が出てくる。
広げてみせると中には時乃司と書かれた紙が……
何か小細工してやがったな!!
「内側にテープで僕の紙を張って置いたわけね。こんな事だと思ったよ、みんな機会は平等――いいね?」
「は、はい……」
一応箱は俺が持ち、不正が出来ないよう中に入れなおした。
抽選の結果、以下の通りにペアが決まった。
時乃兄妹ペア、俺と佐藤さんペア、茨木兄と柴田さんペア、これで男性陣は全てだ。
残るは茨木さんと飯塚さんの主従交換ペア、日野さん氷上さんの幼馴染ペアの合計5組に決定した。
茨木さんは、かなりショック受けてたみたいだけど、こればっかりは運だからしょうがない。
俺だってあんまり話したことない佐藤さんとだぞ?
嫌ってわけじゃないむしろ美少女とペアなんてそうそう出来ない経験だ。
だけど何話していいか分かんないしな……
そんなことを考えながら食事を終えて、別荘の近くの林に集合した。
どうやらこの先に神社があるらしく、そこにお参りして帰ってくればゴールらしい。
先に時乃兄妹が行くらしく、俺は頑張れの意味も込めて妹ちゃんにサムズアップすると中指立てられた。
応援しただけなのに……
次にうるさく茨木兄と柴田さんが向かった。
その人の対処大変だろうけど頑張れ柴田さん!
今度はケンカップルのお2人がどっちが先に着くかでダッシュで向かっていく。
雰囲気も何もあったもんじゃないなあの2人……
茨木さんペアは時乃兄妹向かったあとすぐに消えてったし、今いるのは佐藤さんと俺だけだ。
「じゃあ、時間もたちましたそろそろ向かいますか?」
「そうね、行きましょうか」
俺たちはゆっくりと林の中に入っていく。
躓きそうなところをさけて、草木を先に分けておき、危ないところは佐藤さんに手を貸して進む。
「あらあら、女の子のエスコート慣れてるのね?見た目によらずプレイボーイさんなのかしら?」
「妹がいるんでそのノリで手貸してしまったんですけど――ご迷惑でしたか?」
「いいえ、そんなことないわよ?妹思いの優しいお兄ちゃんなのね」
順調に進み、多分神社まであと半分くらいだ。
それにしてもなんでこんなに獣道なんだろう?
あえて危ないところいくことで吊り橋効果でも狙ってるのか?
「そういえば今更ですけどすみませんね、ペアが司じゃなく、俺なんかで――」
「あらあら、そんなことないわ、あなたとはゆっくり話してみたかったし。それに――あなたの方が、紬ちゃんと一緒になれなくて、本当は残念だと思ってるんじゃないの?」
ゆっくり振り返るといつもの優しい佐藤さんの笑顔が少し怖く見えた。
なんか俺地雷踏んだ?
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