第45話 親友と呼ぶな

「お前が……お前なんかが!!この人を親友と呼ぶなぁぁぁッ!!!!」



そう言って、守に似た奴は叫んで僕に襲い掛かってきた。


守に似た奴が叫んだ次の瞬間、頬に痛みが走り、僕の体は宙を浮く、数メートル吹っ飛び、砂浜を背中でスライディングすることになる。


砂のおかげでダメージは少ないが、僕ですら反応出来ずに殴ることなんて、守じゃ絶対できない芸当だ。



「おにい!?――ちょっとあんた!!」


「今のそいつに近づくな!危険だぞ!!」



そう言って僕は注意したが、守に似た奴は近づいて胸倉を掴む紬に手を出す気配がない。

何度も紬が守に似た奴を殴っているが意に返さないように無反応だった。

紬もさすがに不気味に思ったのか、守に似た奴からゆっくりと距離をとる。



「な、なんで何もやり返してこないのよ……」


「――この人の友達に手を出すわけないじゃん?」



友達には……か、だとしたら僕はなんなんだろうね。

守に似た奴が振り返り、僕を指さす。



「だけどお前はダメだッ!!」


「僕も守の友達なんだけど?」


「お前みたいなクズがこの人の友達ぃ?利用してるの間違いでしょッ!!」



転移で僕の目の前に現れ、腹に蹴りを入れられる。

呼吸ができないくらい強力な一撃だった。


その瞳は僕に対して憎悪しかなかった。

誰でもいいわけではない、僕にだけだ。



「やめて鈴木君!」


「今の君はおかしいぞ!!」



僕をかばうように日野さんと氷上さんが前に立つ。

するとスッと守に似た奴は足を引いた。


やっぱり僕意外には憎悪がない……

でもなんで僕だけ――



「――ねぇ、なんで?……なんでなの?――なんで、この人じゃなくてそいつなの!!体張ってあんたら助けたのもこの人なのに!!どうして後ろから指示しか出さないそいつばっかかばうのさ!!!」



守に似た奴が片手を自分の胸に当てながら、2人に問いかける。

2人は守の姿で問い詰められたがために答えられず、押し黙ってしまう。

守に似た奴は瞳に涙を溜めながら僕を睨む。


こいつが怒ってるのは全部守に対してだ。

どうして、こいつは乗っ取ってる守のことを……

答えが出そうで出ないもどかしいこの感覚、この違和感はなんだ――



「全部、全部ッ!!お前のせいだッ!!!」



守に似た奴のその言葉を聞いた瞬間、1回目の世界線の記憶が脳裏によぎった。

憎悪に満ちて僕にこの言葉をずっと言い続けた人――


いや……ツールズがいた。


そいつは……



「まさか……サードか?」


「ワタシには気づくんだね?主の不安な気持ちには気づかないくせに!――そういう所ほんとぉ大っ嫌いだよ!!」



守の姿でサードの独特の言い回しで叫ぶ、主のために……

だが、どうしてサードが守の姿をしてる?



「なんでサードが……それよりも守の体かそれ!守の意識はあるの!!」


「ワタシが主の事ぞんざいに扱うわけないじゃない!魂も体も全部、丁重に扱ってるしぃ!!――あんたなんかとぉ違ってね!!!」



どうやら無事でいるようだ。

サードが守を不当に扱うわけがないと分かっているが、だけど今のサードは不安定で暴走しているように見える。


もしかしてこれが守の言ってた博物館で起きるはずだった暴走なのか、でもなんでこのタイミングで!

いや、今はそれよりも……



「守の体ならなおさらやめなよ!こんなこと守が望むはず――」


「――お前がこの人をッ!語るなぁッ!!!」



僕が引き寄せられるように転移して胸倉を掴まれる。

近くで見ると守が泣いてるようにしか見えなかった。

まるで主の代わりに泣いてるかのように――



「分かってるよぉッ!優しいこの人がこんな事望まないことくらいッ!!だからこれからやること全てワタシが責任を取る!罪も罰もワタシが全て受ける!!この人が助かるのならワタシは……どんなことだって!」



僕はこの時、サードは昔の守によく似ているとそう思った。


誰かのために自分を傷つけることに躊躇がないところとかさ?

だから言ってやる、そんな行為は……



「――間違ってる」


「あ゛?」



サードの握る力と怒気が増す。

まずい……憎悪がさっきの比じゃない……


だが、そう言うしかなかった。

サードは……いや、2人の自己犠牲を何とも思わない、その考えは間違っているとッ!!



「やっぱお前、最高にむかつく……安心しなよ、あんたの代わりにこの人が――この世界の主人公になってあげるからさ!!」



急に周りの温度が下がったような気がする。

肌がざわざわと警戒のアラートを鳴らす。

まるでこれは……博物館の時に出会った魔王出現の時の――



「見せてあげるよ……魔具ライネスの力で作った魔術!その一端をッ!!」



サードが小声でブツブツと何かの呪文を口にすると守の右手がドンドンと異形の姿へと変化していく――肌は黒く変色し、硬い鱗のようなものが覆い、爪は獣のようぬ鋭い、この世のどんな物よりおぞましく、見ているだけで気持ち悪くなる。



「この魔術にまだ名前を付けてないんだ。だけどあえて言うなら……」



その右手を僕はつい最近見たことがある。

だってその異形の手はまさしく――



「――魔王の……右手」


博物館で倒した魔王の右手に酷似していた。

サードは汚物を見るような目で僕を見る。



「――へぇ、ワタシもそう名付けるつもりだったけどやめようかな?あんたのネーミングセンスと被るなんて屈辱だし、ねッ!!」


「しまッ!?」


「おにい!」


僕の体を海に核弾頭のごとく投げられ、水面に叩きつけられる。

海の中に落ちる前、最後に見た光景は、サードが魔王の右手を変化させ、

爪が僕を刺し殺さんと伸ばしている姿だった。


死んで海の底に沈むのを覚悟した……




だが、そうはならなかった。



水に落ちた瞬間景色が切り替わり、砂浜に戻っていた。

サードが目の前にいるわけでもなく、紬たち3人の側に安全に転移している。


転移はサードの能力、なら僕を助けるために発動するわけがない。

だとしたらこれは――



「なん、で?――ワタシは能力なんて発動してない!?」



サードは動揺を隠しきれず、左のポケットから急いでツールズを取り出した。

取り出したのは透明な宝玉、つまりサードの元の本体だ。



「もしかして……主が、助けたの?――どうして、どうして、どうして、どうして、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違うッ!!!!!」



サードが半狂乱状態になった瞬間、守の周囲が燃えだし火柱で守の姿が見えなくなってしまう。


火柱に包まれる光景を見たその姿を最後にサードたちがこちらに干渉してくることはなかった。


パチパチと燃える音だけがこの砂浜に鳴り響いている。

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