第46話 優しさだけで手に入らない物

サードたちが引きこもって数分経った。

僕たちは火柱から少し離れて様子をうかがっている。

その間4人は終始無言、誰も一言も発しない、長く続いた無言を破ったのは――紬だった。



「おにい……あいつに、一体何があったっていうの?」


「分からない……ただ言えるのは、守が自分のツールズに体を乗っ取られてるってことだけだよ」



不安そうに僕の手を握る紬、それを優しく握り返す。


どうしてこうなったのかとか、どういう能力で体を入れ替えたのかとかは僕にはわからない、だけど今のままでいいとは思えない――サードは主の不安に僕が気付いていないといった。


たしかにナナシに会ってからどこか焦ってるようには見えた。

だけど、僕は自分の事を優先して、守にまで気が回らなかったんだ。


大丈夫、守なら立ち直れると――打たれ強い僕の親友なら焦って失敗したとしてもそれをバネに頑張れる、そう思っていた……

――でも、そうはならなかった。


だからこんな風にサードを通じて、不安が表に出てきたのだろう。


なら、その不安を取り除くのは僕の役目だろう。

だって僕は――守の親友なんだからッ!!



「ねぇみんな、僕に力を貸してくれないか……守を――助けるために」



□□□




火柱が赤く燃える、その中心に体育座りをしながらワタシは本体を見つめる。

この中には主の魂が入っている。

あいつを助けた転移……ワタシが使ってないとするとそんなことできるのはこの中にいる主だけだ……



「ねぇ?なんでぇ止めたのさぁ……」


『止めるに決まってるだろう!!――お前が殺人犯になるところだったんだぞッ!!?』



本体から主の声が聞こえる。

その姿になっても心配するのは自分の事じゃなくてワタシのことなんだ……

やっぱり優しいね主は……だからこの人のためにも――



「体勝手に奪っちゃってごめんねぇ――大丈夫だよぉ主……ワタシがあいつ殺して、あなたを助けるぅから……」


『そうじゃねぇッ!俺の体を乗っ取ったことなんてどうでもいいッ!!司を殺すのをやめろっていってんだッ!そんなことしても俺が助かるわけないだろう!!』



やっぱり自分の事はやっぱり後回しにするんだね……

――助からない?本当にそう思ってる?



「なら、なんで主は泣いてたのぉ?不安だったのぉ?――自分さえ我慢すればみんな笑ってられると信じてぇ、その結果が手柄全部あいつに奪われてるぅ今の現状?そんなの間違ってるでしょッ!!」


『間違ってなんかない!俺の感情何てどうでも――」



「どうでもよくないよッ!!」



話はどこまでいっても平行線だった。

どんなにワタシが主のことを心配しても、主自体が自分を傷つけることに躊躇がない、それじゃ今までのあいつに奪われてく日々の繰り返しだ。


そんな主を、潰れていく彼をワタシは……見ていられない――



「ワタシは主の優しいところ好きだよぉ――でも、優しさだけじゃ何もぉ手に入んないんだよぉ……主が出来ないのなら、ワタシがやる」


『おいッ!!ちょっとま――』



本体との会話のテレパスを無理やり切った。

大丈夫、全部ワタシが全部終わらせるから……


会話を終わらせた途端、火柱が何かに吸い込まれるように消え失せた。

ワタシは能力を解除していない、なら誰がそんなことやったのかなんて明白だった。


火柱が消えた、その先には男が1人で立っていた。

首からフォースをぶら下げて――



「よう親友、助けに来たよ」


「来たか、ヒーロー気取り」



フォースを持っているってことはあの子たちから譲り受けたってことだろう。

他にも神具グングニル、神具ミュルニル、魔具グレイプニル、神具ヤールンをフル装備で身に着けている。


認めるよ、やっぱあんたは主人公だ。

自分がピンチになったらみんなが手を貸してくれる。

そして強大な敵に立ち向かっていく、姿は主人公そのものだろう。


つまりワタシたちはあんたたちの敵になったってわけだ。


散々この人から何もかも奪って、助けてもらっておいて、自分たちに反抗の意を見せたら友達じゃなく敵認定か……



「ふっざけるなぁぁぁぁッ!!!」


「おっと!」



右手を刀に変化させ、斬撃を飛ばす。

だが、フォースに全て吸収される。

やっぱり強いな――



「いきなりご挨拶だね?僕はあくまで話し合いに来たんだけど?」


「あんたぁは殺す!この人のぉためにも!!」



ワタシがそう宣言した時、主人公は笑った。

何がおかしい!何が面白い!!



「――自分のためだろ?」




はあ?何言ってんのこいつ、言うに事欠いて自分のため?

主のために行動してるワタシが?――ありえないでしょ。



「サードは守の事を大義名分に、僕に自分の鬱憤を晴らしたかっただけでしょ?――羨ましかったんだろう?守にいつも頼ってもらえる僕がさッ!!」



「黙れぇぇぇぇぇぇ!!!!!」



もう一度斬撃を飛ばすと、フォースから同じ斬撃が飛び出し、相殺される。

笑うなッ!図星を突いてやったみたいな面をやめろッ!!

こいつを見てるとイライラする!



「いつも自分で体も張らないくせに、勝てる勝負だと分かるとおいしいところだけ持ってく卑怯者のくせに!!!」


「――確かに僕は自分の事が大事だ、人のために体を張るなんて守みたいなマネ絶対にしない――だけどね」



あいつが背中から白い片翼を生やす。

白鳥のように白く、広げた瞬間、キラキラとした羽が舞う。

その光景には神々しさ、さえ感じる。


まさかこいつ神のツールズを飲み込んだのか!?



「大切な親友のためにならいくらでも体を張ってやるよ」



あいつはニヤリと笑う。

絶対ありえない……こいつが人のためにリスクがあることするなんて!



「さぁ、久しぶりの喧嘩――始めようか!!」


「今度は勝って主に勝利を捧げる!!」



その言葉を合図にワタシたちと主人公の戦いの火ぶたは切られた。

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