第47話 親友だろ
僕は片翼を広げ、天高く飛翔する。
両翼でなくても飛べるのはこれが神聖術で浮遊を操作しているからだ。
神の右翼、この神聖術はこれからそう呼ぼう。
これを作れるようになったのも神具リースのおかげだ。
能力はマナブーストと神聖術構築、名前は違うがほぼ守の魔具ライオスと似た能力だ、MPの残量を気遣う必要もなくなったし、魔術に対抗できる神聖術も使える。
これでツールズの性能差は互角のはずだ。
地上からサードはこちらを睨みつける。
「叩き落としてやるッ!!」
「はっ!その距離でどうやってここま――おいおい嘘でしょッ!?」
転移で目の前に現れ、拳で殴ろうとする。
急いで体をそらし、後ろに飛翔して攻撃を避けた。
サードはすぐに転移して地上に戻ったけど、これ飛んでようが関係なく攻撃されるな、しかも逃げ続けてもいても意味がない、何故なら……
「ぐッ!!」
胸を締め付けられるような痛みに襲われる。
飛翔をやめ、地上に舞い戻った。
「やっぱりね!ワタシみたいにぃツールズでもない、ただの人間の魂がぁそのツールズに耐えられるわけぇないじゃない!!」
「嬉し、そう、だね?――だけど、まだまだ、だよ?」
翼をはためかせ、羽を飛ばす。
弾丸のように放たれた羽はサードに向かって飛んでいく。
前にに博物館で見た技を再現する、羽もあの時より少ないし、さすがに完全再現とはいかなかった。
サードの目の前で、羽はあっさりと無効化され、燃えてなくなる。
目がかすむ、呼吸が荒くなる。
もっとやれると思ったんだけどね……
自分の体がふらふらと揺れ始める。
「あはは、やった勝てる!勝てるぅよ!!――終わりにしてあげるぅ!」
目の前にサードが迫り、拳を振り上げる。
ツールズの攻撃でないのならフォースで吸収する事もできない。
だから選択肢は物理攻撃での強襲になる。
「あぁ終わりだよ――僕1人で戦うのはね?」
「あぁ?」
僕の目の前で拳が止まった。
見えない壁が目の前にあり、攻撃を阻んだ。
後ろに誰かいるのに気づき、サードは振り返った。
サードの後ろには神具アイギスを掲げる氷上さんが立っている。
忌々しそうに氷上さんを見つめるサード――
「神具アイギスかッ!どこまでお前に味方するんだ!!」
「違うッ!僕を助けるためじゃない!!――みんな守を助けるために力を貸してくれたんだよッ!!」
「ワタシが主を害してるとでもぉ言いたいのッ!!」
サードは右手を振るい、斬撃を氷上さんに飛ばす。
もう僕だけじゃなく、見境なく襲うのか!!
斬撃が届くその瞬間、氷上さんは姿を消した。
またもサードが意図せず、能力が発動している。
サードは目から涙をこぼす。
「なんでなの主ッ!あなたのためにぃやってることなのにッ!!」
「そんなの決まってるでしょ!あのバカが人を傷つけて、自分は幸せなんて思うわけないでしょうがッ!!」
別荘近くから声が響く、声のした方を見ると偉そうに腕を組む紬、その後ろには日野さんと氷上さんが立っている。
「あいつは誰よりもお人好しで――」
「鈴木君は誰よりも一生懸命で!!」
「誰よりも優しいのさッ!!」
サードは泣きながら膝から崩れ落ちる。
僕から言われるより、こっちの世界の友達たちに言われた方がダメージをでかいだろう。
フラフラとサードは立ち上がる。
サードは変化させた右手を僕に向けた。
「もう……いいや……どうにでもなれ……」
サードはもう諦めた表情だった。
自分でも何をしているのか分からないのだろう。
主に否定され、その友人にも否定された。
この戦いには最初から得るものなんてないのだから……
自棄になったサードは右手で僕の首を斬り落とそうと迫る。
ありがとうみんな……時間を稼いでくれたおかげで少し回復した。
あとは――
「僕に任せてよッ!!」
サードの右手と僕の右翼が衝突する。
バチバチと火花が散り、激しくぶつかった。
「止めるッ!サードに僕を殺させるわけにいかないんだよッ!!――それは、守が望まないから!!!」
右手に神具ヤールンを身に着け、神具ミュルニルを振るう。
神具ヤールンの操作能力で神具ミュルニルの電撃を自分に戻ってくる電気も操り上乗せして放つ。
サードは左手に神具ソハヤを転移させ、神具ミュルニルを受け止めた。
だが、電撃が強く神具ソハヤがはじかれ、砂浜に突き刺さる。
サードの体は痺れ、動きが鈍い、苦虫を嚙み潰したような表情になる――
「どうしてあんたがそこまでするのッ!あんたにとって主はただの使い捨ての駒――」
「ふざけんなッッ!!!」
ビクッとサードがひるんだ。
守が僕にとって都合のいい駒だって?
見当違いもいいところだッ!
「いいかッ!僕は一度しか言わない!!守も聞いてるならよっく聞けッ!!!」
僕は深く呼吸をする。
思いを言葉に、口下手な僕が言える精一杯を!
「不安があるなら話してよ!僕たち親友だろッ!!――僕に言えないことがあるなら、もう守には相談できる人たちが、心配してくれる友達がいるじゃないかッ!!――どうして自分の事になると何にも話してくれないんだよッ!1人で抱え込むなよッ!!」
「それが出来たら苦労はないッ!主は自分が苦しくても他人が幸せなら――」
「だったらッ!!その幸せにするって感情をどうして自分に向けてやれない!!――他人を助ける前に、自分を助けなきゃ、他人を幸せになんて出来るわけないだろッ!!!」
右翼に力を入れ、サードを吹き飛ばす。
サードはゴロゴロと転がりながら、砂浜に倒れる。
フラフラとサードは立ち上がる。
お互いにもうボロボロ、立っているのもやっとだ……
「まだ、まだッ!!」
鬼気迫る表情でサードが僕に右手を伸ばす。
だけどその手は――サードのもう片方の腕に押さえつけられる。
表情が変わり、いつもの優しい守の表情に変った。
「サード……もうやめておけ……」
「守……なのか?」
コクリと守は頷いた。
どうやら体の主導権を取り戻せたらしい。
だが、すぐにサードの険しい表情に戻る。
「でも!それじゃ主がッ!!」
「ありがとうな、俺のために怒ってくれて――でも大丈夫だよサード、俺はもう俯かない。助けてくれるみんながいる、俺を認めてくれる友達がいる――だから俺はもう折れないよ」
完全には主導権を取り戻せていないのか、サードと守がコロコロと入れ替わり、表情がコロコロと変わる。
「それじゃあ……もう……ワタシは……いらない……子?」
「何言ってんだよ?お前も俺の友達の1人だろ?――お前も含めて全員で幸せになるんだよ、これからも俺に力を貸してくれよ相棒」
サードが穏やかに笑った瞬間、魔王の右手が消失する。
そして力を使い果たした守は砂浜に倒れた。
僕も神の右翼を解除した瞬間、気が抜けて意識が遠くなる。
全く世話がかかる……もうこんな手間とらせないでくれよ親友――
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