第48話 人間らしい感情

ただいま7月2日の正午、目が覚めると談話室のソファーで目を覚ました。

体を見ると包帯などが巻かれており、応急処置をしてもらえたのだろう。

向かい側のソファーにいる司を見るとまだ眠っている。

呼吸音は安定しているので、命に別条はなさそうだ。


司を見て、ほっと一息をついたときに向かいのソファーの陰から、こちらを見ている人影があった。

よく見ると妹ちゃんがひょっこりと顔をだし、ジト目でこちらを見る。



「――で?私たちに言う事は?」


「この度はご迷惑をおかけして大変申し訳ございませんでした!」



ソファーから飛び起き、社会人時代で鍛え上げた綺麗な土下座を披露する。

契約とるために何度地面に頭をこすりつけたことか……


今はそんなことどうでもいいな、精一杯の誠意を見せなくては――今回は俺が全面的に悪い、サードが暴走したのも不安にさせてしまった自分の責任だ――言い逃れするつもりはない。


土下座をしている最中に耳元でジジッと言う音が鳴る。

オリアナ様からの通信だ。



『本当に大変だったんですよ?周囲の人たちを眠らせたり、目撃者の記憶を書き換えたりとか――その上襲撃者の3人には逃げられてしまいましたし……』


『はい……オリアナ様、大変申し訳ありませんでした』



推しにも心配かけさせて何やってるんだろうな、俺……

しかもあいつらに逃げられたのか――前の遊園地の時と一緒だな、敵が転移系能力のツールズ持ってることはまず間違いないだろう。


考え事をしていると脇からゆっくりと日野さんが俺の顔をのぞき込む。



「でも無事でよかったよ……」


「まったく世話が焼ける――このドアホが」


「痛ってッ!?」



後方から氷上さんに軽く小突かれた。

軽くだが全身が痛むため少しの痛みでも激痛が走る。

でも甘んじて受けるしかないんだよなぁ……



「――というか、あんた何が原因でツールズが暴走する事態になったの?不安がどうたらって言ってたけど?」


「それ――は……」



俺は妹ちゃんから目をそらす。

人には話したくないこともあるんですよ?

それに本人たち目の前にして言えるかって――



「はっきり言いなさい!!」


「はい、喜んで!!!」



妹ちゃんに怒鳴られたので、渋々俺の不安について話した。

司に出来て自分に出来ない劣等感だとか友達が別の人と話しているともやもやすることとか――もちろん絶対に言いたくないことは話さなかったけどね?


俺の話を聞いて、しばらく黙った3人――

そして最初に出て来た言葉は……



「「「バカじゃないの(ですか)?」」」


「わりと真剣に悩んでたんですが!?」



妹ちゃんと氷上さんの2人にはともかく、日野さんにまで言われるとショックでかい……



「人間誰でも嫉妬するなんてよくあることじゃない?むしろ今までよく嫉妬もしないで今までの人生生きてこれたね。脳みそお花畑なの?」



「いつにも増して毒舌ひどいな妹ちゃん!?」



やばい、多分司に暴力振るったことも含めて滅茶苦茶キレてる……

妹ちゃんが今まで見たことないくらい鬼の形相だよ――助けて司!



「――というか友達が他の人と話してると嫉妬するって、メンヘラなの?」


「仕方ねぇだろ!司以外の友達出来たことないし、他の友達とどういう距離感で接していいかわっかんねぇんだよ!?――俺もこんな感情初めてなんだ、司が誰かと話してもなんともなかったのに……」


「友達作り初心者か君は……」



氷上さん?

あんたも俺のこと責めてるけどあんたも初対面でどもってたこと忘れてねぇからな?


日野さんが優しく微笑み俺の肩に手を置く。



「今まであまり友達いなかったかなら、どう接していいか戸惑うのはしょうがないよ?私だって友達は紬ちゃんとこのボッチで頭でっかちな氷上くらいしかいないし――」


「あ゛?やるのかこのゴリラッ!!」



日野さんと氷上さんがいつものように取っ組み合いの喧嘩を始める。

それを妹ちゃんが止めるという新しい構図、2人のストッパー係就任おめでとう……


相変わらず仲が良いようでなによりだよ。

――それにしても……



「ほんと、俺どうしたんだろう……前はこんな事……」


「守が前より人間らしい感情になってるってことだよ」



目覚めた司がゆっくりとソファーから立ち上がる。

人間らしいってなんだよ、こちとら前から人間だっつうの!

俺が不満げな顔をしている一方で何故か司はとてもうれしそうな表情だった。


――司?なんで嬉しそうなのかな?



「なんで笑ってるのさ司、俺何か面白いことでもいったか?」


「いやさぁ、昔は助ける以外の感情しかないロボットみたいだったのに、人並みに他人に嫉妬して、友達との関係で悩めるくらいに感情豊かになったんだなぁと嬉しく思ったんだよ――友達、たくさんできてよかったね」



お前は俺の母親かよ!?

俺は照れくさくてポリポリと頬をかく。


ただ、感情豊かになったと言われて悪い気はしなかった。

お前はおかしい、何が目的で助けるんだ、そんなことを言われ続け、司以外には気味悪がられてた前の世界――こっちに来ても俺の感情の第一優先は助ける事だった。


そんな俺が変われたのはきっと……

――さっきまで喧嘩していたのに和気あいあいと笑いあう少女たち。


俺はこの笑顔を失いたくないと思ってしまったんだ。

他人を助けるためじゃなく、友達を失わないために動きたい。

だけど現実は非常だった。


今回のイカの時だって何もできず、結局司に頼ってしまった……どんなに努力しても強くならない自分に嫌気がさす、そして何でもできる司に嫉妬した。


もっと強くならなきゃ、司より強く、もっと――もっと!!

そんな俺の黒い願望がサードを凶行に走らせた。


強くなったところで、助けるべきみんなを傷つけていては元も子もない。

あれだけ傷つけ、迷惑をかけたのに、今でも友達として接してくれる友達――ほんと、みんなには頭が上がらないよ。


ありがとう、みんな――俺なんかと友達になってくれて……

照れくさくて口には出せないが、心の中でそう呟いた。

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