モブキャラだけど助けたい

ヒサギツキ(楸月)

第1章 アルケミストツールズ1

第1話 誰かにとってのヒーローになりたかった…

 


 俺は誰かを助けられる人間になりたかった



 凡人でなんの特徴もない俺でも誰かの役に立ちたかった



 子供の頃憧れたの親友ヒーローのように誰かの役に立つ人間になりたかった…



 俺もそんな人間に……



 だけど現実はそんな甘くない………



 小中高一緒だった親友と別れ、地元から遠く離れた都心の大学に入学するも、親友以外の友人関係を作ってこなかった俺は人付き合いがうまくいかず……


 そのまま大学を中退、せっかく就職した都心の企業では同期ともうまくやれていたはずだった……


 ――ある日、その同期が汚職の犯人に仕立て上げられそうになり、それを助けようとしたが、証拠不十分で助けることもできず、挙句の果てに俺も共犯としてクビを宣告された。


 同期は俺に何度も何度も謝っていたが、俺は精一杯ぎこちない笑顔を作り、気にするなといったが逆効果だったようで、またポロポロとまた泣きながら、走り去ってしまった……


 ――悪いのはお前じゃない…お前じゃないだろうに……


 どうしてあんなに優しい奴に救いはないのだろうか…


「理不尽だ………」


 それから就職先も決まらず実家に帰り、転職先を探しながらバイト暮らし、地元に戻ったので親友とも顔を合わせたかったのだが…仕事の関係で遠くに行っているそうで、なかなかこちらには戻ってこれないと親友の母から言われた。


 親友の連絡先も大学に入ったときに変わっていて、両親もしらないそうだ……


 ――またいつか会えたらいいなと思いながら、そんな日々をすごしていた。


 ……だがそんな日常も今日


 なんてことはない、客が「接客態度が悪い」とクレームが言い、それをうのみにした店長が俺をクビにした、ただそれだけだ。


 いわゆる迷惑客で、何かにつけて店員に絡んできて、今日はバイトの後輩がその客に絡まれていた……


 前の企業での同期の顔が脳裏によぎり、見ていられなかった…


 今度こそ助けたいと俺は後輩と客の間に割って入った…で、注意したらクビだ。


 ――やっぱり世の中は理不尽だ……


 そんなこんなでクビになり、人生二度目の無職となった。


 バイト先から虚しく暗い帰路につく、30歳彼女なし童貞それが俺、鈴木守すずき まもるである――自分でも振り返ってみると悲しくなってきたわ……


 ――でも今度は後輩だけは守れた、それだけは嬉しく思えた…思えてるはずなんだけどなぁ………


「はぁ~………」


 ――どうしてこうもうまくいかないのだろうか…


 もっとうまくやれたはずだが、頭を使うのは苦手であの時はあれが一番ベストだと思った。


 親友だったら…こんな時どうするんだろうな……


 今は遠くにいる親友が真っ先に思い浮かんだ。


 頭がよく、運動神経も抜群、誰よりも優しく、いつもクラスの中心だったあいつなら、今の俺のように無様にあがいて、大敗することなんてなかったんだろうな…

 きっと一人でなんとかしてしまうのだろう。


 親友は俺にとって完璧の象徴だった。


 そんな親友と比べて俺はひどくちっぽけに思えた。


「あの頃に戻りてぇなぁ……」


 思わずこぼれてしまった本音、親友がいたあの頃に戻れたらなんて思ってしまう。親友と肩を並べ、くだらない話で盛り上がり遊んだ、何もかも充実していたあの頃に…


 刹那、自分の意識が薄れ、カチャリと何かが切り替わったように感じた。

 前触れもない本当に唐突だった。

 目の前の景色が、明るくなり、暗かった帰路から明るい授業中の風景に変わる。俺は立って歩いてたはずだがいつのまにか座って授業をうけている。


 ―――何が…起こった――声が出ない。


 ほおをつねってみるが痛みがあり、夢ではないことが分かってしまう。


 周りを見ると授業をまじめに受ける生徒や居眠りをしている生徒など様々だが、学生たちがそろって授業を受けていた。


 そしてその中に俺という異物が紛れ込んでいる……


 ―――異常だ、異常以外の何物でもなかった。


 だって俺は30歳男性、高校生から見たらおっさんの俺がいて、何故不思議じゃないんだ!?


 そんなことを考えている時、自分の体に違和感を感じる。


 ――高校時代に負傷した肩が治っている?


 若返った?


 ――いや過去に戻ってきたのか?


 過去に戻ってきたから高校時代に負傷がない?


 ――いや別の可能性もあるな……


 他にも人の体に乗り移ってるって可能性もあるか……

 もう考えすぎて分けわかんなくなってきた!


 こういう頭脳労働というか考えるのはいつも親友が担当していて、俺は専門外だっての…そうだ親友は!


 ――あらためて周りを見てその中に、俺の親友を見つけた。


 中性的なルックスを隠すように前髪だけを限界までのぼし、ギャルゲの主人公のような黒髪の少年、俺の親友にして完璧超人、時乃司ときの つかさがそこにはいた。


 あの頃と変わらない姿を見つけ俺はうれしくなったが、隣にいた人物で俺の表情は――凍り付いた。


 海外のモデルのような高身長、自然な長い金髪が揺れキラキラと光る…


 絵本の中から出てきた王子様のような美少年が眠そうに欠伸をしながら親友の隣で授業を受けている。


 俺はこの少年に見覚えがあるが過去であったとかではない……


 ――だってのだから、彼はゲームの……


 アルケミストツールズ主人公の友人、神宮寺じんぐうじマキアなのだから!


 この時代にいるはずがないのである!

 ――というか………


 タイムトラベルじゃなくて転生の方かよぉ!!!!!!

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