第40話 主人公の実力

『――で?あれがあんたのペットなのは理解したよ。問題はなんでこっちにいるかが問題なんだよね?』


『分からないんだ!今朝気付いたら檻から忽然と消えていたんだ。――遠い異国の地でさぞ心細いだろうに……あぁわたしのイスカンダルちゃん……』



名前イカツイな……

いやイカとかけたわけじゃないよ?


守の話だとエレンは男装のクールビュティーって話だったけど、この人ただのポンコツじゃない?




『――というわけでエレン姉さまのペット、セイントクラーケンのイスカンダルの討伐を……』


『いやぁぁぁ』


『ちょ、お姉さま!?は、離れて、くだ、さい!』



あっちも大変そうだな……

守だったら大事なペットをどうにか助けて――とか言うんだろうけど、僕だったのが運のつきだね。

――すぐにイカの刺身にしてあげる。


そうだ、せっかく本人いるなら――



『ねぇエレン?あいつ僕と日野さん、氷上さんの時は引っ張っていかなかったんだけど――なんで?』


『多分……それは……そのぉ――主人の趣味が出たといいますか何というか……』



うん?なんかいいよどむ理由でもあるのかな?

一見僕たちに共通点はなさそうだけど――



『はっきり言ってください!』


『わ、分かったから……でも怒らないでくださいよ?――わたしの趣味と言いますか性癖はッ!巨乳の女性と巨根の男性がタイプですッ!!――だからイスカンダルちゃんもそれしか狙いません!!』


『『『『――――はぁ?』』』』



何?つまり?

僕たち短小と貧乳だから狙われなかったって言いたいの?

なるほど、なるほどねぇ――



『『ぶっ殺すぞ?』』


『ひぃぃぃ!?だから怒らないでっていったじゃないですか!?』


『――最低ですお姉さま……』


『オリアナまで!?』



僕と氷上さんが罵倒し、オリアナも先ほどより冷たい声色になる。


誰が短小だッ!この野郎ッ!?

思わず守みたいな口調になっちまったじゃねぇかよ!?


あぁもう冷静にならないと、久方ぶりにキレそうだったよ。

屋上行こうぜ、だったかな?

今の子たちこのネタ知らないだろうけど……


氷上さんも地団駄を踏んでキレちらかしてるし、それを日野さんが必死になだめてる。

普段じゃ見れない光景だね。



『あの、そんなにみんなキレなくても……』


『そうだとも!日野殿のように胸は小さくても心は広――』


『やっぱり最上級の罰を与えてくださいオリアナさん』


『日野殿あなたもか!?』



今のは完全にエレンが悪いよ……

エレンの嗚咽交じりの泣く声が聞こえる。


さて、それじゃあとりあえず――

僕は巨大イカの方に向き直す。



「倒すとしますか、あの失礼なイカを――ね?」


「じゃあ私たちも!」



日野さんと氷上さんはツールズをを構える。

だけど……



「いや、いいよ。MP無駄使いしたくないでしょ?――こいつ程度なら僕1人でも十分だから、ねッ!!」



僕はイカの本体までダッシュで駆ける。

さすがにイカも攻撃してこようとしてくるのが分かるのか、触手を鞭のようにしならせ、僕に明確な敵意を持って攻撃してくる。


僕はせまる触手を前に高くジャンプをしてよけ、空中で神具グングニルを振るう。

神具グングニルから飛翔する刺突を繰り出す。


さっきと違い大振りな攻撃だったため、動きが遅く、あっさりと触手の1本を穿つ。

――イカの触手は落ち、以降動かなくなる。


前来たモンスターと違って装甲は薄いね。

――これならこのツールズでもいけるよ。


怒ったイカは複数の触手を僕に向かわせる。

さっきより動きが単調になってきてるね。



「前までの方がいい動きだったのに……まぁいいけどその方が倒しやすいし――神具グングニル、本当の力見せなよ」



僕が呼びかけると、包丁くらいの長さだった神具グングニルが僕の身長くらいありそうな長さにまで伸びる。


両手で神具グングニルを構えなおす。


触手に掴まれたらアウト、なら神具グングニルを大きくしたのは――



「こうするためだよッ!!」



触手を神具グングニルで叩き落とす。

そのまま棒高跳びの要領で前へ飛ぶ。


他の触手を飛び越え、足が地面に着く。

そして再び本体へと駆ける。



「つ、強いねあの人……」


「あぁ――私たちの中ならもっとも戦闘力は高い、しかも頭も回るな彼は……鈴木が彼を頼る気持ちがなんとなくわかったよ」



後ろから2人が何か話しているようだが、今は目の前に集中しよう。

本体までの距離はあと数メートル、この距離なら射程範囲内だ。


だが、後ろから触手も迫ってきている――なら!

僕は神具グングニルをを地面に両手で刺す。



「飛ぶしかないよね?」



飛翔の刺突を地面に向けて放ち、僕はその爆風で空中に飛ぶ。

イカより高い位置まで来たところで神具グングニルを片手で持ち、やり投げの構えをとる。



「これで、終わりだよクソイカちゃん?」



――神具グングニルを本体の額目掛けて投げる。

他の触手を重ねてガードしようとするが、それごと貫き穿つ。

何のために投げたと思ってるの?

僕の腕力で放った力も追加するためだよ。



「ぎゅぃぃぃ!!!!」


『イ、イスカンダルちゃぁぁぁん!!!』



そのまま息絶え、触手の掴んでる力が弱まる。

捕まってるみんなが、そのまま空中へ放り出された。



「あっ、この後のこと考えてなかったや」


「「「「うわぁぁぁ!!!」」」」


みんな叫んで空中落下する。


まぁ幸い地面じゃないし落ちても海なら大丈夫でしょ。

海泳げない人は誰もいな――

瞬間、頭によぎったのは昔のこの世界での記憶、紬がプールでおぼれている姿――そうだ!紬泳げないじゃないか!!


僕は手を伸ばすが紬まで距離があって届かない。

無理だ……


そう考えた時に突然急降下する空中から砂の地面へゆっくりと足が付いた。

全員無事、それに投げて海に落ちた神具グングニルも手元にある。


守の方を見るとサムズアップしている。

気絶から目覚めたんだ守――そうか、転移使えるようになったからみんな転移させたんだ。


僕も返すようにサムズアップする。

ありがとう親友、守のおかげで紬に怖い思いさせずに済んだよ。


そのタイミングで紬は守をぶん殴った。

何度も何度もマウントポジションで顔面を殴られる守――

あっ、これ紬ガチギレしてる。


助けてあげたのになんて不憫なんだろう僕の親友は……

僕はやれやれと2人の仲裁のため急いで走り寄る。

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