第6話 助けたいと思うから

 俺はファイティングポーズを解き、時乃に背を向けダッシュで逃げる。


「逃げんなぁッ!!」


 ――時乃も後ろから走って追ってくる。


 セカンドの能力がやっかいだ、過度な接近での攻撃はすぐにカウンターがくる――時間を戻されたら、俺は認識できないし対処できない。


 幸い能力の使い方がまだ甘いのか、戦闘能力は高いからの慢心か知らないが会った瞬間に時間を戻して初見殺し――とか俺が契約する前に契約してしまうとかしてこないあたり、能力の使い方が雑に感じた。


 ――もう試して、無駄に終わったってことも考えられるけど……

 俺がまだ認識できてるってことは少なくとも失敗したと考えていいだろう。


 時乃が近づいてきたら、近づけない距離までダッシュで逃走をひたすら繰り返す――今やほぼ鬼ごっこ状態である。


 ――いやお前さっきまで殴り合いだとか言っておいて逃走ばっかかよとかいわれるかもしれないが、時間遡行で不意打ちも正面からの攻撃も知られているので、近づいた瞬間アウト――遠くからの攻撃手段は殴り合いとか言ってるので使えない。


 避けることができない攻撃でもしない限り無理だろう。

 ――まぁそんな攻撃したところでもっと前に戻されて終わりだと思うが……


 あぁ!もう!考えすぎでよく分かんなくなってきた!頭使うの苦手だっつてるだろ!

 誰に言うわけでもなく、ついつい毒づいてしまう。


 遠くにいる時乃を見るが、その顔色はすこぶる悪いように見える。

 ――なんだ?能力の使い過ぎか?だとすると好機だが……


 走ってる途中で意識が遠くなりそうになる。

 ――やべぇ…俺の方の体力の限界が近い。


 時乃から一撃もらったのがジワジワと体力を削ってくる――能力で逃げ続けたとしても、俺のMPのほうが絶対早く切れて、このままだとじり貧で終わる……

 ――考えてる余裕もないか


「――ならッ!!」


 方向転換して時乃の方に走り出す。

 ――時乃のMP切れを願って、一発勝負するしかない!


 大きく振りかぶり、拳を振り下ろす。


「不意打ちしないで真正面とか……」

「がぁッ!?」

「バカ正直かよ……もう見飽きたよ……」


 心底うんざりした顔をしながら、作業のように俺の左わき腹を蹴り上げる。

 ――俺は膝から崩れ落ちて正面に倒れる。


 意識が刈り取られそうになるが、なんとか気合で意識を保つ……

 ――だが体の方はそうでもなく、もう立つことは出来なそうだ。


 うつ伏せの状態の俺に時乃は馬乗りになり、動けないようにされる。


「だから無理だって……何回このセリフ言わせるんだよ――いやお前の感覚からしたらこれが最初か……」

「や――っぱり……なんど――も……くり――かえしてん――のか?」

「あぁそうだよ…これで20回目だよ……」


 心底呆れたように吐き捨てる。

 ――20回、むしろ俺相手にそんなに繰り返す必要があったのか?


 繰り返した影響か知らないが、少し時乃は落ち着いているというより諦めているように感じる。

 時乃はため息をつく――


 

「――色々試したよ、君殺しても契約できないし、契約する前に君を止めることもできない……君に力を使わせようと説得したんだけど、死んでも異世界転移させないし――ねぇ君昔から強情だとか頑固だとか言われない?友達少ないでしょ?」

「うる……せぇよ―――」


 俺を何度も殺している。

 ――そこに罪悪感も何も感じず、ゲーム感覚のように殺した。


 やっぱりこいつはまだゲーム感覚が抜けていない。

 ――転生した体から、何にも感じなかったのか?


 この世界でしっかり生きてきた記憶が経験があるんだ。

 ――たとえゲーム内ではモブだったとしても、人生がある。

 1度きりの命を生きてるんだ。


 ――ゲームのように復活なんてできないんだぞ?

 何度もやり直せるがために、その感情も忘れちまったのかよ……


「今回は説得から話し合いに切り替えることにしたんだ、君がどんな人間でどうしたらその僕を助けたいとかいう幻想をぶち壊せるのか…」

「俺…は……あき…らめねぇ――」

「だろうね、何度もそう言ってた――ねぇ……君がずっと言ってる親友だけどさ、その子も迷惑してたんじゃないのかな?――僕少しだけ気持ちわかる気がするんだ」

「おまえ……がッ!」

「お前が語るなっていうんでしょ?――はいはい、でも少し考えてよ、そんな誰でも助けてくれるヒーローみたいな子いたら、誰もがその子にすがるじゃない?――片っ端から助けて行ったところで感謝するのはごく少数……大半は何故早く助けないとかそんなことばっかり口にする奴ばっかりだよ?――心の方が先に疲弊する、助けられる力があるのと心の摩耗は全く別の話――助けるのすら嫌になって、僕みたいに逃げたいって思うよ?」


 ――考えなかったわけじゃなかった……

 親友が助ければ助けるほど、嫌になっているのを感じなかったわけじゃない。


 それに俺は見ないふりをした――そうしなければ俺一人の力で助けることなどできないから……

 ――かってに親友をヒーローのように幻想視して、奴なら何でもできると……


 俺が助けることにミスしてもカバーしてくれる……助けたいという気持ちは一緒だと……

 ――勝手にそう思ってた。


 最初から親友も人助けがしたくてしてたわけじゃない、俺の人助けに勝手に巻き込んで――いつも助けてもらってたんだ。


「だ…から……俺――がッ――」

「だから俺が今度はその子を助けるって?――出来てから言いなよそのセリフ?――結局君は口先だけなんだよ――」


 何も言い返せなかった、こいつの言ってることは正しいのだろう――親友もそう思ってたから、離れた時に連絡を断ったのかもしれない。

 ――俺は親友にとってのお荷物だったのだろう。


 助けたい気持ちはあるけど才能がない俺と――才能があるけど助けたい気持ちはない親友――本来なら相容れない二人


「だと…してもッ!――たす…ける!ともだち……だからッ!!」


 例えもう親友が俺の事を友達と思ってなかったとしても!


 俺に何もできることがなかったとしても!


 元の世界に戻ったら絶対!!


「つかさっちは俺が今度こそ守んだよ!!」

「つかさっちって、前の世界含めても久しぶりに聞いたわ……うん!?――君まさか!まもちゃん!?」


 時乃は馬乗りをやめて飛び上がった

 ――えっ……なんで前の世界のあだ名知ってんの?


 ん?――ちょっと待て、情報を整理しよう。


 助けすぎて嫌になった過去があり、俺をまもちゃんと呼ぶ。

 ――前の世界と同じ容姿の体に転生している俺、それなら転生したこいつも元の世界だと同じ容姿の可能性が高いわけで……


 ――つまり???


「お前かよぉぉぉぉぉ!!!!」


 ――俺たちは意図せず、別世界にて旧知の親友との再会を果たすことになった。

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