第16話 魔王殺し


「どこまでいくの?」


「裏手の雑木林逃げ込む。あそこなら隠れるとこも多いし、見つからないだろう」



俺たちは魔王から着かず離れずの距離を保ちつつ、裏手まで逃げる。

神宮寺君だけが、何も知らない状態なので、単純に先生から逃げてるだけと思い込んでる。


今はその勘違いを利用してでも逃げる。

大きな木の陰に隠れて俺たちは息をつく。

木の陰から魔王を見るが、俺たちを見失ったようで、この辺りをうろうろと歩き回ってる。



「さてと、どうする?」


「……素直に……先生に……謝る?」


「うん、ごめん、事情はあとで話すから今は言ったん黙ってくれるかな?」



――いや言い過ぎだって!

巻き込まれただけの神宮寺君かわいそうだよ……

ほら、背中丸めて悲しそうに明後日の方見てるじゃん。


あっ、違った!こいつ寝ただけだ!!



「おにいどうするの?攻撃できる人投げ捨ててきちゃったけど?」


「仕方ないよ、話通じなさそうな雰囲気だったし、1体道ずれにしてくれただけでも、よかったと思おう?」



どうしよう攻撃系あいつしか今のところこの町にいないんだよ!

あぁもう!

こんなことなら、羞恥心と男のプライド全て捨てでも共有してくればよかった!


――うん?なんか忘れてるような……



「あぁ!!」


「突然叫ばないでよ!気づかれたらどうするつもり!」


「共有してるじゃん!俺がこの手で契約共有させてたじゃん!!」



口をふさいでアイアンクロウした際に唇が触れてたので俺にだけ共有が成立してる。

試しに使えるかどうか呼び掛けてみると、手元に風間の神具が出現する。


共有相手が拒否すれば使えないが、あいつ今気絶してるので使えるってわけだな。

そして妹ちゃん?なんでそんなドン引きした顔してるの?


――違うからね!?

君と昨日したキスを風間とやったわけじゃないからね!?


司も妹ちゃんに合わせてドン引いてんじゃねぇよ!!

よくわかってねぇならリアクションすんな!?



「一応誤解解いとくと、アイアンクロウした時に共有条件が整っただけだからな?――妹ちゃん誤解だけほんとしないでね?俺ノーマルだから」


「聞きたくもないですし、なんで私に言うんですか気持ち悪い――いいからさっさとそれで倒しちゃいましょう」



そうだ、これで倒せる準備はできた。

――俺がこの手で魔王を倒す。


そしてみんなを助ける。

やっとめぐってきたヒーローになるチャンス……


だけど…


手が震える。――失敗したらとか、俺じゃなくてもいいんじゃないかとか、頭の中でグルグルと嫌な考えばかりが思い浮かんでくる。


前の世界で助けられなかった同僚の顔、バイトの後輩の顔、今まで助けられなかった奴の事ばかり考えてしまう。


――誰かにすがりたくなる。

いっそ共有の方法を司に教えて、司にやってもらえば……



バシンと音が鳴り、俺の両頬がひりひりと痛む

前を見ると司が俺の顔を両手で挟んでいた。



「何度も言ってんだろ?バカは考えるなッ!あいつを今倒せるのは守だけなんだよ!!大人になってちょっと利口になったつもりか?――守のいいとこは何も考えず真っすぐ進むことだろう!!――考えるな、後の事は全部僕に任せて、守はやりたいようにやればいい!!」


 

――そうだった。

やり直すんだこの世界で!!


例えこの体を元に戻すことになったとしても――俺はこの世界で人助けできたと胸を張って元の世界に帰るために!



「バカバカ言いすぎなんだよ!でも元気出たぜ親友!!――いくぞ神具ソハヤ!!」



神具が光りだし、名前を呼ばれたことで真の姿を取り戻す。

手元にあったナイフは60センチ程の刃渡りに伸び、ナイフから刀に変わる。


だが重さは感じない、むしろ手に持っているのか分からないくらいだ。

――軽い、これが神具の100パーセントを引き出した力!!



「いいか守?1発勝負だ。魔王からの攻撃が来ても絶対にそれを振るな、避けろ。狙うのは本体のみだ、それだけ頭に入れたら行ってこい!!」



背中をバシッと叩かれて、俺は走り出す。

走ってきた俺に気づいたようで、魔王は突撃してくる。


魔王から動物の手のような触手を何本もこちらに伸ばして敵対者を殺さんと迫る。

俺はその触手をジクザクに紙一重で避けながら前へ進む。



頬や足などをかすめるも、何とかよけられてる。


考えるな!――動け、動け、動け、動けぇ!!



「――あの人、案外足速いですね」


「まぁ守は盗塁得意だしな」


「盗塁?」



距離も段々と近づいて、あと10メートルのところまで来た。

だんだんと距離が近づくにつれ、触手の数が増えてくる。


正直もうきつい……けど、やったらぁ!!



ジャンプや体を捻ねりながら、触手を避けていく。

だがそれでも避けきれず、触手が俺の体を貫こうと一本の触手が迫る。


次の瞬間、俺の景色が変わった。

魔王の正面にいた俺が真横に転移する。


俺は司たちの方を見ると、妹ちゃんが視線を合わせないように横を向く。

妹ちゃんが転移させてくれたんだ!


この好機を逃すわけにはいかない!!


神具の柄を両手で握る。

――俺は刀や剣なんか振ったことがない、だから俺が一番得意な振り方でッ!!



「――おにい、あの人何で刀持ってるのにバット振る構えかたなの?」


「言ってなかったか?守は前世では、野球でスカウトが来るくらい有名な打者だったんだぞ?――肩をやっつけて前世ではプロにはなれなかったが、この世界でなら思い切り振れるだろ?例えそれが刀であったとしてもな――かっ飛ばせ!守!!」



司の応援が聞こえる。

ならその期待に応えなくちゃな!!


片足をあげ、柄を改めて握りなおす。


 

これがッ!


俺のッ!!


全力ッ!!!


一本足打法だ!!!!



バットの要領でフルスイングした刀は、魔王の体をしっかりととらえた。

体に刀が触れ、まるで豆腐でも斬るようにあっさりと刃が通る。


魔王は声も出せず、横に一刀両断された。

――魔王の姿は次第に消えていき、最後に残った禍々しい角も同様に斬れる。

そして砂となって消えた。



……勝った……のか?

勝ったん、だよな!!



「さすがだぜ、守!やったな!!」



司が俺と肩を組み、祝福してくれている。

やった、乗り切った…乗り切ったぞ!

シナリオ序盤の最悪は、これにて終焉を迎えたのである。

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