第38話 水着回らしいですよ?

「ふははは!!!みよ!私の泳ぎをッ!!」


「――あの人ほんと元気だね……元30歳にはついてけないよ……」


「俺もそう思う……」



俺たちは裏手の砂浜にあるパラソル内の日陰で涼んでいる。

海では元気に泳ぐ茨木兄――あの人ずっとあのテンションで疲れないのかな?


服装を改めてみると俺と司は色違いの丈の長いサーフパンツと上にパーカーを羽織った格好にビーチサンダルという一般的な海での服装に着替えている。


泳ぐ気のない元30歳のおっさんなんて大体こんなもんだよ。

この格好でもおっさんたちにしては冒険した方だ。

元の姿でこの恰好したらちょっと若作り感がすごいし……


茨木兄は若いだけあって、強気というか……

ブーメランパンツの水着1枚のみだったし、若いっていいね……


おじさんたちはこれで精一杯だよ。



「お待たせしましたわ!!――さぁ司様!見惚れてくださいまし!!」



俺たち2人が振り向くと黄金のビキニ姿で現れた茨木さんだった。

目のやり場に困るというより、太陽に反射して別な意味で直視できない。


その隣には従者組の2人、柴田さんはフリルが多く着いた花柄ワンピースの水着、飯塚さんはラッシュガードの水着で茨木さんの後ろから来る。



「どうですか!どうですか!!」


「似合ってる、似合ってるから――は・な・れ・て!?」



司に豊満な胸を押し付け、感想を求める茨木さん――それを暑苦しいと目が言っている司、お前の大好きなシチュエーションなのに、性格が苦手なタイプ過ぎて、拒否反応の方が先に出てる。

不憫だ……


茨木さんが突然俺の方を向きビシッと指をさす。



「あなたは何も言わないんですの?――えっと、モブAさん!」


「鈴木だ!!――下手にほめるとセクハラって言って訴えられそうだから言わなかったんだよ……」


「同じく、僕も……」



茨木さんから逃れようと司は体を動かしてるけど、びくともしないようだ。

下手に動かすとセクハラになりそうで動けないっぽい。



「あら、そうでしたの?そんなこという者はいらっしゃらないと思いますが……」


「――少なくとも俺が知る限り2人ほど言ってきそうなのがいるんだよ……」


「おや、それが誰か言ってみてくれるかい?」



声のした方に振り向くとピンク色のフリルやリボンが付いた水着に身を包む日野さん――水色のキャミソールタイプの水着を着た氷上さんがいた。

色が2人にあっていてとてもいいと思う。



「2人とも似合ってるぞ、その水着」


「ありがとう、鈴木君」


「どこを見ているんだい?セクハラで訴えるぞ、変態」


「やっぱ言ってくるじゃねぇか!?」



フンッと氷上さんに鼻で笑われる。


もうこいつほんとやだ――日野さん絡むと突っかかってくるの、マジでやめてほしい。


さっさと付き合えよ、もう……



「あらあら、私たちが最後みたいね?」


「おにい遅れてごめん!」



最後に来たのは、白色ビキニ姿の佐藤さん――そして黒を基調とした肩が出たハイネックの水着を来て登場した。


先ほどの経験も踏まえて俺と司が目線で合図を送り2人同時にサムズアップする。


てくてくと俺の方に妹ちゃんが歩み寄ってくる。



「うん?どうしたの妹ちゃん?その水着似合ってると――」


「ふんッ!!」


「ぐはッ!」



妹ちゃんからそれはもうきれいな回し蹴りをいれられました。

日陰から体が吹っ飛び、熱々の砂に背中をつく。



「あちちち!?」


「ジロジロ見んな」



パーカー着てなかったら背中火傷してたぞ!?

ほめても罵倒され、挙句蹴りを入れられる。

――やはり褒める行為はイケメンにしか許されんのか!理不尽だ!?



「あらあら、2人とも仲良しね?」


「どこをどう見たらそう見えるの美鈴姉?――守、大丈夫か?」


「大丈、夫――問題、なし……」



俺は地面からゆっくりと起き上がる。

パーカーを一旦脱ぎ、服に着いた砂を手で落とす。

用意してもらったのに早速汚してしまって申し訳ないな……


うん?なんだ?――どうして俺注目されてんの?



「鈴木君、腹筋割れてるんだ……意外……」


「どうしてその筋肉があってボコボコにされてるのか理解に苦しむ」



日野さん……両手で目を隠してるつもりだと思うけど、指の間から見えてるからね?――確かに妹にも筋トレ中薄着になった時に、兄者は細マッチョでござるな!とはよく言われてたな。


こっちの世界の俺も暇あれば鍛えてたみたいだし、その影響だろ。

――というか男の上裸がそんなに珍しいかね?


いや、妹ちゃんに関しては汚物を見る目だなあれ……



「キモイ肉体晒してないでさっさと着なさいよ」


「誰のせいで脱ぐ羽目になったと思ってんですかね!?」



いそいそとパーカーを着直す。

朝からほんと散々だ全く……


着終わって辺りを見ると司に3人が群がっている。



「司様!日焼け止めクリーム塗ってくださいまし!」


「あらあら、じゃあ私もお願いしようかしら?」


「わ、私もお願い!おにい!」


「はいはい、やるから順番ね?」



ちゃっかり主人公イベントこなしてるな司。

――くそ!うらやましいな、おい!!

ひがんでてもしょうがないか……

司たちも時間かかるだろうし俺はどっか散歩するかな?


釣り道具とかあったら釣りしてボーっと海眺めるのもいいよな。


――俺の海の楽しみ方完全におっさんだな……

精神はおっさんだから間違っていないけど……


そんな事を考えていると目の前にビーチボールが飛んできたのでキャッチする。


奥を見ると元気にジャンプする日野さんと光に当たってテンションがだんだんと下がっている氷上さんがいた。



「我が盟友よ!ビーチバレーで勝負と行こうではないか!」


「なんで私まで……」

 

「おう、いいぜ!やろう!」



そうだよ、こういうイベントを待ってたんだよ!

砂浜で友達とビーチバレー!


こういう青春っぽいことをやらなきゃな!


何?さっきまでおっさんっぽい思考はどこへだって?

――そんなもん海と一緒に流してやれ!


昔海に来た時も司はこういうのやりたがらなかったし、どちらかと言うと逆ナンされて、俺だけ一人取り残されることが多かった。

前の世界では出来なかった友達と海で遊ぶ――最高に青春じゃないか!



「「「きゃああ!!!!」」」




甲高い悲鳴が響き、俺たちは声のした方へ振り向くとそこには信じられない光景を目の当たりにした。


そこにいたのは海から大きな体を出す、巨大なイカ

――そして触手に掴まれている茨木さんたちの姿だった。

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