第13話 とりあえず
――これくらいでいいかな?
妹ちゃんには事情話したし、ボイスレコーダーも渡した。
あとは明日の作戦を一人で決行するしかない。
――司は頼らない、今度こそ有言実行する。
「じゃあ、俺は帰るよ、包丁は机に置いとくからね。――後ろから刺すとかやめてね?」
「いいからさっさと私の目の前から――」
――どうしたのだろう?
いきなり妹ちゃんから途中で声が消えたので後ろ振り向いた。
妹ちゃんが青い顔してこっち見てるんだけど――まじでどうした!?
妹ちゃんは青い顔をしたまま走ってトイレに駆け込んでいった。
――突然気持ち悪くなったのか?でもなんで……
――考えても分からないし、とりあえず帰るか。
玄関の入口を開けた時にばったりと帰ってきた司と鉢合わせした。
き、気まずい……
なにか言わなきゃと司の顔を見ると満面の笑みだった。
え、なに!?
怖いんだけどッ!?
「――言いたいこと山ほどあるけど、まず最初にいっとくね?」
「な、なんでしょう?」
怖いんだよッ!
お前が笑顔だと!!
ちょっと!?
なんで拳にぎりしめてるんですかね!?
「歯食いしばれッ!!」
瞬きしたら俺の頬に司の拳があり。
そして次に瞬きしようとした時には俺はもう既に殴られていた。
意識は一瞬で持ってかれ、その後の様子は分からなかったが……
最後に司が「心配させんなバカ……」と吐き捨てたことだけは覚えていた。
□□□
「――いや、罵倒されて上に、殴られるほどひどいこと言ってないと思うですが!?」
「あ、バカが起きた――」
俺はベットから飛び起きる。
司の部屋に戻ってきたようだ。
――何これデジャブ?俺が殴られたのは幻覚だった?
「一応言っとくと殴り飛ばした後、運んだから幻覚だった――とかではないから安心しろ」
「なら安心……するわけないだろがッ!?」
何で殴った後平然と会話出来てるの?
サイコパスなの?
「なんでしょうか?――僕を過去に戻せないようにした挙句、説教かまして言い逃げしてった守さん?」
――ばれてるわ……
えっ、妹ちゃん止められなかったの?
――マジで?
「挙句何も言わず死んで――こんなボイスレコーダーで?お別れ済ませて?幸せになれって?――ふざけてるだろ?なぁ守?」
近い近い、言葉を一言一言いう度に近づかないでください
やめて!ボイスレコーダーで頬をぐりぐりするのやめて!
――というか最後のボイスまで聞かれたのかよ……
恥かしいんだが……
「す、すいませんでした……」
「許すわけないよね?これから僕の絶対言う事聞く、勝手な行動はしない――分かった?」
「は、はい……」
怖いわ!ガチギレだよ司!
でも今の司は前とは……
この世界の人生をゲーム感覚でいた1時間前とは違う気がする。
俺の死があって司を変えられた。
それだけ司にとって俺は大事な友人だったんだとうれしくなった。
……だけどこの作戦で司の怒りを買いすぎたな、もう二度とやらんぞ……
「――というか俺は未来で死んだのか?作戦うまくいくと思ったんだがな……」
「それも含めて紬と作戦会議だ。このゲームのシナリオに守が関わるなら僕も手伝ってあげることにしたから――ってことでこれかぶれ」
司は俺にレジ袋に穴を開けた物を手渡す。
えっ、何?どういうこと?
「紬がお前の顔見ると吐き気がするんだと」
「ひどくない!?」
メンタル弱い人が聞いたら心折れるぞ!?
いや嫌われてるの分かってたけど、そこまで!?
「――いや、妥当だと思うぞ?お前妹の目の前で死んだらしいし」
「なぜそんな事態に!?」
疑問は多いがレジ袋を仕方なく被ってリビングに顔を出す。
妹ちゃんはソファに座りながら、大人しく待っていたようだ。
こちらを見つけると怪訝な顔をする。
「おにい、後ろに不審者いるよ……離れたほうがいいって……」
「大丈夫だこいつは見知った不審者だ」
「兄妹そろって失礼だな!?」
お前がかぶれって言ったんじゃないかッ!!
――こいつらホントに俺に対して辛らつだよな……
渋々俺は妹ちゃんが座ってる反対側のソファに腰をおろす。
司は妹ちゃんの隣に座った。
「さて、何があったんだ?俺はお前ら兄妹と違って、未来の記憶ないんだ」
「僕も詳しいことは知らないけど、博物館で守が爆発四散したらしい」
「なにそれ怖い……」
爆発四散ってどうゆう状況?
あの2つのどちらかと契約しようとしたのならあり得る話か?
あの2つ、契約者がMP少ないとマナ暴走起こすんだよな……
妹ちゃんを見ると口元を抑えて吐きそうになっている。
よっぽどグロい絵面だったんだろうな。
「なぁ妹ちゃん巻き込むことないんじゃないか?こんなつらそうなんだし……」
「あんた……なんかに!――心配……されたく、ない!!」
「……そうか」
気持ち悪いのを抑えながら俺を睨んで答える。
そういう事なら仕方ない、付き合ってもらうか……
人手はいくらあっても足りない、戦力は多いほうがいい。
「じゃあ聞くけど、俺が死ぬ前まででいいから話してくれ」
「あんたの指図は……」
「紬……お願い?」
「わかった!」
司のいうことだと素直に聞くんだよなぁ……
それくらい純粋に兄の事が好きなんだろう。
司の方は塩対応というかなんというか――対応に困ってるのかな?
精神年齢は一回りくらい歳違うし、俺も分からなくはないが……
「えっと博物館に行事として行って、お昼ぐらいだったかな?突然停電が起こって、停電が治ったと思ったら角生やした気味悪い奴が私の目の前まで迫ってきてて――そして、そこの不審者が私と自分の位置を道具で入れかえて、後ろの方に転移させられた。不審者が前に出て契約がどうのって言ってその後は……あと…………は―――」
妹ちゃんが両手で口を押える。
司は妹ちゃんの背中をさすり、落ち着かせようとなだめた。
――話を要約すると角生やした奴が妹ちゃんに迫ってきた。
たぶんそいつは魔具から出てきた魔王の魂だな。
元のシナリオでは神宮寺だったが、俺たちが関わったことでシナリオに変化が起きてしまった。
その結果、妹ちゃんに憑りつこうとしたのか?
MPが多い妹ちゃんに標的を変えても不思議じゃないが……でもおかしいな?
俺だったらあいつに頼んで、魔王か神どっちか出たら殺してもらうはずだが……
もしかしてイレギュラーがあったのか?
それとも交渉失敗したか……
やっぱわからん!
「わかんねえ……」
「バカは難しく考えるな」
「ひどくね!?いやバカだとは自分でも思ってるけどさ!?」
「いいから聞けよ――まもちゃんはこの世界の知識が僕よりある。けど考える頭は僕の方が上だろ?――なら僕はまもちゃんの出した知識を元に考える。お前は思ったこと考えたこと全部僕に伝えろ。そしたら僕が最良の案を考えてやる」
――そうだ、そうだった。
俺一人で考えなくていいんだ。
だって今は、司がいるんだから――昔から俺が困ってると考えてくれる。
前の世界での作戦参謀で、ヒーローだった司が帰ってきてくれた。
司の余裕の笑みがとても頼もしく思えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます