第9話 妹エンカウント
俺も転生するとか、親友に殴り殺されそうになるとか……
様々な修羅場をくぐってきた。
この先どんなことあってもへっちゃらだろ!
――そう思っていた時期が俺にもありました。
黒髪の小柄な美少女が俺をベットに押し倒す。
――少女は息を荒くし、俺の片手をぎゅっと握っている。
確かに男の子なら誰もが憧れる状況だろう……分かる……分かるよ……
俺の頬に当たってるのが包丁じゃなければなッ!!
「おにいに近づく悪い虫は私が排除しなきゃ……」
黒髪の美少女はフフッと不敵な笑みを浮かべる。
――その瞳はどこか濁っているような気がした……ってお前もかよッ!
お前の兄貴の時にも同じ説明したんですが!?
――この兄妹はほんとそろいもそろって闇抱えすぎなんだよッ!
どうしてこうなったッ!!!
話は一時間前にさかのぼる。
□□□
翌日の学校はひどかった……
筋肉痛やら打撲でずっと痛かったし――挙句の果てに、司が俺を自分の友達に紹介しようとする。
――地獄かよ!
入学式も2ヶ月近くたった6月……
着々と仲良しグループが出来上がってる時にだよ?
そこに見知らぬ陰キャを放り込むのは拷問だからなッ!?
――まあ、前の世界と違って、友達は多くなく二人だけだった。
神宮寺マキアと隣のクラスのスポーツ系爽やかイケメンの風間切嗣――
二人ともゲーム内で見た男友達二人と名前と顔が一致している。
俺はどもりながらも二人と連絡先交換できるくらいには、しゃべることに成功!
明日の行事を一緒に回るという約束も取り付けた。
――おいそこッ!
俺のおかげだね――みたいにドヤるのやめろ!!
腹立つんだよ!お前に人の心はないのか!?
この鬼畜!!
その裏で俺と司はL・INEでやり取りをし、話し合った結果……
もう一度腰を据えて話したいとのことなので、放課後司の家で作戦会議となった。
司の家は俺の家から近すぎず遠すぎずといったぐらいの距離関係で――だいたい歩いて10分くらいのところにある。
――これから頻繁に行くことになりそうだし、遠くなくてラッキーだった。
放課後になり俺たち二人は司の家に向かう。
司の家は二階建てで、一階は生活スペース、二階はそれぞれの寝室となっていて――
一般的な二階建て住宅と言えるだろう。
――なんでそんな詳しく知ってるかって?
設定資料で見たことあるからな!
……この話司に言ったらキッショって言われるので絶対言わないがな!!
――そんな事を考えているうちに、司の家に着いたので中に入れてもらった。
中は静かで俺たち以外誰もいないようだ。
妹ちゃんは部活――親は二人とも海外出張で妹と今は二人暮らしだったっけか?
――親が海外出張とか、ほんと主人公っぽい設定だよな。
俺は司の部屋に案内されたのでそのまま部屋に入る。
中は思ったよりまともだった、男子高校生にしてはきれいに片付けられている。
――ゲームソフトや漫画、は棚にきれいに並べられ、勉強机もちゃんと使えるようにされている。
壁にはゲームのポスターが張られていて、小綺麗なオタク部屋となっていた。
――俺の部屋なんか、そこらじゅうに物が散乱していて床見えない状況なのに……
俺も時間見つけて片付けした方がいいかな?
「ほら、突っ立ってないで適当に座りな」
――司はベットに座り、俺は勉強机の椅子を借りて座る。
「さて、昨日の続き聞かせてもらえる?神と魔王がこっち来るってやつ」
「あぁ全部話すよ、昨日の話したこと含めてな……同じことを繰り返すかもしれないが、俺の再確認のためもあるから一応聞き流しといてくれ――」
俺は明日に起こるすべての出来事を話した。
神具と魔具がこちらの世界にくること――妹ちゃんがその日に転移で異世界に行って戻ってくること――そして神と魔王がとある人物にとりつくことを目論んでいることを……そしてその人物が……
「まさかマキアにとりつこうとしてるなんてね、美鈴ルートだと影薄いなとは思ってたけど、そういう伏線あったんだね」
「あぁ、神の器としても、魔王の器としても優れていることは間違いない」
なんせMP1000以上あるまさに化物……
――俺たちが束になってかからないと止めることなんてできない。
しかも神とか名乗ってるけど、やってることほぼ邪神だし……
――魔王に関してはそのままの悪行っぷりだった。
設定資料見ると邪悪という言葉を煮詰めたような二人だしな……
生きててはいけない悪ってあいつらのことを言うんだと思った。
それが最強の器なんて手にしたらほんと最悪だ……
――なので……
「俺たちはそれを阻止しようと思います、異論は?」
「――異論しかないけど?シナリオには絶対に関わらないからねッ!――あくまで僕は守と争わないけど、手伝うかどうかは別の話だよ?――関わるとしても美鈴ルートで、そっち絶対ヤバいのルートには関わらないからねッ!!」
――まぁうん予想通りというか、今の司ならそういうと思ってたよ。
今は昔と違う――まだ友達として争わないでいてくれるだけでもありがたいと思う。
――だが言わなきゃいけない……
まだゲーム感覚が抜けてない親友にこれだけは言わなければいけない。
「一応聞くけど本当にいいのか?ここはゲームのような世界だが現実なんだ――俺たちの体の記憶でそれは分かってるだろ?――ここで過ごした記憶も経験もある――この世界での大事な人たち――神宮寺くんや風間くん、それに佐藤さんやお前の妹もこのままだと危険な目に合うんだぞッ!!――お前は本当にそれでいいのかッ!!」
「うるさいなッ!!僕に説教するなッ!――何もできなくて僕にすがるだけの寄生虫のくせにッ――!!」
――それを言われると俺は何も言い返せない……
やっぱり今の司に何を言っても無駄なのだろうか……
何もできない自分に腹が立つ。
俺に出来ること、俺に出来ることは……
――自問自答しても答えが出ない、無為に時間だけが過ぎていく。
「困ったらだんまりかよッ!もういい!!」
司は部屋から勢いよく飛び出していく、俺は引き止める手だけが空を切る。
――俺に止める資格があるのだろうか……
元の世界で苦しんでいる司を放置した俺自身が……
落ち込む俺は気が付くことはなかった。
――部活から帰り、今の一部始終を聞いていた司の妹の存在を……
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