第10話 託す
――そして現在、俺と司の口論を目撃した妹ちゃんが激情して俺を刺し殺そうとしている――という状況になってしまった。
助けを呼ぼうにも、司は家の外に出ている――玄関の扉が開く音がしてからしばらく時間がたってるし、叫んでも聞こえないだろう……
どうしてそんな冷静かって?
元一般ピーポーだった俺だが、今はサードを手に入れて超能力少年だ。
包丁ごときでビビる俺では……
――嘘ですごめんなさいめっちゃ怖いです。
だからペシペシと包丁の腹で俺の頬を叩くのやめてください!
「殺そう殺す、そうしよう」
「いや殺人!殺人だから!」
だめだ人の話聞いてくれる様子がない、だって目のハイライトがないもの!
兄を傷つけられた怒りで我を失ってる!!
紬ちゃんは包丁を大きく振りかぶって、喉元目掛けて振りおろす。
『サード先生ヘルプミー!!』
『りょ~』
――俺の体はベットから転移して床の方に移動させる。
ついでに紬の持ってる包丁も転移させて、俺の手元に置いとこう。
――はい、無力化いっちょ上がり!
「――なん、で?――どうして?」
不思議そうに俺と自分の手を交互に見ている。
「将来マジシャン志望でね――これでゆっくりと話聞いてもらえるかな?」
「――話すことなんてない……おにいの敵は私の敵……」
「じゃあとりあえず聞け―――包丁が俺の手元にあるの忘れるなよ」
軽く脅すため包丁を紬に向けてみる。
――まぁ刺すつもりはさらさらないがな……
俺は刺されかけたけど……
「私が大声上げるとは思わないの?」
「やれるならやってみれば?――外に音聞こえない構造になってるから、俺が叫んでも聞こえないと分かってて、殺しに来たくせに……」
「………」
家の構造は設定資料で見て頭に入ってる。
両親が音楽関係なこともあって、それぞれの部屋に防音設備はばっちり整ってる。
主人公がどんだけ部屋でよろしくヤッテても妹さんに聞こえない理由これだったのかと納得がいった。
――さすがに扉開けっ放しじゃ防音もくそもないので喧嘩の様子きかれてしまったんですがね!
――こんちくしょうッ!運が悪いにも程があるぞ!!
「まぁ聞いてくれよ、俺からの最後のお願いだと思って――聞いてくれたらもう司にもお前にも関わらない」
「………なに?聞くだけ聞いてあげる」
「あぁ頼みっていうのは………」
□□□
守と喧嘩した後、僕は家に帰った――頭もだいぶ冷えた。
――だが守を許す気にはなれなかった。
体から記憶は確かに引き出せる――だが自分の体ではないような――
まるでゲームを一人称でやってるような感覚しかなく……
この世界で生きてたって実感がない。
だからこそゲーム感覚なんだよ、ゲーム感覚で何が悪い!
ゲームと一緒でコンテニューができるんだ!!
――だからゲームのキャラが何人死のうと僕には関係ないし、必要な人材いたらそのキャラが死ぬ前まで戻ればいいだけだ。
――それに僕はあっちの世界で困っている人たちを大勢救ったんだ。
「――なら僕だってゲームの世界でくらい自由にして何がいけないっていうのさ!」
『――傲慢だな……』
『口答えか?セカンド?』
『…』
ほんとこいつはしゃべらないし、口を開けば文句しか言ってこない。
――全くもって不愉快だ。
家に入ると妹がニコニコと僕の帰りを出迎えてくれる。
いつもニコニコしているが今日は普段以上に機嫌がいい。
――なにかいいことでもあったのだろうか?
□□□
――6月3日、僕は学校を休んだ。
シナリオに関わらないと決めた以上行事に参加するのもキャンセルだ。
妹は心配そうにしていたが、知ったことか!
ゲームキャラにいくら心配されても嬉しくも何ともないんだよッ!!
妹は名残惜しそうにこっちを見てたが、しばらくすると学校に向かった。
俺は漫画やゲームをしながら、シナリオが終わるのをダラダラと待つことにする。
――そう言えば、守どうしてるんだろ?
切嗣とマキアたちと回ってるだろうな、狙われるのはマキアだけだし、テレポートで逃げてくるだろ。
――そして僕に俺を助けてくれっていいにくるだろうな。
仕方ないな、その時はイヤイヤだけど友達のよしみで助けてあげようかな?
――そう思ってたんだ。
―――夕方、辺りも暗くなり始めたころ、スマホに電話がかかってきた。
画面を見ると妹からの着信だった。
――なんだ?珍しいなと思いながら電話に出た
「もしもし、どうした?」
「――時乃司さんの携帯でよろしかったでしょうか?」
「はい?――そうですが……」
――妹からかかってきた電話から聞こえてきたのは、妹とは違う女性の声だった。
「警察の者なのですが、妹さんを警察署まで迎えに来ていただけないでしょうか?」
「妹が何かしたんですかッ!?」
守から聞いた情報だといつかやりかねないとは思ってたが……
まさかもうやらかしたのかッ!!
誰だ!誰を殺したんだ!!
「い、いえ……どちらかというと被害者というか……詳しい事情は、署にてお話させていただきます」
「――すぐに行きます」
僕は外に出る最低限の格好で警察署に急いで向かう。
――嫌な予感がする。
元の世界で似たような感覚を体感したころがある。
被災地に向かうときのぴりついたあの感覚がずっと肌から離れない。
警察署につくと奥の部屋に通された。
そこで見たのは、学校に行った時の制服ではなく別な服に着替えて泣きじゃくる妹
妹を必死でなだめようとする婦警の人たちだった。
婦警の一人が僕を見つけると近づいてくる。
「ご足労いただきありがとうございます」
「えっと……何があったんですか……」
「――落ち着いて聞いてください……あなたにもかかわりがある話です」
「僕に?」
――心臓が早くなる。
その先を聞くなと警告のようにジージーと耳鳴りが聞こえる。
「えぇ、その……今日博物館にて人が不審な死に方をしてまして……その……あなたの友人の――鈴木守さんという方なのですが、ご存じですよね?」
――告げられたのは元の世界からの親友の死だった。
嘘だ……だって……あいつなら……
脳が考えることをやめた時、耳元ではっきり聞こえたんだ。
『お前のせいだ…』とセカンドの声ではない
別の道具からの……
恨みの声を……
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