第53話 モブキャラだけど助けたい

 7月3日の朝、別荘から俺たちはそれぞれの自宅前に送られた。

 本来なら、そのまま家に帰るのだが……歩きながらとある場所に向かう。

 向かっている最中に俺のスマホから着信音が流れる。

 画面を見ずにそのまま出た、何故なら誰がかけてくるか分かっていたから――



「僕の家に集合ね」


「もうついてるけどな?」



 俺は、司の家の玄関前にいる2人を目視しながら答える。

 距離的に電話の意味なかったんじゃないか?


 スマホの着信を切り、妹ちゃんと司に向き直る。



「距離近いだけあってすぐだったね、それじゃ早速――」


「待て待て!?気持ちはわかるが急ぎすぎだろ。妹ちゃんが話についていけてなさそうだぞ」



 俺がここに来ることを知らなかったのか、妹ちゃんはポカーンとしている。

 ――司?もしかして話してなかったのか?

 俺が司をジト目で見ると、てへっと舌をペロッとだした。

 お前がやってもかわいくねぇよ!?



「えっ……なんで鈴木が来てんの?」


「ちょっと用事があってな――いつまでそのポーズしてんだよ、いい加減説明してやれって……」



 やれやれとオーバーに手を広げ、首を横に振る。

 いや、やれやれって言いたいのは俺の方だぞ?

 てっきり説明されてるもんだと思ってたのに――



「そうだなぁ……一言でいうのなら、僕たち――ちょっくら異世界いってくる」


「――ごめん、おにい……ちょっと、何言ってるか分かんない」



 説明適当かよ!?

 そんなコンビニ行ってくるみたいなノリで言うなよ!?

 あぁもう!!



「ちょっと調べたいことがあって俺たちの前世の世界……っていうのかな?そこに行ってくる」


「前世が異世界って――中二病?……嘘つくならもうちょっとまともに――」


「「これはマジなんだって!?」」



 司と俺が同時にハモル。

 いや、確かに前世は異世界の住人ですって言ったら確かに痛い奴かもしれないけどさ!?

 なんか前にも俺が一人でつぶやいた気がするけどさッ!



「と、とにかく!俺たちしばらく姿を消すのに今回のお嬢様の拉致事件がいい方向に隠れ蓑に出来るんだよ」


「――あぁ、そういうことね」



 海外出張してる、時乃兄妹の親は誤魔化すのは容易だけど――俺のこっちの世界の親にどうやって言い訳しようか考えていた。

 だが、ちょうどいいタイミングで、あのお嬢がいい感じで親に言い訳を作ってくれたから、これで心置きなく行くことできる。


「……というわけで今から行ってくる」


「はいはい、気を付けて」


「ノリが軽いな?もうちょって引き留めてもいいんじゃないか?」


「止めてもどうせ行くんでしょ? おにいは気を付けてね……あとついでのおまけで鈴木もね」


 そう言って、妹ちゃんはガチャリと家の中へと消えていく。


 俺達はやれやれと顔を見合わせる。


「相変わらず守には厳しいな」


「あれでもまだましになった方だ。ごみを見る目から虫を見る目にグレードアップだ♪」


「……それ、大して変わってなくないか?」


 俺はMPを消費すると、目の前の空間が歪む。

 握り拳を作り、司の前に出す。


「さぁ、里帰りと行こうぜ親友!」


 司は頭をかきながら苦笑する。


「面倒だけど仕方ないか」


 司も拳を合わせて返す。

 瞬間、俺たちはこの世界から消え失せる。


 これはただのモブが主人公に憧れ、もがこうとするお話。

 誰かを守ろうとした男のお話だ。


 ――物語は終わらない。


 ――だがこの二人の話を語るのはこれまで。


 ――いつか……この先の物語を語る者が現れる。


 ――そんな日を夢見て、今はただ……この物語を閉じようと思う。

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モブキャラだけど助けたい ヒサギツキ(楸月) @hisagituki9

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