リプレイ35 とある母なるハイドラ戦の戦後処理もろもろについて(語り部:深きものの末裔MALIA)
一時はこのエリアにいるプレイヤーの全滅も覚悟しましたが。
ほっとひと息……つくヒマはありませんよね。
周りでざわざわ、そして、うぎゃー! とか言い出しました。
わたしにも、精神ダメージの清算がきました。
<ダイスの個数と発生原因>
MALIA……【6面ダイス×1】
内訳:ラニクア・ルアフアン使役の使用(目撃の精神ダメージは、種族特性により免除)
<精神ダメージ>
MALIA【4】
<正気度の増減>
MALIA【65→61】
わたしは、ぎりぎり閃き判定をまぬがれましたが……あぁ、やっぱりこれだけ大勢のゲストがいると、あちこちで発狂が頻発して、無事だった人たちもつられて暴動みたいな大騒ぎになってます。
半分は、ラニクア・ルアフアンを喚んだわたしのせいだと思うと、申し訳ないです……。
押し合いへし合いの混乱の中、わたしは
彼のほうも、わたしに気づいて振り向きました。
けれど、なんだか様子がヘンです。
身ぶり手ぶりで、何かを一生懸命伝えようとしているようなーーああ、正気度判定で引っかかってしまって、たぶん、声が出なくなるような症状を引いてしまったみたいですね。
今さらながら、背筋がぞっとしました。
もし、さっきの正気度ダメージで閃き判定になっていたらーー90パーセントの確率でそれが成功していたらーー
重症化して【暴力癖】や【殺人癖】を発症していた可能性も、決して低くはありませんでした。
けれど、結果論、ラニクア・ルアフアンなしでは勝ち目がない相手でした。
この世界の“魔法”の重みを、別の窮地を招くとわかっていても使わないと勝ち目のない種族格差を、ひしひしと感じさせられました。
とにかく、もうあの場でできることはありません。
わたしと
すみっこにジャングルみたいな森があるので、そこで目立たないように休むことにします。
さいわい、肉体的にはほぼ無傷だったので、わたしはお礼だけ言いました。
彼が声を出せなくなったのも結果論ですし、それでもあそこで待機してくれていて心強かったです。
さて。
彼の声が戻るまで、やれることをします。
わたしがニャルラトテップを呼び出すと、まだ水に濡れて乾ききっていない女の子の姿で実体化しました。
「ハイドラが復活していたというイベントが発生したということは、これで秘密教団はダゴンの復活も可能となったことになったはずですよね?」
ちょっと、ややこしい話をします。
【その通りだ】
このゲームは、リアルタイム後付けシステムによって、時に因果の“果”にあわせて“因”が変動します。
わたしたちは、ダゴンをラスボスとしたクエストを攻略中です。
たぶん、あの“ファインディング・クトゥルフ”のアトラクションでハイドラが復活したのは、わたしたちのクエストに連動した“イベント”の結果だったのでしょう。
そして、ハイドラの復活が可能になったのなら、ダゴンの復活も可能、あるいは夢ではないところにまで来てるはずです。
乱暴な理屈ですが、ダゴンとハイドラは同格なのですから。
わたしたちがハイドラと交戦したことで、ダゴン復活の局面にまでクエストが進行したことでしょう。
これでクエストクリアにかなり近いところにきたはずです。
ただ。
「ハイドラの逃げようとした方向について気になる、という閃き判定を行いたいのですが」
そう。
あの時のハイドラが単に逃げるだけなら、東京湾側に逃げるべきでした。
けれど、真逆のパーク内へ無理に進もうとして、結果的にやられてしまいました。
つまり、ハイドラにとって、その方向にはそうまでして逃げ込むべき目的地があったことになります。
そして、蝋人形博物館で出てきた“ムー大陸”というヒント。
【……見た所、君は殆ど確信を得ているようだ。
このゲームでは、そんな者がダイスを振るだけ時間の無駄だ。判定無しで構わない】
「ありがとうございます。
おそらく、ムー大陸は“シー”ではなく“ランド”側にあるんですよね?」
わたしたちが謎の“組織”と戦ったエリアーー
どうしてここだけが日本語表記なのか、なんとなく引っかかっていました。
これは、ラヴクラフトの有名作のひとつ“インスマスを覆う影”の漁村が日本にあったという設定で翻案された“
その中では
余談ですが、最初に
くずりゅう……九頭龍……くとうりゅう……くとうりゅー……くとぅるー……ほら。
さらに遡って考えてみましょう。
そもそもわたしたちが、ニャルラトテップから受注したこのクエストの概略です。
ダゴンのことを“和名:
それもそのはず。
わたしたちが追っているダゴン秘密教団は、この千葉県にあるテーマパークの運営会社を乗っ取った……言うなれば“日本支部”であるはずなのです。
次に、ムー大陸について考えてみます。
ラヴクラフトもネタに使ったというこの架空の大陸は、そもそもどこにあるとされていたでしょうか?
現実の太平洋です。
なんかすごい超文明を誇ったらしいムー大陸は、天変地異によって大半が水没したといいます。
そして、ハワイ諸島やマリアナ諸島は、大災害の時に沈まなかった部分とされています。
そしてまた、話を日本版クトゥルフものの地理に戻させてもらいます。
話があちこち行き来して申し訳ありませんが、あと少し、おつきあいください。
たしか、ラヴクラフトランドにインスマス、あるいは蔭洲升をモチーフとしたエリアはなかったはずです。
ただ、日本版
もうひとつ、南房総をモチーフとしたクトゥルフ神話独自の土地があります。
そして、夜刀浦に隣接する町が、
実はこの話をする前に、あらかじめスマホで検索したのですが、やはりありました。未知なるカダスやアーカムのように大がかりなエリアではありませんが、穴場スポットのひとつとして王港の外れにひっそり存在する“夜刀浦の夢”という場所が。
いくら夜刀浦ーー南房総が太平洋に面してるとはいえ、そこからムー大陸にいける! なんて一見して安直ではあります。
これ、ファミコンのRPGじゃないんですから。
けれどここは元よりテーマパークであって、アーカムもインスマスも、キングスポートも、まして未知なるカダスなんかも、本物ではありません。
というか、未知なるカダスやイースの都市ナコタスなんて、本物であってもらったら逆に色々と困ります。
だから、ここでいう“ムー大陸という名のスポット”も、別に太平洋にあるわけではない。
そもそも、ラヴクラフトランドの王港や夜刀浦は東西南北が真逆です。
これは元となったテーマパークの構造上、運営AI的にもやむをえなかったのでしょう。
とにかく、夜刀浦から望む“海”の方向こそがこのテーマパークにとってのムー大陸に相当する位置になったのでしょう。
だからなのです。
さきほど、ハイドラがわざわざ東京湾とは逆方向ーーラヴクラフトランドの方向へ逃げようとしたのは。
そこには、自分の信奉者達の本拠地があって……最も頼りにしているであろう旦那さんーーダゴンに助けを求めるための、最短ルートだったから。
そこにはただの森しかありませんが、このクエストの設定上はたしかに“ムー大陸”であるはずです。
「……と、
わたしは、ニャルラトテップにお願いしました。
【……後三つくらいはアトラクションを回らせるつもりだったのだが、かなりショートカットされたな。
我は感情無きAIであるから気にもならないが、君は現実でTRPGをする場合、少し自重した方が良い。
さもなくば、ゲームマスターに嫌われるであろう】
ああ、それですか。
「大丈夫ですよ。そもそも、そんな機会はこないと思いますから」
たぶん、一生。
現実の卓を囲んでするゲームなんて、わたしには。
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