リプレイ10 しんどいから無題(語り部:MAO)

 はぁ……。

 ボクが悪い。

 ボクが悪い。

 それでいいよ。慣れっこだし。

 最初から結論が決まってるヒトって、いくら反論しても無駄なんだ。

 あの状況、素早く静かにキャストさんNPCを始末しなければいけなかったわけで、文字通り一撃必殺の魔術を撃つ事は正しい側面もあったはずだよ。

 まして、狭い場所で総勢七人の入り交じる乱戦だったんだよ? 対象だけに作用する魔術を使うのは定石だし、壊せた部位が腕とか、ただちに死にはしないものであったとしても、その後を有利に戦えた。

 物事って、白か黒かの二元論じゃないのに、JUNジュンさんみたいなヒトって、あっちに不利な事実はナチュラルにスルーする、都合のいい鈍感力をお持ちだからね。

 ボクが反省すれば、関係が好転するならいくらでも反省するよ。

 けど、あなたたちって真実、んでしょ?

 嫌う理由が消えてしまうんだから。

 だからボクに、能動的に構わないでほしい。

 次に戦闘があるなら、盾にでも捨てゴマにでも、好きにすればいいでしょ。

 

 さて。

 マッドネス・マウンテンに乗って帰らぬヒトとなったHARUTOハルトさんが、五体満足でボクらの前に帰ってきたよ。

 新しいアバターを作り直して、戻ってきたんだね。

 これによって彼の正気度も最大値である85に戻った。

 もちろん、精神疾患によるマシンガントーク癖も無かった事にされ、寡黙な彼が戻って来た。

 この辺の処理、ストーリー的にはどういう理屈なんだろうね。

 まあ、別な自衛隊の仲間と新たに合流した、とか?

 この辺の、同一人物が何度も復帰できるメタ的な事情をあまり突っつき過ぎるとゲーム自体が成り立たなくなるので、そこは誰も深くは考えていない。

「……とても形容不可能な、酷い目に遭った」

 で、彼は何だかクトゥルフ小説書き始めたビギナーみたいな濁し方で報告してきたよ。

 所詮、VRゲームだって矮小な人間が作った世界なわけでしょう? 名状し難いだとか、形容し難いだとか、クトゥルフものを都合良く解釈して表現を放棄した“逃げ”なんじゃないの。

「……物理的には充分に実現可能な要素ばかりなのだが、自分を攻撃して来たトラップの形状や材質を言語化させない事に関して、非常な拘りを感じた」

 なるほど。

 それは確かに“名状し難いもの”だ。

 ああ、はからずも、ラヴクラフト著作の同名タイトルと同じオチがついたよ。

「……気になるのであれば、自分で乗って見る事を推奨しよう」

 断じて遠慮しておきます。

 とにかく、眠れるMALIAマリアねーちゃんが目覚めるまで、多分もうすぐらしい。

 次にどうするか、決めなきゃって流れになる。

「我、無貌の神に今また乞い願わん」

 LUNAルナねーちゃんが、また無駄に浸るような事を言って、運営AIのニャルラトテップを呼んだ。

【ご丁寧にどうも。どう言ったご用件かな?】

「ねぇねぇ! 私達、ダゴン教とも違うある第三勢力の“組織”に物陰で襲われる、って展開に出来ない!?」

 ものの数秒で先のキャラを崩壊させたねーちゃんは、目をキラキラ輝かせながら頭のおかしい提案をぶち上げた。

【パーク内も意外と、裏通りは人気が無いからな。パレードの騒音に乗じて、など、やりようはあるが。

 ……寧ろ、諸君らに何のメリットがある?】

「“組織”に狙われるって、ロマン!」

 即答だよ。

 ねえ、このヒトの利敵行為のほうが、ボクのミスよりよほど悪質じゃないの?

 あと、この上更に別勢力作らせるとか、話をややこしくしないでよ。

【我は構わないが、お仲間が承服するか、そちらで話し合ってくれたまえ】

「……悪く無いな」

 ええっ!?

 唯一まともだと思っていたHARUTOハルトさんまで、リアル発狂したよ。

「でしょ?」

 

「その“組織”、装備も潤沢だと、なお嬉しくない?」


「ああ、そいつらは銃とかで武装してるわけね?」

「……セオリーだな。よし、それで行こう」

 何だか、旧知の三人で勝手に話をまとめてさ、

「……君の意見は、どうだ。MAOマオ

 どうせ。

 形だけの問いでしょ。

「ぁ……えと、いいアイディアだと、ボクも思いますよ! 賛成ですっ!」

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