リプレイ09 狂気をもって狂気を支配せし狂人の末路(語り部:LUNA)

 仲間達が戻ってきた。

 とにかく話は二の次にして、私達は救護室のあった“アーカム”エリアを離れ、隣のエリアまで退避した。

 山岳地帯をイメージした“未知なるカダス”エリアに入って、ようやく落ち着いて話を聞けた。

 ……いや、ぶっちゃけHARUTOハルトが鬱陶しい事になっている。

「……と言う訳で我々のパーティでは初の魔術の実戦投入となったのだが6面ダイスの精神ダメージと言う反動はやはり現実的に厳しい事が再認識出来た今回は各魔術の使用感を見る為もあり積極的に用いた格好となったが次回よりは慎重に行使せねばならん正直な所医療キャスト三人との戦闘よりもその後の発狂、及び、新手のキャストとの遭遇時には全滅の危険さえあった事も肝に銘じて我々五人全員の共通認識として行かなければならないとの私見をここで述べたい」

「はいはーい、リ~ダ~さーん、言語中枢やられちゃったのかなー?

 さしあたり、スキル【精神科医】を処方しますんで、まずは落ち着いて僕の声に耳を貸してくださーい」

 そう言って、JUNジュンが、耄碌もうろくした老人を宥めるようにして肩を並べた。

 そして、カウンセリングみたいなものが始まった。

 とにかく、こっちは実害も小さいようだし、専門家に任せておこう。

 と言うか、早く修理して欲しい。このままだと本気でウザい。

 MALIAマリアの方は、ベンチに寝かせてある。

 マイペースでおっとりとしている彼女を、至近距離で敵に回した場合の危険性は、一緒に“HEAVEN&EDEN”をプレイしていた私達が良く知っている。

 話を聞くに、今回、JUNジュンは本当に頑張ったと思う。態度はああいう、飄々としたものだけど。

 

 今回、私は蚊帳の外だったけど、先の戦いについて分析してみよう。

 HARUTOハルトの言う通りだ。

 看護士たちの暗殺は首尾良く行ったみたいだけど、その後、本格的に増援が来ていたら全滅していただろう。

 閃き判定の生じる精神ダメージは5。

 対して、ほとんどの魔術の使用には6面ダイス一個が振られる上、モノによっては今回みたいに効果を目撃してもう一個6面ダイスが振られてしまう。

 そしてやはり、HARUTOハルトMALIAマリアの頭が良すぎる厳しさが、今回の結果に早速現れたのだと思う。

 ひとたび閃き判定に掛けられれば、かたや85パーセントの確率で、かたや90パーセントもの確率で発狂させられてしまう。

 ……まあ、結果論ではあるけど、MAOマオの【生体イタズラ】が無ければ、誰一人閃き判定にはならなかった。

 笑ってない目でJUNジュンが言ったその言葉にも、一理あるとは思う。

 対するMAOマオは、下唇を引っ込めてうつむき加減となり、しゅんとした顔になっていて、可哀想でもあったけど。

 若い時の過ちなんて、私にもJUNジュンにも、皆にあるってコトを考えたら、あまり責めないであげた方が、とは思うけど。

 私の場合は現在進行形っぽいところもあるし。

 ええ、多少の自覚はありますとも。

 

 ほか、特筆すべきはHARUTOハルトの使った【メンタル・クラッシュ】かな?

 自分の消耗は1~3の低燃費ながら、相手には必ず6ダメージ=閃き判定を強いる。

 ダメージ交換としては非常に安く、確実に有利にするだろう。

 挙動に癖もなく、弾丸が光速だから事実上の必中。

 絵面は地味だけど、人間の敵相手には極めて強力だろう。

 ……塵も積もれば山となる、と言う言葉の本質をずっと意識できていたなら、だけど。

 一回あたりの消費の安さが、逆にいやらしい仕様だと思うよ。

 さて。

 【精神科医】による全自動カウンセリングは、ちょうど終わったみたいだ。

 ここで、6面ダイス一回分の回復が行われる。

 今回、発狂の発端となった彼のダメージは8だったから、4以上が出れば一度で治るハズ。

 8ダメージの被害を5(閃きの発生値)未満になるまで、後から帳消しするイメージで思ってもらえれば。

 仮に先のダメージが5であれば、どの目が出ても発狂は治るし、10だった場合は6を出さない限り治らない。

 とにもかくにも、運命の賽は投げられたーー!

 

 【2】

 正気度回復:77→79

 

 ……はい、一度では治りませんでした。

「もう一度、トライするかい? 次に2以上が出れば治るし」

「……いや止めて置こうMALIAマリアの回復にはまだまだ時間を要するとは言え全員で待機するメリットは薄いので適当なアトラクションを単独で探索して来る積もりだ丁度そこの“狂気山脈マッドネスマウンテン”なるアトラクションがお誂え向きだろうちょっと行って来るので皆はここで待って居てくれスマホでLUNAルナと通話状態にして置くのでそれを以て内部の様子の伝達を行う」

 と、自分でも口上が終わらないうちに背を向けて、彼はあそこのマッドネス・マウンテンへと去って行った。

 ……何か、反論の余地がもらえなかったんだけど。

 あんな一方的にしゃべくられたら、口が挟めない。

 結果、救護室でも敵を油断させられたらしいし、ある意味彼に都合が良い状態にも見える。

 まあ、狂気を逆利用するってのも、クトゥルフものならでは、なのかな?

 

 で。

 彼がアトラクションに入ったらしい。

 ジェットコースターみたいな、ライド型らしい。

 走行音がうるさいし、彼の実況は相変わらずで要領も得ない長口上だ。

 ただ。

 そのウザ口上が、ある瞬間にピタリと止まった。

「えっと……HARUTOハルト、大丈夫?」

 いやーな予感。

 中で何が起きているのか、彼にしか分からない。

 ライドに固定された状態で何を見て、どういう攻撃を受けて、どういうダイスロールが行われて、その結果がどうなのか?

 同行しなかった以上、私達がそれを知る術は、彼の説明以外に無かった。

 ……ぷつりと途絶えた彼の沈黙が、全てを雄弁に語っている気がしてならない。

 私はもう一度、彼の名をスマホに向かって呼んだけど、

 

 

莫迦バカめ! HARUTOハルトは死んだわ!》

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