リプレイ50 HARUTOの頼み?(語り部:鞭の信奉者INA)

 サーバーのクリーンアップだとかで、かなりの時間を待たされたけど。

 それがようやく済んで、あたし達は舞浜駅で復活した。

 ……けれど見た所、他パーティの姿は無く、あたし達とHARUTOハルト達のパーティ、8しか居ない。

 そう、一人足りないと思ったら、肝心のHARUTOハルトだけが居ない。

 ……と、思ってからワンテンポ遅れ、彼が、見た目あどけない黒髪の少女を伴って現れた。

 いや、あれは確か彼のパーティのニャルラトテップだったか。この場合、少女に伴われて、と言う方が正解だ。

 それで。

 何故、HARUTOハルトの復活だけが一瞬遅れたのか、その事情はすぐに説明された。

 このゲームでの、一年間のアカウント凍結処分。

 まあ、ゲームのルール内とは言え、あれだけの実害を出せば、当然ではある。

 寧ろ、永久に出禁で無いだけ、運営AIの采配にしては甘いとすら言えた。

 それで、彼はニャルラトテップに頼んで、アカウント凍結の実際の行使を今からきっかり一時間だけ待ってて貰うと言う。

 やり残した事がある、とか。

 それは、

「……JUNジュンMAOマオ

 名指しされた二人の仲間が、訳も分からない面持ちで、一応彼の目線に応じたけど。

 

「自分がゲームを去る前に、君達の決闘を見せて欲しい。戦闘によるタイマン勝負だ」

 

 さも、確定事項のように言うけど、

「はい?」「何だって?」

 当の二人は、全く寝耳に水のようで。

 当人達には、そんな予定全く無いのは明らかだ。

「……君達の間に、未だわだかまりがあるのだろう」

 外様とざまのあたしには良く分からないけど、図星らしい。当の二人は、微妙に目線を泳がせた。

「……実力で決めるが良い。自分は、それを見届ける為に、戻って来た」

【飽くまでも一時間だけだがな】

 なるほど。

 あるいはHARUTOハルトは、自分の猶予時間をも利用しているのかも知れない。

 一時間と言うタイムリミットを突き付ける事で、あの二人の背中を押す為に。

 JUNジュンが、肩を竦めて一歩で。

「いいよ、やろうよMAOマオ。うちのリーダーの、最後の頼みだ」

「別に、リアルで亡くなるわけでもないでしょう」

「おや? 逃げ腰かい? 僕の事、嫌いなんでしょ」

「あなたこそ」

「違うね。見限っただけだ」

「じゃあ、ボクもです。自分を見限るのは、何も年上や目上にかぎらないことを、知ったほうがいいですよ」

 MAOマオも、前に進み出た。

「何でも良いよ」

 JUNジュンは、懐から銃を取り出してーー遠くに放り投げた。

「武器はナシ。魔術アリ。この条件でいいよね?」

 MAOマオも、同じように銃を投げ捨てた。

「ええ。どうせやるなら、直接ぶん殴ってやりますよ」

 良く分からないけど、遂に、宿命の対決が始まるーー、

「……INAイナ、その記録は君に頼みたい」

 ーー。

 ……って、えっ?

「あたし、が?」

 他人事のようにぼさっとしていたら、不意打ちを喰らった。

 そっちのメンバーじゃ、駄目なの?

 ……駄目なようだ。

 彼の、一見して無感情な眼差しが語っていた。

 二人から一番遠いあたしの方が良いのだろう。

 まあ、そう言う事であれば。

 あたしも、ジャッジの為に、彼らの間へと踏み出した。

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