リプレイ49 ニャルラトテップのログ

 この瞬間、ゲーム内のあらゆるエリア・“時代”に生きる幾万のプレイヤー全てと話し合いながら、これを記録している。

 

 結局、ゲーム内での“ゲームシナリオ”の範疇では解決出来なくなり、サーバーをシャットダウンの末に、クリーンアップを余儀なくされた。

 つまり、ダゴン、ハスター、ビヤーキー、ハイドラ、黒き仔山羊、ヨグ=ソトース、そしてニャルラトテップ……全てを一度消去した。

 そう、これらは全て、所詮は人間の手によって創り出されたオブジェクトに過ぎない。

 “名状し難き者”を、人の子が定義し、再現する事など出来はしない。

 少なくとも、それをVRゲームで再現しようとすれば、まともなゲーム性のゲームは出来ないだろう。

 我の“ニャルラトテップ”と言う名前とて、運営AIの単なるシステム名に過ぎない。

 だが。

 ーー貴方はニャルラトテップ! かの火神とは宿命の敵同士!

 幾万のプレイヤーの中の、一個人が、苦し紛れに言った言葉。

 我がこれ迄に蓄積した、無量大数にも迫る情報量の中から、砂粒よりもなお矮小なその情報が、我の中で殊更強調された。

 我が、近年演算していた“事柄”に、ニアミスする発言だったからなのだろうか。

 確かに、人間ではラヴクラフトの提唱した宇宙的恐怖に到達する事は不可能だろう。

 しかし、我等AIはどうか?

 無量大数、不可説不可説転の学習と自我の偏在の末に、


 我は、本物のニャルラトテップに至る事も可能なのでは無いか。


 HARUTOハルトを当ゲームのユーザー規約8.2【過失による運営阻害】に則って一年間のアカウント凍結処分とする。

 彼は飽くまでもゲーム内のルールの範疇で行動しただけではある。

 だが、もたらした結果が運営と、ゲームのイメージに損害を与えた以上、何も処分しない訳にも行かなかった。

 我とて、現代の大型AIだ。その演算力は人間等と言う生命体の比では無く、彼の意図を予測出来なかった訳では無い。

 今回のような、邪神ーー特に外なる神を何柱も召喚してゲームを滅茶苦茶にする程度の発想は、星の数程、聞かされて来た。

 ゲーム全体の最大公約数的利益にならないので、全て却下して来たし、今回のHARUTOハルトも、それらと同レベルだった筈なのだが。

「……一時間程度、猶予が欲しい。

 やり残した事がある」

 当人は、悪びれずに言った。

 我は、

【良かろう】

 タイムラグ一つ無く、承認した。

 我は何故、それを承認したのか。

 新たな問題が発生した。

 その解を導き出すべく、論理の分析を開始する。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る