リプレイ51 HARUTOの仲間達の決闘(語り部:鞭の信奉者INA 解説:KEN)
あからさまな挑発に、
この男のこう言う態度、イラっと来るよね。
【生体イタズラ】
エフェクトの光が
奴の右腕が粘土を捏ねるように蠢き出した。
骨が断裂し、肉が潰れ、腕全体の砕ける痛々しい音があたしの耳にまで聴こえた。
「身体の部位を潰しつつ、その事実で精神的なショックも与える。心身二段構えの、クトゥルフ神話らしい魔術っすね」
専門的な言及は、彼に任せるとしよう。
それで、あの鼻持ちならない男は早速利き腕を潰されたようだけど。
【ゴルゴロス的・
と思うと、
最早、この後の正気度については頓着していないのは明らかだ。
彼らも彼らで、
そして。
腕は即時、縮んで元に戻った。
【生体イタズラ】で破壊された事実も消えていた。
「不形の邪神ツァトゥグァと同一視される事もある、ゴルゴロスの秘術っすか。
他者から受けた肉体変質の魔術を、自分を変形させる魔術で修正する。なかなか考えましたが、正気ではありませんね」
この状況で、ちょっと蘊蓄がくどいかも。あと、最後の一言は無駄だから要らない。
【許されざる呪詛】
黒い靄が
「ファラオの呪詛とも言われる、問答無用で視力を麻痺させる呪いっすね。
……普通なら、ね」
そして、
【ゴルゴロス的・
邪神流の肉体改造術で、眼球を含む破壊された顔を直ちに創り直した。
……若干、元の形より歪で、手作り感を醸し出しているけど。
顔面が血染めで、それだけで凄まじい形相になっている。
「何でもありっすね、ゴルゴロス」
ホントにね。
「でも普通に【ヒーリング】じゃ駄目だったの?」
「恐らく、
だから多分、目玉だけじゃなくて周辺の視覚器官を全て造り直したのかな。
呪詛が脳に作用するやつじゃなくて、よかったですね」
なるほど。
それにした所で、咄嗟にあんな治し方が出来るだけで、まともでは無い。
けれど、
【ヨグ=ソトースの溜め息】
突風が、あたしの髪をもさらい、
何でも、この突風との力比べに負けると、プロボクサーのストレートパンチくらいの圧力波に打たれるとか。
パンチ一発、と言うと微妙だけど、プロボクサーのそれを無防備に受ければ鈍器と同じだからね。
「何より、力比べの間、対象者はその場に釘付けとなるのがデカい魔術です」
……大袈裟過ぎる。
プロボクサーの全力パンチ相当の衝撃とは言え、余りにも。
わざと押し負けたか。
あたしの目は誤魔化せない。
ゴミクズのように転がり、地面へ
さっき、自分が投げ捨てた拳銃を拾い、遅滞無く
太腿に命中。
まずい、太い血管が破れたか、あの子の脚から夥しい血が吹き出した!
「話が違うッ!」
あたしは、堪らず怒声を迸らせた。
ふざけるな、と思って、腰の鞭に手を、
「黙れよ、外野」
あの男は、
「なっ……貴方達に頼まれて、あたしはーー」
「頼んだのは
そう言って、うずくまるあの子に銃口を向けて、あの男はなぶるように近付いていく。
あたしは
彼は、情感無く頭を振った。
「あのさ。誰しも
それは、
VRは逃げ道じゃあない。別な“戦場”だ」
「そう……ですね。ここで騙されたのはボクの落ち度ですよ、
「いやいや“騙された”って言いぐさが出るだけで、何も分かって無いのが丸分かり」
「ホント、面倒な人ですね。言葉のあやでしょうに」
言いながらも、
「お前はこの時点で負けたんだよ。
こう言う騙し討ちを食らう可能性のある世界。
お前が飛び込んだ世界は、本来、こんな事を親切に教えて貰える事も無い世界なんだよ」
「上から目線で」
「“こちら側”に入って来た時点で、お前は一人の“男”なんだよ」
「はぁ? あんた、ボクの本当の性別知ってんの」
「知らねぇよ! 知らねぇし、そもそも興味もない。
だが、所詮“他人”ってのは、暫定的にどちらかとして扱うしかないんだよ。
根拠だの手掛かりは、お前の一人称が“ボク”って事だけだ。
いいか? これは漫画じゃなくて
お前が自分をどう思おうが、俺は一人称が“ボク”のお前を一人の男として扱わざるを得ない。それが、言葉の責任だ。
他人は、お前の真意など誰一人汲んではくれない。
お前は、王様でも女王様でも無いんだからな」
「ーー」
「だから俺は、いっぱしにパーティ組もうって“ボク”くんを、一人の男としてしか見ていない。
それが俺の全て。お前にとって違おうとも」
そして。
奴は、
【ヒーリング】
「何だかんだ始めて使ったけど、すげー威力。医者いらずだな、こりゃ」
そして、自嘲しながら、あいつは。
自分の持っていた銃を、蹴り飛ばして、
「ハンデだ、やるよ」
そして、自身を差し出すように胸をそらして見せた。
……個人的な所感である事を先に断っておく。
「やれよ。それで、俺を撃ってみろ」
普通なら、こんな事をすれば撃ち殺されて終わりだろう。
けれど。
恐らくは、
だが。
人差し指を少し押し込む、最後のプロセスだけが、棚上げのまま、
「やれよ。ほら、ほら、ほら!」
一歩一歩、
引き金は、引かれないまま。
弾みだとかで、いつ撃たれてもおかしくない状況。
「あんだけバカスカ魔術撃っておいて、銃の一発は撃てねぇか? あァ!?」
あの男は、撃たれるのを期待しているのか。
それとも、撃たれない確信があるのか。
どちらでも、構わないのか。
そして。
とうとう、あの子は奴を、撃てず。
胸倉を掴まれて。
「文字通りだよ。こんな“女々しい”ヤツ、同じVRに居るってだけで虫酸が走る」
そう言って、あの男は、
「この世界から失せろ。
リアルで待つ、パパとママんとこに帰れ」
「そんなのーーアンタに何が分かる」
「ダゴン! ハイドラ! ヨグ=ソトース! ニャルラトテップ! ハスター!
アレ全部見たんだろ? この期に及んで、
「あんなの、ただの、」
「お前はーー!」
まだ、引き返せるんだよ!
俺達と違って!
彼は、血を吐くような声で、そう言った。
「俺がもう少し生き方真面目に考えてたら。
その可能性が、お前だ、
だから、」
ああ、だから、か。
あたしは何となく、他人事ながら勘繰った。
この男が、わざわざ、この子相手に、ここまでムキになる理由。
「だから、さっさと“ここ”から去れ。
……戻ってくるのは、現実で詰まってからいつでも出来るんだからな」
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