リプレイ52 パーティ解散(語り部:LUNA MAO MALIA JUN)

【面白い余興であった】

 ニャルラトテップが意外なコトを言った。

 散々中二っぽく、あれをニャルラトテップと持ち上げまくった私が言うのもなんだけど、運営AIは機械でしょう。

 そう言う情感があるものなのかどうなのか。

 で、

 愛くるしい美少女の姿をしたそれが、どこか嬉しそうにダイスを取り出して、

【精神ダメージ清算の時間だ。

 

 ・生体イタズラの使用、および、効果の目撃

 ・ゴルゴロス的肉体美化エステティックの使用、および、効果の目撃×2

 ・許されざる呪詛の使用

 ・ヨグ=ソトースの溜め息の使用

 ・発破の指先の使用

 ・ヒーリングの使用】

「私達、もうログアウトするから」

 私が代表して、すげなく言った。

 これ以上、付き合いきれるか!

 

 そんなわけで、ボクたちはゲームをログアウトして、自分たち以外の何の物体も存在しない無の世界“フォルム”に帰っていた。

 “何のVRゲームもプレイしていない状態”とも言える。

 ここではインターネットも、他人とのトークや通話も自由に行える。

 他の仲間たちも、ボクと同じように立っていた。

 ボクは。

 ずっと、兄か姉がほしいと思っていた。

 そうすれば、何かが違っただろう、と。

 けれど。

 実際に兄弟のいる人からも聞いたことがあるけど……何故だか、そんなに良いもんじゃないってわかったよ。

 いたことないのにね。

「他、消える前に言うことは?」

 いくらか余裕を取り戻したJUNジュン……さんが訊いてきた。

「特に、何も。ボクはこれで、現実世界に帰りますよ」

「ああ、そうしてくれ」

 しっし、と手振りでボクを追い払う素振りを見せるから、

「ありがとう、JUNジュンにーちゃん。

 HARUTOハルトにーちゃんも」

 そう言って、手を振り返してやった。

「ーー」

「……どういたしまして」

「これから暮らす世界は別々になるけど、またトークか何かで連絡はするよ。じゃあね」

 返事を待たず、ボクはVR世界そのものからログアウトした。

 

 LUNAルナが、僕の後頭部を結構容赦なくどやしつけた。

 痛いな。

 と言うか、こんな“フォルム”の世界でまで律儀に物理演算すること無いよな。

 誰が得するんだよ。

「最後の最後で、してやられたんじゃない」

「別に。僕の方は争ってたつもりはないけど」

「初めて、心から笑ってくれたね、あの子」

「そうだっけ」

「月並みだけど、天使の笑顔だったね」

「聖書での天使だの神だのは、悪魔より人類を殺してそうだけどね」

 まあ、ようやく肩の荷がおりた気がする。

 しかも何だか、思った以上に軽くなった気がする。

 やっぱクトゥルフものは精神的にしんどいってのはホントだね。

 と言うかHARUTOハルトに付き合わされると疲れるってのもあるね。相乗効果だ。

「まあ、僕はまた、何ヶ月かゲームせずに寝て過ごすことにするよ。

 お決まりの台詞だけど、君らもゲームは小休止を挟んで、程々にして下さい。

 主治医からのお願いだ」

 

 ……私も一度、眠りに入ろうと思う。

「…………そうか」

 気のせいかな? いつもよりHARUTOハルトの発言前の沈黙が長かったのは。

 まあ、プレイ中に何度か言ったように、クトゥルフものは精神的に非常にキツいジャンルだった。

 クエストひとつクリアしただけで、ホントに満身創痍だったよ。

 まあ。

 色々と、整理だとか頭を冷やす時間がほしいってのが本命の本音。

「結構、長い付き合いになったね」

 6ゲーム、一緒にやってきたからね。

 思えば長かったよ。

 ……って言い方したら、金輪際のお別れみたいな言い方だけど、私がまた目覚める気になったら、もちろんまたパーティを組むつもり。

 ……その時に、彼の方が私を必要とするなら、の話だけどね。

 どうなんだか。

「……また会おう」

 へぇ。

 彼にしては上出来のリアクションをもらえたよ。

「では、悠久の果てに待つがよい。この私の、新たなる覚醒めざめを!」

 うーん。

 こんな時に、出来がイマイチ。

 私は彼に背を向けて、

「またいつか……ね」

 “フォルム”からも去り、まどろみの中に意識を沈めた。

 

 ……あっという間に、さみしくなりましたね。

 わたしですか?

 休止とかはしませんね。

 だってですもの。

「ふたりだけ、になりましたね」

「……そうだな」

 君は来るのか? 来ないのか? という問いもないようで。

 LUNAルナさんやINAイナさんの言ったとおりですね。

 彼は、誰のこともようです。

 とても優しいです。

 そして。

 同時に、とても哀しい。

 わたしなんかが、彼の生き方にどうこう言えるものでもありませんが。

 せめて、一緒に、それでいて自然体でなんとなく、VRライフを満喫しましょうか。

「もしかしてHARUTOハルトさんがVRの世界にいるのって」

 ーーわたしと同じ理由、だったりします?

 とは、口にはしませんでした。

 聞いて、何かが変わるわけでもありませんし。

「……君と同じ理由かも知れないし、違うかもな」

 あらら、あっちは遠慮がなかったようです。

 ちょっと損しました。

 

 それではみなさん、また会う日まで。

 さようなら。

 

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東京ラヴクラフトリゾート ~VRMMO制度の世界を淡々と生きる男~ 聖竜の介 @7ryu7

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