リプレイ28 HARUTOだけを殺すクエストで、(語り部:鞭の信奉者INA)
あたし達は“夢の国で暗躍する邪教徒プレイヤーの始末”と言うクエストをニャルラトテップに希望し、承認され、受注した。
該当するターゲットは1パーティだけらしい。
うん、知ってる。
特定の友人などと、殺り合う関係となるプレイスタイルは、このゲームの
あたし達は今、ラヴクラフトシーの中央、カルデラ湖を模したアンネイマブル・アイランドでアトラクションの列に並んでいた。
螺旋階段が地下へと続いており、行列もそれに沿っている。
あたし達が乗ろうとしているのは、海底二万マイルのルルイエだ。
「だから、ラヴクラフトの世界を人間の手で再現するのは不可能なわけ。“名状し難いもの”が、いい例だろう。
人間には言語化出来ないものこそが宇宙的恐怖の本質なのに、後の作家は“名状し難いもの”にハスターと言う名前を与えてしまったんだ。
そもそも旧支配者に、人間の決め付けた四大元素を当てはめている時点で、ラヴクラフトの思想が全く理解されていない」
「その四大元素やら善悪二元論の設定については、ラヴクラフト自身がノリノリで参加していたと言う説もあるんだがな。
そもそも、誰のどの考えも間違いではない、と言う懐の深さがクトゥルフ神話の魅力だと思うが?」
順番待ちを持て余しているのか、
この人達、前々回の世紀末世界では、あたし共々頭の悪そうなヒャッハーモヒカンライフを送っていた癖に、クトゥルフものの世界に来ると途端に面倒なインテリオタクに豹変してしまった。
けれど……。
あたしが居ても、こうして自分を出して話してくれるようになったと考えると、少し安心もした。
と言うのも、前々回での世紀末ゲームの時、人との接し方、仲間が何なのかが分からなかったあたしは、ユニーク・スキルを笠に着て、彼等に酷い仕打ちをしてしまった。
前回のファンタジーゲームで
勿論、彼等が結果的について来てくれたからと言って、許される事では無いと思う。
どう接して行くべきか、どうすれば償えるのか、あたしは一生かけて考えていかなければならない。
「
「ぇ、あっ、あたしに振らないでよ! どっちも正しいって事で良いじゃない」
「てことは、オレと同じく、ダーレス以降のクトゥルフ神話肯定派ってことっすね! 全てが正しいと言うことはッ!」
「それは言葉のあやだろう! 勝手に
ああ、でもこのゲームは正直、さっさと
オタクの宗教戦争で板挟みにされるとか、面倒臭いにも程がある。
さて。
螺旋階段を降りても洞窟が続いていて、行列も続いていた。アトラクションまで、半分って所かな。
ここでは、元々のアトラクション同様にネモ船長の発掘した品や文献が展示されている。
それと、彼の冒険を綴るストーリーの音声ドラマが流されているのだけど、
《そろそろ、この手記を書き上げてしまおう。
船体が音を立てている。何か、ツルツルした巨大なものが体をぶつけている音だ。
だが、例え破られたとしても、私を見付けられはしない。
……いや、そんな……あの手は、何だ!?
ああ、窓に! 窓に!》
なるほど。
この世界線では“ダゴン”の犠牲となった探索者はネモ船長だったのか。
元となったテーマパークを、そっくりラヴクラフトの物にすげ替えた結果なのだろうけど、何か、こう……運営AIの細やかな仕事を感じた。
あと、そんな事を手記に書いている暇があったら逃げろ、と言う突っ込みは無粋なので言いっこなしで。
ああ、ちなみに元のテーマパークで港町をイメージしたエリアに“ラヴクラフトの倉庫”とだけ書いてある建物があるのだけど、こっちでは“ウォルト・ディズニーの倉庫”に改変されていたよ。
ようやく順番が回ってきて、小さな潜水艦の形をしたアトラクションに乗り込んだ。
これだけミニマムだと、潜水艦と言うよりは脱出ポッドだ。
船体全体が振動して、潜水の感触がリアルに再現されている。
覗き窓から、無数の気泡が立ち上る様が見える。
《しまった、エンジントラブルだ! だが、何としてでも地上に帰還するぞ!》
船長だか何だかを演じているナレーションが、ご丁寧に状況を説明してくれる。
あたし達四人、それぞれの手元に、サーチライトを操作する装置があるのだけど。
それで、見たい所を照らせるようだ。
何も見たくない……と言いたい所だけど、操作しなかったらしなかったで、サーチライトは正面を照らし続ける訳で。
早速、人間大の何かが光に暴かれた。
いや、それは実際、人間型の生き物ーー魚の質感を持った半魚人“深きものども”だ!
「で、出たー!」
と、リアル恐慌に陥るクトゥルフマニアの
肝心な時に頼りにならない……。
一方、
前回のファンタジーゲームでは、重装備の
それで、問題のアトラクションについて。
漁業に使う古めかしい
この“潜水艦”を襲われないように、との配慮なのだろうけど、余計に不気味だ。
それで、
【この忌まわしき深きものを直視してしまった君達には、6面ダイス×1の精神ダメージを被った】
ガイドのニャルラトテップが、他人事のように宣った。
そして、ダイスが振られる。
<精神ダメージ>
INA【4ダメージ】
RYO【2ダメージ】
KEN【6ダメージ(閃き判定)】
TOMO【2ダメージ】
<閃き判定>
KEN(成功率:70)
【82(失敗)】
おおっ! 危ない所だった……。
数字で見ると、この世界で頭が良い事の恐ろしさが分かる。
とにもかくにも、発狂が免れただけ御の字ーー、
《あっ、あれは! 船長、あのイカのようなものは!》
《いかん、クトーニアンだ! 進路を変えろ!》
サーチライトに照らされ、覗き窓を通してあたし達を睨み付けているのは、巨大な、イカのような化け物だった。
あたしが事前に調べた所によると、クトーニアンは、大王イカのような見た目に反して水に弱いらしい。
実際、今、目の前に突きつけられたクトーニアンも、水槽の中に拘束されて衰弱しているようだった。
これも、潜水艦ーーアトラクションの乗り物を直接襲わせない為の戒めなのだろう。
【この、現実に存在してはならぬ冒涜的な異生物を目の当たりにした諸君らは10面ダイス×1の精神的痛手を受けた】
<精神ダメージ>
INA【2ダメージ】
RYO【5ダメージ】
KEN【5ダメージ】
TOMO【8ダメージ(閃き判定)】
<閃き判定>
TOMO(成功率:60)
【29(成功)】
よりにもよって、ヒーラーがやられた。
幸か不幸か、彼の場合、外科処置の為にリソースを食われた為にスキル【精神科医】を覚える余裕は無かった。
したがって、そのスキルを習得して仲間の正気度を回復させられるのは
狂気回復要員が狂気に呑まれるよりはマシだったか。
結果的にこのパーティ、心・身の担当が別々になっていた事でヒーラーのリスク分散が出来ていたみたいだ。
<精神疾患の発症内容>
・TOMO【盲信】
地上に戻ったら、何はなくとも
《よし、色々あったが全員無事だな?
いいニュースだ! 修理は完了し、浮上の目処が立った。本艦はこのまま水面へ出る!》
《せ、船長、あれを見てください! 前方、三時方向を……》
《三時方向だと? ただの岩ではーーいや……あれは……》
《玉虫色に自己発光する、タール状の、不定形……》
《ショゴスだーッ!》
テケリ・リ。
テケリ・リ。
覗き窓の向こうで蠢く“そいつ”が、形容不可能な鳴き声であたし達の聴覚を侵した。
目が、人間のそれに酷似した眼球が、無数に付いている。
それもその筈。
クトゥルフ神話において、ショゴスとは、あらゆる動植物の祖とさえ言われている。
この不確かなショゴスの細胞から、全てが生まれたのだと。
【地球の真理を物語るこの原始生物を視認した諸君らは、10面ダイス×1の精神ダメージを受けた】
ニャルラトテップが無慈悲に言った。
<精神ダメージ>
INA【9ダメージ(重症)】
RYO【3ダメージ】
KEN【3ダメージ(重症)】
TOMO【6ダメージ】
あっという間に二割の正気度を削られた、あたしと
<精神疾患の発症内容>
INA【被害妄想】
KEN【気絶】
<正気度の増減>
INA【正気度:45→30】
RYO【正気度:85→75】
KEN【正気度:66→52】
TOMO【正気度:55→39】
最悪だ。
神話生物目撃三連続とか、無理に決まってるでしょう!?
こんなアトラクション、乗るんじゃ無かった……。
正直、好奇心に負けた部分もあった。
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