リプレイ41 HARUTOはどこにいる……と言うのを理屈っぽく説明される(語り部:鞭の信奉者INA)

 後れ馳せながら思った。

 このゲーム、迂闊に動くと自分も仲間も酷い目を見る。

 一挙手一投足を、慎重に決めなければ。

 これまで、世紀末の世界もファンタジーの世界も踏破しておいて、この令和レトロの世界でようやく気づけた真理だ。

 とにかく、あたしの目的はHARUTOハルトを始末する、ただその一点。

 それだけを見据えて、無駄無く行動するには。

INAイナさん。そもそも、HARUTOハルトのヤツは、何かヒントになることを言ってなかったんですか?」

 暗中模索に悩んでいたら、KENケンに言われた。

「ヒント、と言われても……」

 目星が全くつかないので、数少ない彼とのやり取りを、時系列順に、なるべくありのままを伝えたけど。

「それであたしは、あいつが邪教徒プレイを宣言したのに対して言った。

 面倒だから、何を崇めているのか教えろ、って」

「すると?」

 KENケンTOMOトモが、身を乗り出してあたしに迫る。

 門外漢のRYOリョウだけ、一歩離れた場所に取り残されている。

「……と言われた。

 あたしがムッとすると、と言われた。

 言わないのでは無く、言えない、と」

 煙に巻かれたようにしか思えない物言い。

 あたしには、そうとしか思えなかったけど。

「ああー」

 TOMOトモが、いともあっさり、得心の顔を見せた。

「……何?」

「言葉通りですよ。

 人間には言えないーー名状し難いもの。

 ラヴクラフト以外の作家が“ハスター”と言う名前を勝手に与えた、旧支配者。それが、ヤツの崇める“邪神”と・や・ら! ですよ」

 何かもう、怨念すら孕んだ言い方で、彼はあたしに解を告げた。

 あー、ほら、ダーレス以降のクトゥルフ神話肯定派のKENケンが、チッとこれ見よがしに舌打ちして、

INAイナさんの手助けしたいんなら、普通にもの言えよ。

 まあ俺も、ヤツの言う神はハスターだと思いますよ」

 ここまで来るのに積もり積もったものがあるのか、KENケンTOMOトモの両人は、下手すれば取っ組み合い寸前の勢いでメンチを切って。

 それを、あたしとRYOリョウの二人でどうにか仲裁しつつ、

「それで、その邪神ーーその、便宜上ハスターと呼ばれてるーー」

 “邪神”と言えばTOMOトモに睨まれ、だからと言って“便宜上”と前置きするとKENケンに睨まれる。

 もう、もうっ!

「何なのアンタらッ! あたしっ、あたしばっかり、アンタらの板挟みじゃない!」

 もう何か、涙が浮かんできて、あたしは癇癪を炸裂させて。

 普通に、HARUTOハルトの行方を追うだけの話してるのに、何で、こう、ちょっとした言葉選びの差異で、どっちからも責められなきゃいけないの!

 ……ってことを露にしたら、二人とも、取り敢えずは反省してくれたけどさ。

「……ここからは、重要な事だけを言います。

 とにかく、HARUTOハルトのヤツがロールプレイで崇拝する対象とは、名状し難いもの“ハスター”なのでしょう。

 前提がクトゥルフ神話で縛られているこのゲーム内で、わざわざそんな言い回しをするとしたら、他に可能性は考えられない。

 問題は、ヤツは、十中八九“それ”を喚ぼうとしている事です」

「……“それ”を喚ぶとしたら、かなり複雑な条件が入り交じることになるでしょうけど……さしあたり、“場”という観点からアプローチするなら、“黒きハリ湖”になるでしょうね」

「何処なの? そこは」

「アプリでパークの情報を全部見ましたが、どストレートに黒きハリ湖をモデルにしたエリアやアトラクションはありませんでした」

「ただ、ここはあくまでもテーマパークです。

 未知なるカダスも、大いなるイースの未来都市ナコタスも、あくまでもモチーフでしかありません」

「そうなると、逆に問題は単純になります。

 元となったテーマパークの性質と、ハスター召喚の条件を念頭に、照らし合わせればいい」

「つまり、黒きハリ湖に見立てられる場所と考えれば、候補は限られる……というか、一ヶ所しか考えれません」

「ラヴクラフトのシーと名付けられ、水をモチーフとして築かれた、この巨大複合施設。

 その中で、唯一、湖ーーつまり“淡水”ーーをイメージしたエリア」

 それってーー、

 

 カルデラ湖を模した、

 アンネイマブル名状し難い・アイランド。

 

「夜に、水面が黒くなったそこで、ヤツはハスターを喚ぶはずです」

 

 三人寄れば文殊の知恵、という言葉を、今ほど痛感したことはない。

 ご、ごめんね、RYOリョウ

 言わずには居れなかったんだよ。

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