リプレイ25 偽りの神格と偽る神格による欺瞞に満ちた喜劇(語り部:LUNA)
【ヨグ=ソトースの溜め息(リスク:6面ダイス×1)】
確か、五秒間魔術との力比べをさせられ、負けると殴り倒されるものだ。
一方、対抗する気も無かったであろう
勿論、この子とて好きで自傷に走っているわけではないだろう。
そうしないと打ち消せないような、耐え難いレベルの“何か”をVRで苛まれているはずだ。
ムカデのような無数の節足を、目に見えてぐっとたわめると、交戦していた
その場から連れ出すので精一杯だった。
視界が、あの気持ち悪い巨物で一杯になる。生臭い、コケの腐ったような臭い。
入り乱れる触腕の間を、ほうほうの体で逃げ惑うけどーーハサミのついたものは、躱し切れない。
そう悟った私は、少しでも距離を離そうと、もうひと跳び。
痛い、と言うより熱い。
裂かれた肉から大量の血が流れてるのは何となく感じられるけど、麻酔越しのように感覚が鈍かった。
そして。
乱れ、交差する無数の銃声。
そして
ガラスを引っ掻いたような怒号を上げ、ラーン=テゴスが、後ろ半分のムカデ脚を伸ばし、棹立ちのようになる。
私はその、無数の脚と胴体との接合部のひとつにマグナムの照準を合わせた。跪いたような、無理な体勢だけど、こんな至近距離で、あれだけ的が大きければ外しようもない。
発砲。
脆い外皮が、中途半端に肉をこびりつかせて砕けた。多数ある脚のひとつが根本からもげた。
そこへ、夜の奔流のような長い髪の女が踏み込んだ。
おびただしい体液を滝のように流し、次第に金切り声が弱まっていく。もうひと押しだ。
偃月刀を引き抜いた
そして、とうとう、ラーン=テゴスがもがくのも止めた。
脚が巨体を支える事を止めて脱力すると、後ろ手に倒れて動かなくなった。
いや、まだ虫の息ではあるのか、ピクッ、ピクッとは動いている。
ファンタジー世界での習性で、どんな再生能力があるかもわからないからトドメは確実に……とか考えてしまったけど、その間にラーン=テゴスは完全に沈黙した。
土壇場まで魔術を使うか迷ったけど、結果、銃などの常識的な武器だけで何とかなってしまった。
「だから言ったのに」
逃げ惑っていたオラボーナが、途端に態度を変えた。
「この“大いなる神”を目覚めさせてはならない、と。あなた様の為の忠告だったのですよ」
私がさっき、頭の上半分を吹き飛ばしたロジャーズの亡骸に近付いた。
「お見苦しい所をお見せしました。これらの展示物は私が修繕の後“ラーン=テゴスの生贄”と言う新たな作品として展示し直すつもりです。
きっとより良い作品に仕上がっていますので、また後日、改めてご来館下さい」
主だったロジャーズの襟首を掴んで、こちらまで引きずってきて、ラーン=テゴスの死体に添えるようにした。
なるほど。こう言うオチか。
VRゲームのシナリオという前提があるから、すんなり納得できたけれど。
私は、何となく“私たちのニャルラトテップ”をコールしてみた。
いつも通り、美しく均整のとれた少女の姿で具現化した。
まあ、何の躊躇いもなくオラボーナの側に行き、その脚に、頬杖をつくようにして寄り掛かっている。
悪びれた様子のひとつも無いと言うことだ。
「恐らく、貴方がたに有用な情報がございます」
まるで今気づいたかのような白々しさで、あの男はロジャーズのポケットをまさぐり出した。
……こいつを“男”と断言していいのかは微妙だけど。
とにかく、オラボーナがロジャーズのポケットから取り出したのは白いスマートフォンだった。
よく見ると、落としまくったのかボロボロだ。
ロックが掛かっていたので、オラボーナは、ロジャーズの亡骸の指を押し付けて指紋認証で解除した。
そして。
「ロジャーズ様に魔術書を与え、ラーン=テゴスの情報を提供したのは、その道では大掛かりな組織であったようです」
そう言って、ロジャーズのスマホを一人一人に掲げて見せた後、
令和当時、既に個人の連絡手段としては斜陽気味だった電子メールと言うものでのやり取りだった。
「それは差し上げます。詳細の隅々まで知りたければ御自分で読んで頂くとして……要約すると、ラーン=テゴスの復活は、ダゴン秘密教団の計画の一つに過ぎず、ロジャーズ様は騙されていたようです。
このままロジャーズ様が平穏無事であった場合、“ムー大陸”にてラーン=テゴス共々、迎え入れる予定だったようですね」
ムー大陸。
名前からして、コトの胡散臭さが倍加するだけのネームバリューはあるのだけど。
「……ムー大陸の存在は、ラヴクラフトの著書でも言及がある。短編作品の“永劫より”が有名だな。
そして、その他の作家によって、クトゥルフの支配地ともされている」
今回の宿敵はダゴン秘密教団。
奴らが崇拝する父なるダゴンの親玉はクトゥルフ。
ムー大陸は、クトゥルフのおうちでもある。
“シー”も含めたラヴクラフトリゾートのどこかに、ムー大陸をテーマとしたエリアがあるのだろうか。
インパーク前にざっと全体の地理は調べておいたのだけど、そんなエリアは無かった。
「さて、それも良いけど、いい加減治療しないかね」
タイミングを見計らったように、
既に応急処置キットをスタンバイしていた。
いててて、そう言えば、ラーン=テゴスのハサミで背中を抉られていたんだった。
死闘の余韻が薄れ、手懸かりについて考えようと落ち着くにつれて、ズキズキ痛みだしてきたよ。
それに、魔術の精神ダメージ清算もそろそろ起こる頃だろう。
話は、それらがすっきりしてからだ。
ちなみに、後でニャルラトテップに質問してみた。
「もし、私達がここを見つけるダイスロールを二回とも失敗していたら、どうなっていたの?」
【オマケと称して、ラヴクラフトシーの“インスマス・エリア”へ行くよう促していた】
美少女の顔をした無貌の神が、やっぱり悪びれもせずに白状した。
ダゴン教団を探すクエストで、そんな安直な場所は探そうとも思わないだろう。
……運営AIのメッセージと言う、唯一の手懸かりがあれば、別だけど。
こんな安直なオチであるはずがない、と思いながらも一応、探さざるを得なかっただろう。
【なお、一度目の“運”の方のダイスロールに成功していた場合、諸君らはラーン=テゴスと遭遇する必要は無かった。
ロジャーズとラーン=テゴスは既に始末されており、今のオラボーナとのやり取りから始まる筈だった】
だからか。
二度目、
二度目のダイスロールのチャンスを貰うのに、私達は知らずのうちに「ラーン=テゴスと戦わされる」と言う代償を支払わされていたコトになる。
やっぱり、諸々の意味で性格の悪い運営AIだと思った。
一応、公正中立が鉄則のVRゲームのゲームマスターとしても、この振る舞いはいかがなものか。
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