リプレイ19 とあるテコ入れについて(語り部:MALIA)

 LUNAルナさんの治療も、無事におわりました。

 一度目の回復量は【2】でした。

 二度目の回復量は【6】です。

 これで合計8の回復となり、精神疾患は治癒しました。


<正気度の増減>

 HARUTO【正気度:84】

 LUNA【正気度:43→51】

 MALIA【正気度:73】

 JUN【正気度:71】

 MAO【正気度:50】

 

 すっかり日が暮れました。

 LUNAルナさんが退室し、部屋にはわたしとJUNジュンさんのふたりだけとなりました。

 みんな、それぞれにやることがあるらしく、寝る人は誰もいないみたいです。

「本当におつかれさまでした」

 わたしは、心から彼に言いました。

 VRMMOのパーティで、誰が一番がんばったか、というのは本来なら言いっこなしの不文律があるのですが、今回ばかりは言わずにおれませんでした。

「どーも、ありがとう。疲れたよ、実際」

 そう言って彼は、一階のコンビニエンスストアで買った地ビールの瓶を開き、ラッパ飲みしました。

 ちなみに、このへんのホテルのコンビニで、こういう飲み物を買うと無料で栓抜きがついてきます。豆知識ですね。

「……MAOマオに、死んでアバター作り直せって言って治療拒否するかも、とか思った?」

 彼は薄く笑ってわたしにきいてきました。

「いいえ。JUNジュンさんはそんな人ではないです」

「たった一日ちょっとの付き合いで、ありがたいお言葉だね」

「そこはお互いさまですよ。あなたの動きをみていたら、わたしを信頼してくれてるのが伝わりました。言葉にしなくても」

 JUNジュンさんは、買ってあった地ビールの一つをわたしに差し出し、

「キミも飲む?」

「ええ。いただきます」

 栓を抜いてくれました。

 銘柄はインディア・ペール・エールという、度数も苦味もキツめのやつでした。

 わたしは遺伝的にアルコール代謝が強いほうなので、なんでも飲めますけど。

「そんな事、言わないさ。死んでアバター作り直せ、って話ね」

 話を戻しながら、彼はビールをまたあおりました。

 わたしも一口いただきます。

 ……うん。豊かなホップの風味と、キリッとした苦味がおいしいです。

「陳腐な話をしていいかい?

 “愛情の対義語は、憎悪ではなく無関心”ってね」

「ああー、有名ですね。エリ・ヴィーゼルの言葉でしたっけ」

「へぇ。安直にマザー・テレサって言わないあたり、流石はINT18だね。HARUTOハルトにも思うんだけど、何でキミみたいな現実でうまくやっていけそうなのが、わざわざVR側で暮らしてるの」

「まあまあ、そのへんは人それぞれですからねー。それを言うなら、JUNジュンさんだって」

「ま、そうなんだけど。

 って、これ以上、ここを掘り下げるとLUNAルナちゃんがかわいそーになってくるから、本題に戻しましょ。

 ……“お前を治したくない、死んでアバター作り直して来い”って言うのは、直接傷付けるのには一番の突き放し方だろうさ。

 でもね、僕は別にMAOマオを傷付けたいわけでは無い。恨みもない。

 悪いけど、あいつを憎むのにビタ一文、僕のエネルギーを使いたくないんだよ。

 僕はMAOマオを敵視してるわけでは無い。

 もう、見限っただけだ。

 ここは、勘違いされたくない」

 ーーそのために、わざわざ何時間もかけてMAOマオさんを治したのですね。私情を抜きにしても、死んでもらったほうが圧倒的に時間短縮になって、エネルギーも節約できたはずなのに。

 ……と、言いかけて、わたしはやめました。

「見限った相手とは、一切の接点を作らないのが正しい振る舞いだ。

 その接点と言うのは、ここでは、それこそ暴言や制裁、何なら無視と言う行為も含められるね。

 いじめの様式によく“無視”ってあるけどさ、あれだって嫌いな奴を“構って”るんだと僕は思うね。

 仮に僕が暴力とか言葉でいじめられたら、こう思うもん。

 そんなに嫌いなら、シカトしててくれよ、って。

 僕の存在、無かった事にして、そっちはそっちで好きにやってくんない? って。

 シカトされて傷付くのは、相手に期待がある場合に限られるし。

 大体、無視以外の悪意をぶつける事もまた、相手に何らかの“期待”を抱いている証拠だ。それを、押し付けんなよ、とね。

 僕は、早々に他人を見切って期待を断ち切る事を知っているつもりだ」

 うーん。

 なんか……ですね。

 いえ、まだ材料もそろってないうちから決めつけるのは、失礼なのですが。

 彼の言うとおり、わたしたちはまだ、パーク入園までの準備時間をふくめても、一日ちょっとの仲です。

 HARUTOハルトさんや、LUNAルナさんでつながったから、わたしとJUNジュンさんは早期に打ち解けられたのでしょうし。

 けれど、だとしたらーー。

 ……。

 そうだ、いいこと思いつきました!

JUNジュンさん、今ちょっと、後付けシステム使ってもいいですか?」

 話も落ち着いた様子のJUNジュンさんが、ビールの瓶を置いて目を丸くしました。

「別に、僕は全然構わないけど……今、急ぎでやる事なのか?」

「いいえ。善は急げと思っただけです」

 そしてわたしは、ニャルラトテップをコールします。

 無貌の神は、あどけない少女のように小首をかしげて、わたしの言葉を待ちます。

 そして、

 

「わたしの家系図をさかのぼると、ご先祖に深きものどもディープ・ワンの人がいたことにできますか?」

 

【可能だ】

「えっ、キミ、酔ってんの?」

「いいえ。わたし、全くのシラフですよ。なんなら、線の上を歩くだとか、証明する方法があればなんでもします」

 そして、わたしは続けます。

「今、この瞬間、わたしの身体にその遺伝が表面化し、ディープ・ワンとして覚醒します」

 つかみでニャルラトテップの反応がよかったので、つい断定口調になってしまいましたが。

【認めよう。ゲームシステムとしてのメリットは、【水中呼吸】【水泳選手】をはじめとしたディープ・ワン固有のスキル取得と、筋力に三割程度の物理演算優遇。

 デメリットは、君が生まれを自認した事による10ポイントの最大正気度喪失(これによる閃き判定は無い)・陸上での歩行に若干のぎこちなさがある。

 これで納得出来れば承認しよう】

「それでおねがいします」

「マジかよ……」

 わたしがGOを出すと、ニャルラトテップはマシーンのようなレスポンスで、わたしになにかしました。

 脚がバキバキ音をたてて、こねくりまわされるのがわかります。

 それはすぐに済みましたが。

 変化したのは……どうやら脚ーーより正確にはおへそより下ーーだけのようです。

 JUNジュンさんに見えないよう、着衣に手を忍ばせて確認すると……お魚のような、ザラザラした手触りが。

 なおかつ、わたしの脚に手の触れた感触がたしかにありました。

【今回は夢の国という場所柄にちなんで、二足と尾びれの可変方式としておいた。サービスだ】

 人の身体をモビルスーツかなにかみたいに言いますが、たしかにそれは助かりますね。

 とにかく。

 わたしにできることは、ふたりが、みなさんがもっとスリリングなゲームを共有できるように頑張ることかなと思いました。

 

<正気度の増減>

 HARUTO【正気度:84】

 LUNA【正気度:51】

 MALIA【正気度:73→70(最大値70に減少)】

 JUN【正気度:71】

 MAO【正気度:50】

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