リプレイ18 HARUTOからの挑戦状?(語り部:鞭の信奉者INA)

 昼過ぎに、HARUTOハルトから連絡があった。

 と言っても、仮想情報顛末ウインドウを使えないこの時代設定、かつ、行動を共にしている訳では無いあたし達は、本来なら通信手段が無い。

 そこで、魔術の出番だった。

 長い黒髪を伸ばした女ーーつまりあたしーーだけを写していたホテルの鏡に、彼の姿が映った。

 背後を振り返っても誰も居ない。

 昔の時代とは言え、現実に近い世界観でやられるとなかなかのホラーだ。

 正気度ダメージがあっても不思議では無いけど、流石にゲーム側もそこまで鬼では無いようだ。

《……我々のパーティは今、東京ラヴクラフトリゾートのクエストを攻略中だ》

 ふむ。

 テーマパークも楽しめて一石二鳥の話だね。

 ……って感想が出てくるあたり、あたしも相当毒されて来てるのかも。

《……ランドの攻略中、負傷者を二名出して撤退。今日は拠点のホテルへと帰還した。

 明日は再びランドの探索を行う予定だ》

 なるほど、明日、彼らのパーティはランドを攻略するのか。

 じゃあ、あたしのパーティは“シー”から攻めようかな。

 以前のあたしなら、これを聞いて即、ランドまで追い掛けたのだろうけど。

 あいつを馬鹿正直に追い掛けると結局遠回りする羽目になる、と言う過去の教訓がある。

《……我々は、ある邪神の復活を目論む集団だ。

 つまり、最終目標は、その神格の招来にある。

 それでは、お互いに武運のあらん事を》

 そして、彼の虚像は消え去った。

 彼は今回、邪教の魔術師プレイをしてるのか。

 じゃあ、あたしは邪神復活を阻止する正義の探索者だね。

 鞭スキルのルーツで設定した“生い立ち”とも良い感じにマッチしてくれたし。

 あと。

 ここまで連中の話を聞いて来た中で気付いた人が居たかは分からないけど……HARUTOハルトの正気度がさり気無く1減っていたのは、今の魔術通信のせいかと思われます。

 

 さて、あたしのパーティをご紹介しよう。

 ついでに、各々の正気度とINTもここで。


 INA  正気度:45 INT:10

 RYO  正気度:85 INT:12

 KEN  正気度:60 INT:14

 TOMO 正気度:55 INT:12

 

 と言うか、前々回の世紀末ゲーム“カレント・アポカリプス”で組んでいた面子と同じだ。

 前回の“HEAVEN&EDEN”では、ゲームの好みが合わなくてRYOリョウ以外の二人とは一旦別れたのだけど。

 今回は寧ろ、KENケンTOMOトモも大のクトゥルフ好きだったらしく、快くパーティに加わってくれた。

 ただTOMOトモの方は、どうもクトゥルフ好きと言うよりラヴクラフト原理主義者と評した方が良さそうかも。

 たまにKENケンとギスギスした議論になる。何だか、同じものが好きな筈なのに……オタクって面倒臭い。

 前回のファンタジー世界では、鉄壁のタンク役としてあたしを護ってくれたパートナー・RYOリョウだけど、今回もあたしを保護した警察官と言う設定をニャルラトテップに後付けさせる事で、自身の体力を強化するクレバーさを見せてくれた。

 KENケンは、教団への復讐の為、蛇の道は蛇として魔術に手を出した設定で、最初からいくつかの魔術をゲットしていた。こちらも流石だ。

 TOMOトモは【応急手当て】等の医療系スキルを修得。今回はヒーラーに徹してくれるようで、ありがたい。

 まあ……先のメンバー表を再読頂けると分かるけど、全体的に正気度が低くてINTが高めなのが不安な構成ではある。

 やはり、鞭スキルの為に生育環境までいじったのが、思いのほか重い影響を及ぼしたのか。

 元々、あたしの正気度は75あったのだけど、30も持っていかれたのは痛い。

 あたし個人としては、どの道、鞭を手放せないハンデはハンデにならないのだけど、パーティ全体の利益を考えたら、そこまで欲張って良かったのかどうか。

 ……文字通り、後悔は後でしよう。

 まだ、あたし達の戦いは始まってすら居ないのだから。

 あたしは速やかに、RYOリョウにスマホの使い方を教えて貰いながら四苦八苦しつつ、ラヴクラフトリゾートの公式アプリをダウンロードし、四人分のパークチケットを手配した。

 

 ちなみに。

 アプリから、シーにはどんなアトラクションがあるかを調べてみた。

 何だかんだ、あたしも元ネタのテーマパークは好きだし、そこへ行くのは結構なお祭り気分になれる。

 で、

「ファインディング・クトゥルフ ~ダゴン&フレンズ~って、何?」

 KENケン達に訊いてみた。

「ああー、ダゴンのお友達……と言うか奥さんになるんですが、母なるハイドラとか、モブ敵で深きものどもが沢山出てくるって感じじゃないですかね? 超スピードに乗せれた状態で」

「つまり?」

「乗ると、死ぬか狂います」

「じゃあ、このセンターオブ・グ=ハーンって?」

「グ=ハーンは、クトーニアンと言うイカのクリーチャーが溶解液を吐き散らして襲ってくる地底都市っすね。最悪、体長2キロのシュド=メルってのが待ち構えてる可能性もありますし、そうでなくても死にます」

「……この、タワーオブ・ヨグ=ソトースは?」

「名前からして、一番あかんやつじゃないですか。ヨグ=ソトースと言うのは、このゲームのタイトルでもある“外なる神”、つまり最上級の神格ですから。

 召喚に石塔が必要って説もありますから、それを掛けた宇宙的ジョークでしょうね。ははははは。

 ヨグ=ソトースが出てくるとしたら、端っこ数ミリ目視しただけで、同じ空気吸っただけで絶対死にます。

 それも、元ネタのタワーって、乗り物が垂直に上昇してから落ちるやつなんでしょ? それじゃ、逃げる余地も無く死にます」

「……海底二万マイルのルルイエ」

「ルルイエは、乱暴に言えばクトゥルフの寝所ですかね。

 星辰がほぼ正しい位置に来る必要がありますが、浮上すれば、世界中の誰も彼もが死にます。

 現実には不可能な非ユークリッド幾何学的な構造の建物なので、見ただけでも心臓の弱い奴は死にます。

 それを、わざわざ潜水艦で、サーチライトで照らしてまで自分から調べに行くって……乗ったら死にますよ」

「…………ランドルフ・カーター・ストーリーブック・ヴォヤッジとか」

「カーターの生涯を追うアトラクションっすか。

 元となったアトラクションのことも考えると、ゆったりと荘厳な旅が満喫できそうですね!

 銀の鍵を手に入れ、ドリームランドを旅し、やがてカダスへと至りニャルラトテップと戦って、夢の世界から追放されて現実に戻ってからフランス外人部隊に入って第一次世界大戦を戦い抜き、退役後に魔術書に記載された地下墓地を探索し、同行していた友人のウォーランを亡くし。

 やがて、再び銀の鍵を用いて何処かへと旅立った彼の姿を見た者は居らず、まあ十中八九死んでますね。

 そんな彼の人生を追体験するアトラクションだから、乗れば死ぬでしょう。

 それと、ここで言うストーリーブックと言うのは多分ネクロノミコンを意味しますね。元のアトラクションもアラビアン・コーストってエリアにありましたし、カーターが読んだそれもアラビア語版だったそうですしね。

 読んだら、良くて狂うか、最悪の場合、死にます」

「結局、どれ乗っても死ぬんじゃない!」

「あー、そんなもんですよ。クトゥルフの世界って」

 訊いたあたしが馬鹿だった。

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