リプレイ17 HARUTOを追って(語り部:鞭の信奉者INA)

 あたしの名はINAイナ

 “連中”の中に居るLUNAルナと、字面的に紛らわしいが、血縁とかの意味深な繋がりは一切無い事を先にお伝えしておく。

 あたしは、これまで二タイトルのVRゲームにおいてHARUTOハルトを追って来た。

 仲間では無く、宿命の敵として。

 目下の所、勝率は0勝2敗。僅差と言える。

 敵とは言っても、それは戦闘にのみ限った話であり、個人単位としては彼らのパーティと親交もあった。

 LUNAルナMALIAマリアとはプライベートで食事やショッピングに行く間柄だったし、JUNジュンは一番殺した敵&アイテム取引のお得意さんだったから、知らない仲でも無い。

 HARUTOハルトは、ゲームを去る毎に、あたしにも次の移住先を教えてくれた。

 向こうから積極的にでは無く、あたしが訊くからに過ぎないのだけど。

 彼は誰ひとりしない男だから。

 あたしのように、行き先を教えれば殺しに来ると分かり切っている相手ですら。

 そんなわけで、今回もあたしは、彼を追ってこの“The Outer Gods”にやって来ていた。

 

 さて、あたしはどのゲームでも“鞭”を得物として戦い抜いて来た。

 これには、あたしが最初にプレイしたタイトルで【鞭の天才】と言うユニーク・スキルを付与された事に起因している。

 固有技能ユニーク・スキルと言う言葉通り、各ゲームの運営AIが、何らかの選定基準で特定のプレイヤーに与えられるものだった。

 【鞭の天才】だったあたしは、余程の物量差でも無い限り、プレイヤー相手には負け知らずだった。

 あのHARUTOハルトのパーティを除いては、だけど。

 けれどユニーク・スキルとは、与えられたゲーム内でしか有効では無い。他ゲームに持ち越す事は出来ないのだ。

 二つ目のゲームでも鞭を使い続けていたのは、個人的な趣味だった。

 一応、スキル頼みだったとは言え、手に馴染んだ武器が結局一番だと言うのも確かではあったけれど。

 “HEAVEN&EDEN”はファンタジー世界だったし、必殺技も自由に作れるシステムだったので、鞭を得物にしていても何の問題も無かった。

 ただ、今回の“世界観”で鞭を使うには、相応の理由を要求されるようだ。

 まあ、邪教が暗躍するとは言え、令和時代の日本。

 当たり前のように鞭を腰に備えている方が不自然極まりない。

 結局、“鞭”とは言っても打撃力のある鎖を主力とする事になるだろうから、入手性の心配は無いのだろうけど。

 このままでも鞭使いを貫くのに支障は無いだろうけど、やっぱり革鞭も欲しいし、只でさえプレイヤーの弱いクトゥルフものとなると、少しでも有利なバックボーンがあるに越した事は無い。

 そこで“リアルタイム後付けシステム”の出番だ。

 

 ペプシマンのパチモンみたいな姿をしたニャルラトテップを召喚。今言った、鞭についての相談をしてみる。

【漠然とした希望だけでは判断しかねるな。もう少し明確な設定を提示して貰えれば、ゲームシステムと擦り合わせて、メリット・デメリットの提案が可能だ】

 ふふん。

 そう言われると思って、考えてありますとも。

「あたしは、クトゥルフ崇拝教団の二世信者として育った。

 幼い頃から信仰を押し付けられる事に反発を覚えていた事もあり、ついには“改心”の為に凄惨な拷問を受ける事もあった。

 ある日、改心を迫る両親に鞭で酷く打たれて居た時、一瞬の隙を突いて父親に反撃。

 自分でも思った以上に、鞭の扱いに才能があった。

 それに気付いてから、あたしは逆に、両親を鞭で痛め付け、力で支配するようになった。

 そしてあたしは、人一倍邪教を憎む女に成長した。

 両親を利用して邪教のネットワークに目を光らせ、ついにクトゥルフの眷属であるダゴン秘密教団の暗躍を突き止めた。

 あたしの人生をこんなにした邪教を手当たり次第、鞭打って回り、復讐してやる!

 あたしが信じるモノは唯一つ。鞭のみである!」

 最後の辺りはついつい熱がこもったけれど、これなら一定の根拠にはなるでしょう。

【……では、このような提案をしよう】

 ニャルラトテップが言うや、あたしのスマホのメモ帳が起動して、勝手に内容が書かれてゆく。


 ・永続的精神疾患【偏執的執着マニア・鞭】の付与、それによる正気度最大値の減少

 ・鞭を使用する際の筋力に五割程度の物理演算優遇

 

 ここで言う“マニア”とは、鉄道マニアだとか昆虫マニアだとか、そう言う真っ当なものでは無い。

 病的なまでに、それが無いと生きていけないレベルの精神状態を意味する。

 人生のルーツとして設定した重みから、VR狂気の中でも回復不可能な精神疾患となるだろう。

 恐らく、これを承認すれば、あたしはこのアバターで、金輪際鞭を手放せなくなる。

 

【試して使用感が気に入らなければ、死亡する等してアバターを作り直す際、この設定を外しても構わない。

 これで宜しいかね】

「それでお願い」

 あたしの即答を聞くや否や、これまた一瞬の遅滞も無く、ニャルラトテップがーーゲームのシステムがーーあたしに何かをした。

 まず、身体のあちこちに、熱い疼痛が走った。

【設定との背景を整合性を取る為、君の身体に鞭の痕があちこちに刻まれた。

 皮膚が裂け、めくれた痕すらある】

 あたしは、着衣越しながら、それの一筋を指でなぞった。

【鞭で打たれるとは、こう言う事だ】

「それは良く知ってる」

 あたしが、誰よりも。

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