リプレイ16 消えてしまいたい、何も遺したくないから無題(語り部:MAO)
「はい、では確認のためにお名前を教えて下さーい」
向かい合って座る
「
ボクもボクで、ほがらかに答えた。
彼に合わせてやってるつもりはない。
気持ちが弾むのを、自分でも抑えられないんだ。
「
「楽しくて仕方がない衝動が抑えられないんですー」
「へー、それは良かったねぇ」
彼が作動させている【精神科医】スキルは、実際に話し合っているモーションを強制的に取らされる。
ホント、このゲーム作ったメーカーの倫理観を疑うけど、他人を操り人形にしすぎ。
ただ、実際に何を話すかは、システムを制御しているAIにお任せすることも、自分で喋ることも自由に選べる。
彼の今の態度は、明らかに素のものだろう。
こう言うヒトほど、腹に何を抱えているかがむしろわかりやすいね。
マウントを取りたい自己抑制を、コントロールできてないんだよ。浅ましい。
ああ……楽しい気持ちだったのに、何かムカついてきたよ。
ハッキリ言わせて。
ボク、このヒト、パーティで一番嫌いだ。
人食ったような態度がカッコいいって勘違い、やめなよね。
そういうのって、真っ向勝負で他人より優れたとこ見せられない弱虫が、ハッタリで取る態度なんだよ。
「あー、少しイライラしてきましたねぇ……」
「へー、そうなんですねぇ……」
彼は、あからさまにボクの仕草や口調を真似て他人事のように返した。
ミラーリングのつもり?
ガキめ。
「あの、治して、くれるんですよね?」
「もちろんですとも。【精神科医】スキルが終われば回復判定が出て、キミの正気度をトータル13ポイント回復させるまで繰り返す。
そうすれば、必ず治りますとも、安心してよ」
だから、だからと言って。
いや、このヒトの言ってることは何一つ間違っていないし、むしろ微塵も非の打ち所がない。
けれど、何なんだろう、この態度。
狡猾。
既成事実として、自分の手を汚さず、この男は明らかにボクを苛立たせに来ている。
けれど、痕跡は残らない。
物陰に連れ込んでボディブローを食らわせるような、そんな。
何の得がある?
……ああ、そうか。
ボクの方から直接いえばいいんだ。
「ごめんなさい、今ボク【喜怒哀楽の暴走】状態なので普段はこんなこと、思いもしないのですけど……自動モードで喋れるのなら、そっちに切り替えてくれませんか?」
「残念ですが、できませんねぇ」
「難しくもなければ、負担もないんでしょ」
「負担はありますよ。自分の思ってもない台詞を不随意にオートで喋らされる感覚ってすごい気持ち悪いし。
しばしば間違えられがちなんですが、医師って聖人じゃあないし、仕事中だって患者の思いなんぞより自分のちょっとした快適性の方が何倍も大事なヒトもいるんですよ」
悪意の放出量を増やした言い種なのは明白だ。
ボクはとうとう激昂ーーしようとして、できなかった。
多分、VR狂気システムが、ボクの脳に作用する場所だとかを変えたんだろう。
さっきまで彼にイラついていた気持ちがまるで夢だったみたいに消え失せて、何も考えたくない気持ちに入れ替わっていた。
ともすれば、この男はボクの中で優勢な感情を読み取った上で言葉を選んでいるのかもしれない。
だとしたら、相当の敵意だよ。
ボク、あんたの親でも殺した?
どうして。
ボクから奪うものがあるなら、それもいいだろう。
けど、ボクとあんたに何の利害関係がある?
戦い方?
なら、どこを直せばいいか、口で言えばいいじゃないか。
二度目のやり方は、ボクなりに反省をして変えたつもりだ。
でも結局、納得しないんじゃないか。
仮にボクが魔術を一回使っただけで終われば、サボりとか言うんじゃないの。
結局、ボクのやり方に納得できないのではなくしたくないから、理屈は後からついてくるんでしょ。
もう、それでいいよ。
あー、何か“喜怒哀楽”のうち、今の状態が一番素に戻れている気がするね。
「でも」
意外な方向から、女性の声がした。
それまでずっと、黙って成り行きを見ていた
「それでも“仕事”だとは思ってるんですね。そもそもこの治療、お金をとっていないんですけど。それを言わないあたり、先生はやさしいですね」
はぁ……。
つまんないこと言うね。
奇しくも、この瞬間だけ、ボクと
仲裁のつもり?
だとしたら、こんな付け焼き刃で何かが変わるとでも?
実際、
こう言うのも、親切のつもりなんだろうけど、ある意味でこちらの領分を侵害してるんだよ。
ボクや
こんな拷問が、数時間。
一度目の回復量は【6】だった。
二度目の回復量は【4】だった。
三度目の回復量は【4】だった。
これで14ポイントの正気度が回復。ようやく解放される。
<正気度の増減>
HARUTO【正気度:84】
LUNA【正気度:43】
MALIA【正気度:73】
JUN【正気度:71】
MAO【正気度:36→50】
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