リプレイ47 とある冒涜的な歌について(語り部:深きものの末裔MALIA)

 先ほど、パーティ用のトークアプリにHARUTOハルトさんから連絡がありました。

 アトラクション“無名祭祀書むめいさいししょの魔宮”にて成果あり。

 “ムー大陸”にてハスターの観測を待て。

 だ、そうです。

 その“成果”についてですが。

 神官トヨグのミイラから「シュブ=ニグラスとクトゥルフが戦っていた」と言うビジョンを受信した、という内容です。

「それって、フツーじゃない?」

 JUNジュンさんが、口頭で疑問をいいました。

 文字を打つのがめんどうらしくて、彼はほとんどトークに参加していません。

 わたしは好きなんですけどね。このタッチパネルのレトロな感じ。

 それで、話をもどしますが。

「シュブ=ニグラスは、クトゥルフとの間に子をもうけた一方、敵対したこともあるそうです。

 アトラクションの元ネタともなった“永劫より”では、神官トヨグがクトゥルフの子である邪神ガタノトーアに対抗するために、シュブ=ニグラスを召喚しようとしていましたし。

 また、クトゥルフとは不倶戴天の宿敵であるハスターとシュブ=ニグラスは夫婦でもありました」

 そして、今回のラスボスであろうダゴンは、クトゥルフの従者です。

「ああ、そこでハスターと繋がるわけね。

 順当に考えるなら、敵の敵は味方理論でシュブ=ニグラスを味方につけようって腹かね?

 でも、HARUTOハルトが後付けシステムで“邪神ガタノトーアはシュブ=ニグラスである”説をぶちあげて、わざわざ敵対しちゃったよね。

 ハスターだって意志疎通可能とは思えないし、仲裁頼むとかムリでしょ」

「たぶん、ハスターにしろシュブ=ニグラスにしろ、コンタクトを取りに接触しただけで狂い死にするか、それを耐え抜いても殺されますね。

 そもそもハスターは、召喚した時点で、喚んだ人が憑き殺されーー、……あっ」

 わたしは、あることに思い至りました。

 その推測が正しければ……なるほど、黒き仔山羊を殺してシュブ=ニグラスの心象を損ねたことのカバーはできます。

 ミイラから受信したビジョンに意味があることにも辻褄があいます。

 まあ、彼のすることには必ず意味があります。

 わたしたちは、それを信じましょう。

 

 ランド内ーーいえ、恐らく“シー”もふくめたリゾート全域に、100面ダイスの雨あられが降り注いでいました。

 ハスターが出たぞ!

 と、あちこちであわてふためく声がします。

 いよいよ、彼が作戦をはじめたようですね。

 わたしたちも、覚悟を決めるときです。

 わたしとJUNジュンさんは、予定どおり作戦区域ーーランドの王港キングスポートエリアは、“夜刀浦やとうらの夢”の水辺から、対岸の森を見ていました。

 ダゴン秘密教団の潜む“ムー大陸”を。

 少なくとも、HARUTOハルトさんが、トヨグのミイラから「単にクトゥルフとシュブ=ニグラスが戦ってるだけ」のビジョンを見て納得した理由が、ここで結果にあらわれていました。

 バキバキバキっ、と繊維質な破砕音をたてて“ムー大陸”の森が踏み砕かれています。

 そこに潜んでいたダゴンの信徒のNPCが、いたましい悲鳴をあげて逃げ惑います。

 わたしたちも、見てしまいました。

 樹木に擬態した、シュブ=ニグラスの眷属、黒き仔山羊が、そこで教会を構えていたであろう信徒たちを手当たり次第襲い、捕食していました。

「……なるほどね。HARUTOハルトはミイラを通して、このスポットにシュブ=ニグラス関係の神話生物ーーと言うか黒き仔山羊が出現スポーンする確信が得られれば充分だったわけね」

 そう。

 より正確には、HARUTOハルトさんが後付けシステムを使って“永劫より”というにシュブ=ニグラスを介入させたことで、本来ならダゴン秘密教団しかいなかったはずのこのエリアーーダゴン、ひいてはクトゥルフ派ともいうべき彼らの縄張りーーに、対立する黒き仔山羊をけしかけることに成功したのです。

 ーーやるなら、圧勝を目指す。

 彼は、トークアプリを通してわたしたちにもそう告げていました。

 ダゴン復活の正確な進捗状況はわかりませんが、黒き仔山羊のえじきにされるこの状況では、わたしたちを迎え撃つどころではありません。

 それで、まあ。

 さしあたり、黒き仔山羊を目視したわたしとJUNジュンさんのもとへ、可憐な姿をしたニャルラトテップが6面ダイスを差し出しました。

 

<精神ダメージ>

 MALIA【1ダメージ】

 JUN【1ダメージ】

 

 おおっ、ダイスの神様がやさしすぎて、逆にこの先が不安になりますね。

 そして。

 非常におおきな有翼生物ーー一瞬プテラノドンかと思いましたがーー猛禽類の神話生物にまたがる、黄色い衣の、うねうねした巨人が夜空に、わたしたちの頭上にやってきて。

 みんな、公式パレードと勘違いしているのか、公式が便乗しているのか。

 誰が歌い出したのかわかりませんが、その歌は楽器の演奏を伴って、大きな波となって押し寄せてきました。

 

<ジャンボリーハスター!>

 ♪ジャンボリーハスター! ジャンボリーハスター!

 ♪いあいあ はすたあ いあ はすたあ

 ♪あいあい はすたあ あい はすたあ

 ♪ぼくらのカルトの偶像だ

 ♪いあいあ はすたあ いあ はすたあ

 ♪ジャンボリーハスター! ジャンボリーハスター!

 

【この異様なパレードに遭遇した諸君らはーー】

 ええ、100面ダイスですよね。

 もう半ば、なれっこですよ。ハハッ!

 

<精神ダメージ>

 MALIA【83(狂死)】

 JUN【79(狂死)】

 

 うわー。

 エンディングまでに再度駆けつけられますかね?

 それだけを案じつつ、わたしたちは二人そろって狂い死にしました。

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