リプレイ46 HARUTOがなんかしている(語り部:鞭の信奉者INA)

 本当に、いつの間に来たのやら。

 大き過ぎて恐竜? と思ったけど、あちこちハゲ散らかした巨大な鳥の化け物でした。

 どっちも同じだよ、この際。

【ハスターの従者である怪鳥ビヤーキー、或いは、バイヤクヘーだ。目撃した者は6面ダイス×1の精神ダメージ】

 ペプシマンめいたニャルラトテップが、素っ気なく宣告した。

 あー、はいはい。やるなら早くして。

 

<精神ダメージ>

 HARUTO【2ダメージ】

 INA【4ダメージ】

 RYO【2ダメージ】

 TOMO【5ダメージ】

 

<正気度の増減>

 HARUTO【正気度:74→72】

 INA【正気度:17→13】

 RYO【正気度:14→12】

 TOMO【正気度:30→25】

 

 ビヤーキーとやらが、巨大なツルハシめいたくちばしを振り上げ、TOMOトモに襲い掛かる。

 あたしは、ビヤーキーの軌道にぶち当たるよう、やっとやっとの思いで鎖鞭を振るった。

 ちょっと、いてってなったのか、ビヤーキーは咄嗟に身を翻し、火山の山肌を擦りながら不時着。

 TOMOトモが、ほうほうの体であたしを抱え、逃げようとするけど。

 嘴が、今度こそ彼の背中から縦一文字にえぐり抜いて、鮮血が散った。彼が起き上がる事は、無かった。

 あたしは直撃こそしなかったが、衝撃で大穴側へーー手摺を越えて、墜落する、

 直前、鎖鞭を手摺に振るい、何重にも巻き付けてぶら下がる格好となった。

 詰んだ。

 今の気力で、数秒と掴んでいられる気がしない。

 そして、あいつは。

「……“黄衣の王”の従者たるビヤーキーに、我は告ぐ。

 我は其を信奉する殉教者なり。

 拝謁を賜るならば、我、如何なる犠牲も厭わず」

 

 いあ いあ はすたあ はすたあ くふあやく ぶるぐとむ ぶぐとらぐるん ぶるぐとむ あい あい はすたあ

 

【ハスター招来(リスク:なし)】

 

 ビヤーキーが、聴くに耐えない叫びを一つあげると……遥か眼下、照明の光の欠片を乱反射する黒い水面がにわかに粘度をまして、蠢き出した。

 ブルーな精神の今ですら、思った。

 あそこには、落ちたくない。絶対に。

 命綱の鞭を掴む握力が戻った。

 頭では分かってる。あれも結局はVRの産物に過ぎないし、落ちて死んだら死んだの話。

 それでもなお、ここまで立ち上る有機的な異臭が、忌避感を掻き立てた。

 そして。

 水面の一部がバスケットボール大の塊になって、勢い良く飛び出した!

「ひっ……!」

 あたしを狙っているのかと思い、情けない声が漏れたけど。

 

 “そいつ”はHARUTOハルトの頭から襲い掛かり、浴びせられた。

 

 そして。

 彼は途端に目を剥いて、たちまち焦点が合わなくなった。

 そして、夢遊病のようにフラフラし出した。

 更に。

 まるで四肢の骨が瞬時に消失したかのように、全身の支えと締まりを失いーーまるで、軟体のような身体に作り替えられてゆく。

 身体の組成が好き放題、こねられるおぞましい光景だ。

 そして、質量と言うルールさえも投げ捨ててしまったのか。

 HARUTOハルト……だったものの身体は一秒ごとに膨張し、みるみる巨大化してゆく。

 そして、くすんだ黄色のーー果たして衣服なのか、皮膚なのか判然としない“モノ”が彼を覆い、骨基質のような質感の、白い仮面のようなものが素顔を覆い隠してしまった。

 これが。

 黄衣の王。

 名付けられざりし者、名状し難き者。

 旧支配者・ハスター。

 彼は、自分がのだ。

 

【ハスターとの同化により、HARUTOハルトは無条件で狂死。目撃者は100面ダイス×1の精神ダメージだ。

 もしも同化された者が親しい知己であったなら、更に6面ダイス×1の追加ダメージだ】

 

 ……やる前からわかる。

 そんなの、オーバーキルもいいところだ。

 

<精神ダメージ>

 HARUTO【100ダメージ(狂死)】

 INA【43+2ダメージ(狂死)】

 RYO【23+4ダメージ(狂死)】

 

 別ゲームで、彼に言われた事がある。

 

 ーー機会があればThe Outer Godsと言うゲームをやってみると良い。

 所詮、VR技術も人間の創造物でしか無いから、ラブクラフトの宇宙的恐怖の本質を表現し切れているとは言えないが……オーガスト・ダーレス以降の世界観でも人生観を変えるだけのインパクトはある。

 インスマスやコラツィン村、ルルイエと言った所しか住む場所が無い中で、実寸大のクトゥルフやダゴンに殺されて見れば、大抵の災難はどうでも良いと思えるようになる。

 

 あたしの身体が機能を止めた。

 おぞましい漆黒の湖へ向かって落ちていく中。

 あの日、彼に言われた事の意味を理解していた。

 何だか、今後、これより怖い思いをする事はそうそう無い気がした。

 あるいは、彼は“見せてくれた”のかも知れない。

 約束を、果たすかのように。

 変わり果てた彼が、軽々とビヤーキーの背に乗った。

 巨大禿鷹の化け物に乗った黄衣姿の軟体巨人が、夜空へ飛び去る……うん、もう二度と口にする機会の無さそうな文字列だ。

 さてと。

 アバターを作り直して、見届けるとしよう。

 名状し難き存在となった彼が、これから何処へ行くのかを。

 

<正気度の増減>

 HARUTO【正気度:0】

 LUNA【正気度:0】

 MAO【正気度:0】

 INA【正気度:0】

 RYO【正気度:0】

 KEN【正気度:0】

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