リプレイ45 HARUTOの……何だろう。考えるのも面倒臭い(語り部:鞭の信奉者INA)

 ぷつりと、瞬間的に気分が落ち着いた。

 あれだけ満ちていたやる気が、一瞬で枯渇した事にまず戸惑った。

 でも、何だろう。

 この勝負、そこまで頑張らなきゃいけないのかな。

 そう思えて来た。 ーー違う。

 やっぱり人の感情って化学反応なんだな、と思い知らされる。 ーー機械ごときが、

 アドレナリンがせき止められただけで、あたしは腑抜けになった。 ーーこの想いを冒涜するな。

 あれ程待ち望んだ“今”を、こんな気持ちで居るのは凄く勿体無いと、理屈の方では感じている。

 そうだ。だからこそ、冷静になろう。

 本当に億劫で面倒臭過ぎるけれど、あたしは左右の手にそれぞれ鎖鞭と革鞭を持った。

 ファンタジー世界も鞭だけで駆け抜けたあたしなら、手を抜いていても結果は出せる。

 骨身に染みた技術だけは、絶対にあたしを裏切らない。

 五分の力で、最善を尽くしましょう。

 LUNAルナMAOマオは正気が消し飛んで自殺したり活動停止したりした。

 こちらのRYOリョウは、はーい! ばぶぅ、ちゃーん! ってノリで、銃をブンブン振り回している。

 いつ弾みで引き金を押してしまうやら。危ないな。

 でも、止めに入るのは困難を極めた。

 あまりにも面倒臭過ぎる。

 VR【幼児退行】がどう言うメカニズムで再現されているのかは分からないけど、殺人癖みたいに身体が勝手に動く感じなのかな。

 こんな彼、普段はなかなか見られない。記念に動画撮っておこうかな。

 でも、それには折角腰から外した鞭を仕舞って、スマホ取り出して、カメラ起動して、しかも向こうで一人だけキレッキレな動きをしているHARUTOハルトを警戒しながらになる。

 めんどい。やっぱ撮影するの、やめた。

 KENケンは、忌まわしい宇宙的知識でパンクしそうな心に耐えかねて、遥か眼下のカルデラ湖へ飛び降りた。

 ばいばい。またアバター作り直して合流しようね。

 ごめんね。今、仲間の自殺を止めるだけの気力が無いの。

 さて。

 HARUTOハルトがまた、石を投げ付けて来た。

 頑張りたくないから、予備動作から軌道を予測、余裕で躱してやった。

 もう一人、辛うじて元気なTOMOトモが、実銃をオモチャにしてるRYOリョウからそれを奪い取り、その流れでHARUTOハルトへ発砲した。

 当たらなかった。ひじょーに残念だ。

 でも、あたしを庇うように前に出てくれてるのが分かる。

 彼だって【心因性難聴】でかなり不便な筈だ。

 只でさえ口頭による連携が取りにくい中、あたしは身振り手振りによる意思表示すら困難だ。

 あたし、不甲斐ない。

 本当に、こんな時に。

 死んでしまいたい。

 KENケンみたいに、さっさと飛び降りてリセットしちゃおうかな……。 ーー逃げるな、あたし。

 あーあー、あたしの奥底で、空々しい言葉がわだかまっている。

 ダサ。言ってて恥ずかしくないのかな。

 やっぱり、こんなあたしなんて消えてしまったほうが良いのかもね。それさえも、どうでもいいけど。

 TOMOトモHARUTOハルトが、いよいよ接近した。

 HARUTOハルトは相変わらず石を投げ付けて来て、銃を使わない。

 あたし相手に、使うまでも無いってナメられてるんだよ、やっぱり。

 情けないね。

 でも、手を抜いてくれた方が楽でいいや。

 油断してるうちに殺して、済ませよう。

 早くホテル帰って寝たい。

 TOMOトモは、銃を左手に持ち替えてアウトドアナイフを抜いた。

 ああ、銃はRYOリョウから咄嗟に奪った物だから、弾もマガジンの中に残ってる分しか無いからね。

 なるべく温存したいのね。そうだよね。

 あと、あたしもようやく奴を鞭の間合いに入れた。

 はい、まず革鞭を最大に伸ばして回避を誘い、本命の鎖鞭を奴のこめかみ目掛けて襲わせる。

 奴はそれも跳ぶように躱したけど、それだけ大振りな動きをすれば、TOMOトモが追い討ちをかけるのに充分な隙だよね。

 逆手に持った凶刃を、彼は思い切り振り下ろした。

 HARUTOハルトは、微塵も恐怖が無いようで、手首を掴んで食い止めた。

 膂力りょりょくの差だね。

 あたしはここ一番の気合いを振り絞ってサイドステップ、もう一度、もう一度だけダルい身体を酷使して、鎖鞭をしならせる。

 それを予期していたのか、奴はTOMOトモをあたし目掛けて投げ飛ばした。

 ぐふっ。

 痛い。重い。起き上がるのが面倒臭い。

 流石に勝負を決めに来たのか、HARUTOハルトはようやく銃を抜いたけど、それよりも早くTOMOトモも銃を撃ち、奴は追撃を断念したらしい。

 今度はあたし達に投げる事も無く、石をその場にポトリと落とした。

 ……鈍り切った頭で、あたしはようやく、その不自然さに気付いた。

 今まで言う必要性を感じなかったのだけど、奴は、あたし達の周囲をかなり大回りに駆け回っていた。

 それで、目算10個くらい? の石を今までばらまいた事になるのだけど。

 それ、よくよく思い返したらV字型だった。

 ーー何かの儀式か。

 このゲームで儀式だなんて、ろくなものじゃ無いだろう。

 最初に飲んだ……確か何処かの屋台に売ってたハニードリンクを飲んだのも、多分、儀式の一部だったのだろう。

 本来のあたしであれば、もっと早くに不審に思っただろうに。

 止めなきゃ。

 あたしがノロノロ起き上がると、

 ああ、どうやら手遅れだったかな。残念。

 HARUTOハルトが呪文を詠唱した。

 

 ーーいあ いあ はすたあ はすたあ くふあやく ぶるぐとむ ぶぐとらぐるん ぶるぐとむ あい あい はすたあ

 

 TOMOトモの銃撃を躱し、呪文を結ぶと、奴は胸から提げたものーーホイッスルを思い切り吹いた。

 

【ビヤーキー召喚(リスク:6面ダイス×1)】

 

 生臭い烈風が、アンネイマブル・アイランドの山肌をすり鉢状になぞった。

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