リプレイ05 今こそ神秘の業を開帳する刻ーー(語り部:LUNA)

 話は、今ほどJUNジュンが言った通りだ。

 この魔に満ちた遊技場にて、私たちの打つべき初手。

 何食わぬ顔で中央救護室へと赴きーー医療邪教徒メディカル・キャストどもを秘密裏に始末、外科処置キットを奪う……!

 キャストもゲストも大勢行き交う中、普通の武力を行使しても、たちまちコトが露呈してしまう。

 つまり、今こそ! セカイの条理から逸した“魔術”の出番だ。  ーーテンションあがるわー。

「……LUNAルナ。君は手出しするな」

 と、HARUTOハルトが開口一番、ヒドいことを言ってきたよ!?

「何でよ! 私は“旧支配者・クトゥグア”の信奉者! 27光年彼方のフォーマルハウトより、裁きの焔が奴らを灰塵に変える!」

「こ、声がおおきいですよLUNAルナさん!」

 MALIAマリアには珍しい、焦った制止を受けて、私はあっと口を閉ざした。

 私たちは、ただの旅行者。私たちは、ただの旅行者……。周りのキャストは敵だらけ。何なら他の探索者ゲストに邪神崇拝がバレれば袋叩きだ。

 うっかりすると忘れてしまう。

 これもまた、VRの弊害と言えよう。

 けれど、待って欲しい。私の所持魔術を見てから言ってよ!

 どれも、強力無比だよ?

 

【クトゥグアのワルツ:ナパームのように消せない焔で燃やす】

【クトゥグア招来:旧支配者・クトゥグアを呼び寄せる(※“使役”ではないので、クトゥグアは中立状態)】

【アフーム=ザー・フェイク:クトゥグアの眷属たる精霊……をイメージした“極寒の焔”を放射する】

【偽典・焔の吸血鬼:赤い雷光で敵対者を切り裂き、その被害面積の二割程度、術者の傷を治癒する】

 

 はぁ……と、JUNジュンが意味ありげな溜め息をついて。

HARUTOハルトは、キミに心を壊してほしくないんだろうさ。キミ、この中じゃ正気度が一番低いしさ」

「あっ、あの、でも、INT(=精神的な防御力というか鈍感力)はむしろーー」

「シャラップ、MAOマオ! 

 あー、えーっと……そうだ! ほ、ほら、前のゲームでキミらに進展したんでしょ?」

「なっーーそ、それは、その、」

 私は、何も言えなくなった。

 その辺の経緯は、“HEAVEN&EDEN”をプレイした時の、また別の話なんだけど……私、あのゲームで、彼と、HARUTOハルトと…………寝た……。

 それは、お互い好き合ってとかじゃなくて……運営AIに“恋愛関係”と判定された二人は、超強力なスキルが使えるようになるからで、デートとかしてもその判定が全然おりなかったから、最後の、手段として……。

 ……本当に、不純な動機だよ。

 でも、私の“はじめて”を、彼にあげてしまったのは事実だ。現実のカラダとしても、VRのカラダとしても。

 VRのアバター同士でしたコトだから、現実には存在しない過去なんだけど。

 何故だか、彼の顔を見るのがしばらく怖い。

「とにかく! HARUTOハルトはキミが大切だから魔術を控えて欲しいわけ! HARUTOハルト的にも、それで良いよね?」

 沈黙。

 いつも、彼が何かを言うときに伴うもの。

 何故だか、今にかぎってそれが長く感じられる。

「……ああ。LUNAルナの正気度は、ここ一番の為に温存したい」

 だ、そうだ。

 何か、色んな意味でズルい。

 けど、事実は事実だよね。

 私は、今回は皆に任せるコトにした。

 

「“言いくるめ”成功、っと……」

JUNジュン、いま何か言った!?」

「いーえ。何でもございませんよ」

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