リプレイ12 うわー“組織”が襲ってきたぞー(棒読み)(語り部:JUN)

 いあ いあ くとぅるふ ふたぐん!

 いあ いあ くとぅるふ ふたぐん!

 いあ いあ くとぅるふ ふたぐん!

 王港キングスポートを模した港で、他パーティの探索者ゲストが黒山の人集りを形成し、大盛り上がりで呪文をハモっていた。

 元となったテーマパーク的に言うなら“ジャンボリー・クトゥルフ”のパレードが始まったってとこかな?

 彼ら彼女らの視線の先には、船の発着場で何やら生臭い巨大闇鍋をアレコレしているローブ姿のキャストどもがいる。

 さて。

 あっちはあっちで、どうなるのか気になる。

 むしろ、気が気じゃないレベルなんだけど、僕らの目的は別にある。

 余計なモノを目視させられる前に、手近なコンテナヤードに滑り込んでしまおう。

 

 さーて、規則正しく積まれたコンテナの間と言う間から、これまたステレオタイプな黒服の奴らがワラワラわいてきて、僕らはたちまち包囲されてしまった(笑)

 うわー、闇の“組織”に囲まれたぞー(棒読み)

 数は、僕らに合わせたのか五体。

 さて、戦闘前にベラベラとコミュニケーション取るのも面倒だから、さっさと終わらせよう。

 まずLUNAルナが無謀に先陣を切った。

 前回の憂さ晴らしかね?

 当然だけど、オートマチック拳銃のいい的だよ。

 耳を刺す銃声。

 黒服Aが指を少し曲げただけで、LUNAルナの胴体右上当たりが真っ赤に弾けた。

 的の大きな胴体を堅実に狙いつつ、キレーに肝臓を撃ち抜いてくれたもんだね。

 さすがはNPCだ。神エイムっすね。

 普通に考えたら彼女、速攻で失血死するよ。

 僕のリアル手当てじゃどうしようもないし、魔術【ヒーリング】の出番になりそうなんだけど。

 僕は、静観を選んだ。

 LUNAルナは、散水のような自分の出血にも興味がない様子で、左手を高らかに挙げた。

 そして、

【偽典・焔の吸血鬼(リスク:6面ダイス×1)】

 彼女の手の先に目に痛い赤光が迸り、ビームサーベルのようなものを形成。

 彼女を撃ち抜いた黒服Aめがけ、それを振り下ろした。

 奴の胴体はまさしく袈裟懸けに焼き斬れて、前のめりに倒れ伏した。

 一方、LUNAルナの方の出血が、ピタリと止まっていた。

 ああ、焔の吸血鬼って、対象に喰らわせた被害面積の二割、自分の損傷を回復するって魔術だったね。

 擬似的な生命吸収ドレイン技ってとこか。

 ここでは、参照されるのがダメージ度合いではなく二割ってのが重要だ。

 LUNAルナの銃創は掛け値なしの致命傷だったけど、面積的には、あれだけパックリ焼き斬られた黒服のそれに比べれば狭く浅いものだ。

 黒服Aはほぼ即死し、彼女は結果的に無傷。

 一番天晴れなのは、そのダメージ交換を冷静に出来る彼女の度胸にあるんだけど。

 やっぱ、VRゲームってやり過ぎると、どんどん人間性が現実から乖離していくもんだよね。

 前ゲームからの主治医として、もう少し自重をお願いしたいけど。

 ともあれ、早くも残り4だ。

 この戦いさえ制すれば、銃が手に入る。

 逆に負ければ、もうこの“イベント”は起きない。こいつらから武器を入手する機会は永久に失われる。

 多少無理をしてでも魔術をバンバン使うべきだろう。

 黒服Bが、なおもLUNAルナに狙点を定める。

 今度は少々念入りに、頭を狙っているのが丸分かりだけど。

【赦されざる呪詛(リスク:6面ダイス×2)

 対象を失明、あるいは呪詛の解除にも使われる。

 視神経が無傷であれば、時間経過でも視力は戻る】

 ……ってのを、MAOマオがぶっぱなしたら、

「がっ? ぁ……」

 黒服Bが突然苦しみだし、銃を取り落とした。

 相性無視の“失明付与”。事実上、黒服Bはリタイア。

 残りは3。

 その残り全員が、やたらめったら銃を乱射してくる。

 僕らはさすがにコンテナの陰へ隠れた。

 ま、奴らも尻に火がつくよね。

 ランチェスターの法則的に、5対3って、単純に二人少ないだけってのとは意味が違う。

 で、まあ。

 

 発着場の方で、途轍もない波しぶきの音が弾けた。


 無数の歓声と断末魔のごちゃまぜとなったものが、こちらのコンテナヤードまで乱反射する。

 あー、耳で聴く限りっぽいね。

 大方、腕だけ、とか中途半端に喚んだのか。

 ま、それがダゴン教程度に出来る現実的なラインでしょうよ。

 で、この騒ぎに便乗するように、LUNAルナが半身を乗り出して、

【アフーム=ザー・フェイク(リスク:6面ダイス×1)】

 蒼白い焔が舐めるように放射して、プシュー! と言う火炎にあるまじきガス音をも撒き散らす。

 それが掠めた黒服たちは、いずれも白濁した硬質にコーティングされていく。

 極寒の焔、ね。

 つまりこの魔術、火炎が“燃え移る”性質と、接触したものを凍結させる冷凍の属性を併せ持つわけだ。

 黒服Cはまともにもらって即身成仏。

 残りは比較的傷が浅いけど、腕がかじかんで不便そうだ。

 あとは魔術なしでも殺れそうだね。

 

【ヨグ=ソトースの溜め息(リスク:6面ダイス×1)

 この魔術の対象となった被害者は、腕力をもって風圧と競り合う必要がある。

 力比べの時間は5秒で、被害者側がはね退けたなら無傷で済む。

 術者が勝てば、ヘビー級ボクサーの右ストレート相当の打撃が発生する】

 


 MAOマオだった。

 えっ、あの? 何やってんの?

 当然、腕がカチカチの黒服Dはあっさり力勝負に負けて、顔面をモロに打ち砕かれて叩き付けられた。

 あれは死んだだろ。残り、いよいよ1。

 まあLUNAルナもどっこいだけど、こいつら、戦闘後の精神ダメージについて考えてんのーー、

 

【ヨグ=ソトースの溜め息(リスク:6面ダイス×1)】

 

 ーー黒服Eの首が、目に見えてブチ折れた。

 戦闘終了。

 僕らの圧勝だよ。

 やっぱ、魔術って強力だよね。

 

 はぁ……。

 他人に迷惑かけてないから良いでしょ? とか、そー言うジュブナイルですかね。

 

 ……ほんと、ガキだな。

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