リプレイ23 とある博物館の恐怖について(語り部:深きものの末裔MALIA)
平衡感覚がおかしくなりそうな通路を入ってすぐ右手、ニャルラトテップがうながしたのは、地下室への下り階段でした。
展示場のような、ウォークスルータイプのアトラクションですね。
パークアプリでスポット名を確認すると“ロジャーズ・ワックスドール・ミュージアム”と表示されました。
ロジャーズさんという方の、蝋人形博物館……?
いやーな予感がします。
【舞台は、ジョージ・ロジャーズと助手のオラボーナが住む、蝋人形博物館。魔法の導きにより“神官”となるまでの物語を皆と分かち合いたいと考えたロジャーズは、魔術書から得た冒涜的なインスピレーションを蝋の邪神像にして陳列しようと思い立ちました。
是非とも皆さん、大いなるクトゥルフやツァトゥグア、ヨグ=ソトースの玉虫色に輝く球状集積体の勇姿をじっくり堪能して下さい!】
……いやーな予感、マシマシです。
おそらく、ここに例として挙げられている“展示品”そのものは、大げさな飾りにすぎないのでしょうけど。
外ではまだ、誤って実物を設置されたチャウグナー・フォーンと
不規則にうねうねした階段を、かなり下りました。
ようやく最後の段を下りた頃には視界が拓けて、途方もない広さの空間が目に飛び込んできました。
何とも……動くのに不自由しなさそうなスペースです。
作品の数はそれほど多くなく、蝋人形というか蝋邪神像がぽつりぽつりと、寂しげに点在しています。
そして、奥には高さ三メートルほどの、全体的に丸っこいフォルムの何かと、それを眺めている人が二人。
一人は初老のおじさまで、もう一人は肌色の濃いアラブ系のような顔立ちのお兄さんです。
所作をみるに、まずNPCでしょう。ロジャーズとオラボーナの人かと思われます。
「ようこそ、我が生涯をかけて造り上げた祭壇へ。真理を識る者は、一人でも多い方がいい」
ロジャーズが、ゆったりとこちらを振り返りながらはじめました。
「私はさる文献を紐解き、この世の真実を知った。
大いなるクトゥルフ! 無貌の神ニャルラトテップ! 時空それ自体であるヨグ=ソトース! 白痴の魔王アザトース!」
「ボクでもわかる、有名どころのラインナップですね」
わたしは少しあわてましたが、ロジャーズの耳には全く入っていないようです。
「そして、嗚呼! ついに、ついに私は、アラスカの深淵で発見したのだ、この世界の根源たるアザトースを更に内包せし究極概念、ラーン=テゴスをッ!」
そして、脚光を受け止めるようにして胸を反らし、ロジャーズは奥の“御神体”を示しました
「ぇ……そんなスゴい存在が、地球のアラスカで見つかったんですか? アザトースまで話が飛んだくせに、スケールダウン激しいような」
と、
ああっ、今度は聞き咎められてしまいましたよ。
ロジャーズがこちらを、ギョロりと睨み付けました!
「弁えよ、ボウフラ以下の卑小な人間めが。
かの究極概念ラーン=テゴスは
二度と甦らなくなるのだよ、如何なる旧支配者も一柱残らず、アザトースもヨグ=ソトースら“外なる神”すらも眠ったまま起きなくなるッ! 見ろ!」
そう言って、ロジャーズは“御神体”のそばにあった何か大きめのものをわしづかみ、わたしたちに見せました。
動物……犬……大きめのテリア犬が、身体の中身を吸い付くされたようにミイラになったもの。
「ひどい……」
いくらVRの犬とはいえ、これはさすがにあんまりです。
「ラーン=テゴスに逆らえばこうなるのだ、例外無く、だから無礼な発言は慎め、私はラーン=テゴスの“神官”だぞ、バチカンは一秒でも早く私とラーン=テゴスに明け渡されるべきなんだッ!」
「で、アンタの言い分を統合するに、その中ボスモンスターを殺れば、旧支配者がまとめて永久封印できてハッピーってこと?」
あまりの物言いにロジャーズが、目に見えてピキっとなった所へ、今まで黙っていた助手のオラボーナが、彼の腕をあわてて取ります。
「落ち着いてください! 彼らはものを知らないだけなのです! どうか、それを赦す度量をーー」
「うるさい離せッ!」
オラボーナの方がよほど若く、力強いはずなのに、ロジャーズは尋常ではない力でそれをはねのけました。
「ラーン=テゴスを目覚めさせてはなりません! どうかッ!」
「黙れ無能助手が! そんな事をほざく貴様はクビだ!」
ロジャーズが頭を振り乱してさけびますが、ダメ押しと言わんばかりに、
「いやー、朗報だね。そんな、犬の骨しゃぶって細々生きてるようなZ級神格ぶっ殺せば人類にとっての宇宙平和が恒久的に約束されるんだ
もはや、言いたい放題の
少しでも交戦を早めるためでしょう。
ここでのロジャーズとの対話次第では回避ルートもあるのでしょうけど、わたしたちの目的を考えれば避ける意味もありません。
「ああァあアアぁァアア違う、違う、違う、そうじゃないって言ってんだろアアぁあ嗚呼ァあア!?
僭越ながらお目覚め下さい究極概念ラーン=テゴス、こいつらが、こいつらが、あなたさまの、いわれのない、悪口をたくさん
これは完全リアルタイムのVRゲーム。
ボス戦前の“デモシーン”を黙って眺めている道理もありません。
ラーン=テゴスが部屋の奥で身動ぎを始めるより早く、わたしたちは、それぞれの初動に走りました。
わたしは、さっきから目をつけていたヨグ=ソトースの蝋人形目指して走りました。
日常の歩行としては歩きにくいのですが、スキップするような足取りは、生粋の人間だった時より増強された筋力と相まって、とても俊敏に動いてくれます。
蝋人形のそばへたどり着くのは一瞬でした。
……正確にはヨグ=ソトースではなく、そのそばに立てかけてあった、薙刀のような展示品がお目当てでしたが。
ふぅ。
やっぱり、前ゲームのクセがぬけていないのか、有事の際にこう言う長柄武器を持つと安心感が違います。
ネクロノミコン断章において、ヨグ=ソトース召喚の祭具として使われたという
雰囲気出しのオブジェクトなのでしょうけど、これが置いてあったのをみた瞬間、ラッキーって思いました。
あるいは、一応は神話生物であるラーン=テゴスと戦う場合の救済アイテムなのかもしれませんが。穂先は真剣のようですし。
そして、とうとうラーン=テゴスが起き上がりました。
さっきも言いましたとおり、大きさはおよそ三メートル。
全体的に丸みがあり、線毛のような長い管が無数に逆立ってうごめいています。
また、身体のあちこちから、ひときわ長くて太い腕が伸びて、その先端はカニさんのようなゴツゴツした質感のハサミが備わっています。
ムカデみたいな、何組もの節足で滑るように駆け回ります。
頭部に埋め込まれたような、濁った魚眼がわたしたちを虚ろに睨みつけます。
うん。
ファンタジー世界のゲームでは、これより恐ろしいモンスターはたくさんいました。
基本的に現実世界ベースであるこのゲームの場合、“自機”の相対的な弱さが泣き所でもありますが……。
なんとか、なるでしょう。
【このおぞましい邪神像が実物である事を悟った諸君らは、6面ダイス一回分の精神的痛手を受ける事となる】
ニャルラトテップが、細く小さな身体をはねさせる勢いでダイスを投げるのを尻目に、わたしたちは交戦に入ります。
今はダイスをつぶさに見ている場合ではありません。
結果だけを簡潔に。
<精神ダメージ>
HARUTO【4ダメージ】
LUNA【1ダメージ】
MALIA【3ダメージ】
JUN【1ダメージ】
MAO【6ダメージ(閃き判定)】
<閃き判定>
MAO(成功率:40)
【17(成功)】
<精神疾患の発症内容>
MAO【自傷癖】
<正気度の増減>
HARUTO【正気度:84→80】
LUNA【正気度:51→50】
MALIA【正気度:70→67】
JUN【正気度:71→70】
MAO【正気度:50→44】
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