リプレイ22 無価値だから無題(語り部:MAO)
朝が来た。
多分、ボクじゃつまらない言い方しか出来ない。
辛うじて面白い、というか、辛うじて興味を持てたことが、廊下で五人、最初に顔を突き合わせた時に起きた。
「……武器の分配を一部変更する」
そう言って
一度はVR発狂で自己中モードだった彼女にマシンピストルともども奪われたのだけど、当然、それが回復したら
「……当然だが、オートマチックの方と交換だ。自分にも武器は必要だからな」
「ぇ、でも……」
彼女がためらっているのは、当たり前だけど、両方よこせという意味ではない……はずだ。
「……このマグナムは具体的には44口径だが、君の筋力と技能では、反動で跳ねた手や銃で自分の顔を叩きかねない。
だから最初は持たせない判断をしたのだが、熊やバイソンを仕留められるような
生身の人間である邪教徒NPCや敵対探索者を射殺する分には、自分にはこちらのオートマチックで充分。
且つ、大半の神話生物を相手取る場合、オートマチックもマグナムも、単発の威力としては五十歩百歩だ。
一方で、これまでのVRゲームプレイ経験から、銃器に不慣れ、且つ、現在は高火力の魔術を主力とする君が魔術の代替戦力として使う場合、こちらのマグナムの方が適して居ると言うのは、確かに正しい一面もある。
そこで、後付けシステムを用いて、“組織”から奪った弾薬が
これならば君の力でも無理無く撃てるだろう。
当然、単純な衝撃力=ストッピングパワーは下がるが、弾頭の軽量化は弾速の向上=貫通力の改善をも意味する為、トータルで良いバランスに落ち着いた筈だ」
この人の【マシンガントーク癖】って、とっくの昔に消えたんじゃなかったっけ。
「
「ぁ、はいっ!?」
ボクは反射的に背筋を飛び上がらせた。
「これから君に、オートマチックの、一通りの使い方を教える。流石にここで実射は出来ないが」
そう言って彼は、手取り足取り、セーフティの下ろし方から構えまで、懇切丁寧に指導してくれた。
突き放さず、押し付けがましくもなく、すんなりと全身に染み渡るような教え方だった。
再びパーク内に戻ってきた。
アーカム・バザールのアーケード街を抜けて、ランドのシンボルでもある、あの、ねじくれたルルイエ神殿が出迎えてくれた。
さて、前回同様、向かって左手の未知なるカダスと
特に意見のないボク以外が迷った、ほんの一瞬。
どうも、他プレイヤーの様子を注意深く眺めているみたいだ。
ちなみに彼女は今、緑と白を基調としたハイネックビキニにフレアスカートの水着姿と言ういでたちだ。
何のためかは、嫌でも想像がつく。
半魚人の脚を隠すためか、水着スカートの下にスリムデニムをはいているのが若干不自然だけど、辺りを見回せば、何らかのVR狂気にやられて服を後ろ前に着ているヒトとか、着ぐるみの腕と脚だけをもいで中途半端に装着しているヒトとか一定数いるので、結果的に怪しまれずに済んでいるようだ。
実際のテーマパークで水着姿なんてやってしまったら、手荷物検査のとこで締め出されるらしいけど、このラヴクラフトリゾートにはそんなのないしね。
と言うか、水着自体、普通にアーカム・バザールで売ってたみたい。
彼女と同じことしたヒト、前にもいたんじゃないのか。
「……なんの、騒ぎでしょうね」
彼女がようやく疑問を口にした時、ボクでもわかるくらい、人々がざわめきだした。
それは、あのルルイエ神殿の向こう側で何か大変なことがあって、それが伝播に伝播し、減衰しながらボクらまで届いたって感じだ。
漏れ聞こえる断片的な話をかき集めると、象さんのようなキャラクターの形をした空中回転木馬“空飛ぶチャウグナー・フォーン”の方で、何かがあったらしい。
すると、喚んでもいないのに、ボクらのニャルラトテップが現れて。
【どうやら、木馬のうち何体か、本物のチャウグナー・フォーンが混ざっていたようだ。
はてさて、メトロポリタン美術館よろしく、気付かずに設置してしまったのか】
そんなわけないでしょ。
【昨日、諸君らを襲った“組織”だが……どうやらその正体は、カナダでチャウグナー・フォーンを崇拝する“血の教団”だったようだ。
彼らは、かのアトラクションに御神体の混入を突き止め、ついに復活を遂げさせたようだ】
「それって、私たちが後付けしたせいってコト!?」
えっ。
悪いけど、私たちって言わないでくれる?
【全ての事柄にはルーツがあるものだ。一見して漠然とした謎の“組織”とやらにもね】
このパーティのヒトたちが銃ほしさに
ボクらが始末した以外にも、何人だか知らないがいたのだろう。
そしてそれらは、
「さて、僕らはどうする? 一応、後始末に参加するか」
やだやだ。
チャウグナー・フォーンって、それなりの崇拝者を持つ、仮にも神性の一つでしょ。昨日までの雑魚どもとはワケが違うよ。
さすがに何の非もないボクはついていかないよ。
「……そうした災難も、このゲームをプレイしている時点で受容すべきリスクだ。我々が能動的に飛び込む謂れは無い」
と、
「……それよりも、そろそろダゴン秘密教団の情報が欲しい。後付けシステムで、我々が何か違和感に感付いた事にしたいのだが」
【ならば“運命のダイス”(50パーセント固定の成功率)で決めよう】
そう言って、ニャルラトテップは長い黒髪の束を踊らせながら、ダイスを放り投げた。
【84(失敗)】
【残念だったな】
「いえ、違和感をおぼえる、というのは、運よりも知覚の領分ではないでしょうか!
この場合、運命のダイスではなく“閃き判定”が適切だと主張します」
いや、さすがに虫がよすぎ、
【良かろう。君が振るといい】
……と思ったら、よりにもよって彼女に振らせるの?
算式はINT×5だから、INT18の彼女が振った場合、成功率は実に90パーセント。
聡明な
【27(成功)】
まあ、このダイスロール、やる意味あったのかわからないね。
さっきの“組織”の使われ方と言い、嫌な予感しかしない。
【宜しい。
それは匂いなのか、空気の流れなのか、何かの音なのか、過去に見聞きした記憶が引っ掛かったのか……好きな説を採用してくれ給え】
そう言って、精巧に少女を模したドールのような“無貌の神”が“ルルイエ神殿”の中に入れと指差す。
「……神殿の裏手では、チャウグナー・フォーンが殺戮を繰り広げて居るそうだが」
【諸君らには関係無い。それが“運命”だ】
もう、裏があることを隠す気もないようだけど?
ほんとに行く気? このヒトたち。
……行く気みたいだよ。
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