リプレイ37 無駄に決まっているから無題(語り部:MAO)
アトラクションは、ジープを走らせて邪神の洞窟を強行突破するものだった。
ボクらのパーティが乗ってるそれの運転手は、
意外と車の運転は丁寧だ。
スピードは100キロ超えてるけど、交通の流れを考えるとやむを得ないだろう。
もはや広すぎて外観の規模と内部の面積の整合性が取れてないけれど、VRクトゥルフものは物理法則無視・質量無視の何でもありということなのだろう。
邪神を鎮めているエラい神官ーーという設定のNPCキャスト達が敵役として襲いくる。
手前の神官は
NPCとはいえ、彼ら彼女らには全く躊躇がなかった。
他パーティの車両もそんなものだった。
誰一人、生きた人間と寸分違わないNPCを惨殺するのに躊躇いを覚えていない。
法的には、現実で暮らすにもVRで暮らすにも、制約は何もない。いつでも、好きな方に居ればいいとされている。
けど。
事実上、完全にVR側の住人となったーーこの
それもそうだろうと、この光景を目の当たりにして改めて思った。
……ボクも、何もしないわけにはいかない。
当てられそうな奴を見つけて、拳銃を撃った。
どうせボクも、現実に戻る気はない。
早く順応しなきゃ。
早く。
そして、いかにもトヨグのミイラが納められていそうな巨大な棺のある神殿に出た。
瓦礫の隙間から密林の木々が食い込んでいて、森と人工物の入り交じった情景になっていた。
その中で、ひときわ大きな樹ーーのようなものがあった。
「……
「了解」
彼の指示に、ほぼタイムラグなく応じた
ボクを抱え込むように庇い、転がり、衝撃を殺しているけど、それでもボクの視界は揉みくちゃ。
そんな混沌の中でも
無人になったジープが、一見して樹にしか見えないそれに重い金属悲鳴と機関の破砕する音を撒き散らして激突。
樹……だと思われていた“そいつ”が、擬態を止めて背筋を伸ばした。
何か、馬とかああいう草食動物が生皮でも剥がれたような聴くにたえない悲鳴が上がった。
幹と思われていた部分に三つくらい裂け目が出来たと思ったら、それは人間みたいな口だった。
よだれの代わりに、着色されたかのように鮮やかな緑色の、ゲル状の体液がおびただしく垂れ流されている。
何よりも、ひどい臭いだ。真夏に長時間放置されて泡が沸いた青魚を、もうひとまわりキツくしたような。
枝だと思われていた無数のそれは、意思を持つ管のようにのたうった。
根を張っているように見えた下の部分にはしっかりと脚が四本あって、馬の蹄みたいなものがしっかりと巨体を支えていた。
【諸君らの御所望通りに。
シュブ=ニグラスの落とし子にして、現世に於ける彼女の代行者“黒き仔山羊”だ】
自分だけターゲット外なのをいいことに、ニャルラトテップが優雅に宣言する。
【この、大いなる地母神にして邪淫の神の使者を目の当たりにした諸君らは6面ダイスによる精神ダメージを負うだろう】
やっぱり、そうなるか。
何だか、
もはやコントじゃないか。
でもまあ、そういうゲームなので仕方がない。
覚悟を決めて、ボクらはニャルラトテップの振るダイスに注目、
【なお、精神ダメージに関しては“男性”にのみ限定される】
と思ったら、何やら不可解な事を言われた。
逆説的には、女の人にはダメージが無いってことになるけど。
そんなうまい話、あるのかな?
そして、ダイスが投げられた。
ボクらのパーティは……
<精神ダメージ>
HARUTO……【3ダメージ】
<正気度の増減>
HARUTO【正気度:80→77】
LUNA【正気度:50】
MAO【正気度:42】
被害が最小限で済んでよかった。
特にこのヒトが発狂すると、面倒なことばかりなんだよ。
いや、今までの引きが悪かっただけなんだろうけど。
嫌な思い出は、事実を誇張する。
それで。
【さて、諸君らの中で“女性”の者は、無条件でこの黒き仔山羊の
一説にはバフォメットと同一視されている、この神話生物の虜となって】
やっぱり、うまい話には裏があったよ。
【外宇宙の黒ミサ】
黒き仔山羊の身体から、紫色に着色された眩しい光が放射された。
ボクは、
何も変わらない。
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