ハッピーエンド・パラドックス

裏道昇

はじまりはじまり……(0)

 物語の結末は何がいいか。

 昔はそんなことを考える人も少なかったようだ……無理もない。所詮は想像の世界だ。その手の妄想をする暇はなかったのだろう。

 秘密結社を営む大悪党を殴り飛ばして世界を崩壊の危機から救って欲しい。

 素敵な少年少女が恋敵やら喧嘩やらを乗り越えて結ばれたらいいな。

 貧乏ながらも善良な市民が些細なきっかけから大成功を収めたら爽快なのに。

 とは思う。でも、結局は現実じゃあない。つまりはお伽話。小説でも読んでる間、ちょっと思いを馳せるくらいが丁度よい。

 だが、今は違う。

 誰もが物語の結末を考える。この物語はどんな最後を迎えるのか、気になって仕方がない。そんな劇的な変化はたった一つの発見がもたらした。文字通り世界を変えたと言っていいだろう。

 彼は言った。この世界は《物語》だった、と。

 比喩なんかじゃない。そのままの意味で、全てがお話だったのだ。宇宙という舞台設定、あらゆる生命が登場人物で――結末へと向けて終わりゆくストーリー。

 全てに説明が付いた瞬間でもあった。酷い状況だったらしい。全人類が知恵を絞っても、地球の滅びは避けられそうにない。それどころか宇宙自体が終わりそうだ。

 そりゃあそうだろう。理屈が分かれば簡単な話だ。端からそういうシナリオなんだ。単に世界という物語が読み進められ、終盤を迎えただけ。

 物語には必ず最後があるんだから。

 この世の終わりで、やっと世界の本質に気付いた登場人物達。しかし遅すぎた。誰が誰に語る物語なのかは不明だが、世界のバッドエンドは目前だった。

 そして、地球も宇宙も滅んだ。


 ――人類だけが、直前に創り上げた物語世界への移住を成功させて。

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