転……(4-9)

 一際大きな倉庫だった。天井は一般的な建物の三階か四階分くらいはあるだろう。今は近くから様子を窺っているのだが、奥行きも幅も大きい。全容を把握するには時間が掛かるだろう。

「さて、どうしよう?」

 僕が後ろを振り返った。

「そうね……中の様子までは確かめた方がいいかも知れない。せめて相手の目的くらいは調べないと結論が出ないわよ」

 僕が頷いて、紗智の意見を聞こうとした瞬間。

 倉庫の扉が開き、中から三人の男が出てきた。とっさに道の両脇へと全員が身を隠す。

「早いとこ逃げないと、騎士隊が来ちまうよな……」

「そうっすね、目的は十分達成したんでトンズラが一番っすよねー」

「……でも、朝里さんはどうするつもりなんだろうな――アイツら」

 見張りなのか、三人は扉の前で立ち止まったまま駄弁っている。

「んー……騎士隊に保護させるンすかね?」

「馬鹿! そうじゃねえよ、そんな真似するわけねえだろ」

「……さすがに、生かしちゃおけないだろう。誘拐してきた語り部は全員殺して口を封じることになるな……問題はその後の処理だが」

 あまりに酷い言葉だった。だから――

「ひっ……」

 天野さんが、声を漏らしてしまった。

「……おい」

 男三人が僕達の潜む方へ近付く気配がした。通路の向こう側に歩と天野さん。僕の後ろには紗智が隠れている。それなりに鍛えている僕達はともかく、天野さんが隠れながら逃げるのは難しいだろう。

 ――このままでは見付かる……戦うか?

 瓦田君の命が危ないと分かったのだから、それも仕方のないこと――そう思った時、通路の向こうで歩が【行け】とジェスチャーを送ってきた。

 ――別行動を取る? まあ、全員が見付かるよりはいいけど……。

「行きましょう」

 紗智が僕の背中に小さく声を掛けた。僕は後ろ髪引かれる思いだったが、気配は近付く一方だ。仕方ない――二人に背を向けた。

 安全な場所まで来ると、僕は不安で後悔が溢れてきた。

「歩だけで天野さんを庇いながら戦えるかな……?」

「大丈夫です。アレでも飛剣の家に名を連ねてるんですから、この程度で負けることはないでしょう」

「飛剣の家?」

 僕が首を傾げると、

「……何でもないですよ。サチ達はどうします? 騎士隊に連絡っていう手もありますよ?」

「いや、この隙に倉庫の中に入って様子を見よう」

 すでに周囲からは歩を捕まえようとする声が響いている――主に悲鳴な気もするが。

「……そうですか。具体的には?」

 僕は考えながら、倉庫全体をよく見て……

「上から行こうか」

 倉庫の天井付近から下りる、長い梯子を指さした。

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