承……(3-17)

 追い打ちというのはあるもので、

「班ごとの活動権限をまとめたから読んどけよ」

 今日はテノールすらも憎たらしく聞こえたが、言われるままにプリントへと目を通す。

 酷かった。とにかく、酷かった。

 例えば、上位の班。

【付与資格――修正者仮免許。

 活動可能範囲――制限なし。

 幻想文学使用権――制限なし】

 で、僕らが十三班。

【付与資格――活動許可。

 活動可能範囲――学校内。

 幻想文学使用権――なし】

 校内で、幻想文学を使わずに、活動出来る――どこが権限だよ、部活じゃないか!

 僕は両手で顔を覆うしか出来なかった。

 今日から実際の授業も始まったが、当然頭には入らない。

 そんな最低な気分で、この学校で初めての昼休みがやってきた――

「ちょっと来て」

「……え?」

 腕を引っ張られる。席を立ち、教室を横切り、廊下へ出た。

 一瞬で、僕は歩に拉致られていた。

「ちょっ……どうしたのさ」

「いいから、来なさい」

 有無を言わさない足取りと厳しい表情に、それ以上の追及は出来なかった。

 歩が足を止めたのは、Bクラスの前だった。

「すみません、六班のメンバーいますか?」

「え……あー、一人いるみたい。一番怖い人だ……ちょっと待ってね」

 歩に訊かれ、近くの女の子が昨日の彼を呼びに行った。

 僕は気が気じゃない。

「何してるのさ! 説明してよ……ッ」

「……分からない? 静夜」

「何が……」

「謝りなさい」

 真摯な瞳は厳しさを示しながらも、本気で僕のことを考えていることだけは理解出来た。

「……あんたが、どうして殴ったのかは分からない。でも人を殴ることが悪いことだって理解していて、望んだことじゃないんでしょ?」

「そうだけど、謝ったくらいじゃ……」

「静夜が決めることじゃない。謝罪は権利じゃなくて、義務よ」

 僕が返事に困っていると、

「……やあ」

 六班の短髪君がやってきた。気まずそうに頬を掻いているが、顔全体が腫れている。

 反射的に、僕は俯いてしまう。

「どうかしたか?」

「話したいことがあるんだって」

 歩がすかさず応じた……ちくしょうめ。

「?」

 ハメられた――この状況になってしまえば、歩の考えに従うしかない。

「えっと……その、ごめん。殴る必要なんてなかったのに……」

「ああ、そういうことか」

 彼は笑ってから、顔の痛みで呻いた。

「気にしなくていい。オレが変なことを言い出したのが原因だし」

「でも――」

「あの時、彼女の顔を見た瞬間。君はまるでこの世の終わりみたいな顔だった」

「……」

「だからきっと、理由があったんだろう」

 そう納得したから、気にしなくていい。彼はそう言った。

「まあ、恐怖を感じたのは事実だが」

 僕は唇を噛み締める。

 ――僕は動けなかったのに、当然のごとく君は歩を助けたことが許せなかった。

 そんなことは言えるはずもない。

「ありがとう」

 それでも一番大事なことを言うことは出来た。上手く言えただろうか。言う権利はあっただろうか。分からないけど……もう二度と、彼を傷付けたくはない。僕が目指す地点にいる人だと思うから。

 軽く挨拶を交わして彼が戻っていった。残ったのは、僕と歩。

「歩も、ありがとう」

「早とちりはしないで。あたしはあんたを許したわけじゃない。倒した相手を殴るなんて最低よ」

 自然と笑みが零れた。

 ――知ってるよ。

 僕は歩き出した。歩も続く。

「……なのに、僕に謝らせたのか。ひょっとして歩って、お人好し?」

「はぁ? あ、あり得ないわよ。あたしは筋が通ってないのが嫌で……」

 僕の前まで小走りで回り込むと、あたふたとボディランゲージを繰り出す。だが、まったく伝わってはこなかった。

「はいはい。お人好しなんかじゃないよね」

「分かれば――って、絶対分かってない顔してる! ぐ……。今度その表情したら、班なんて解散してやる!」

 僕の横では今日も地団駄がよく響いた――関わりたくなかったはずなのに、気が付けば当たり前のように話している……そんな昼休みだった。

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