承……(3-19)
決まってからは早かった。すぐに広い校舎の空き部屋を自由活動の名目で借りた。加えて紙に《人助け代行します》と書き、入り口の扉に張る。
だが、それだけで午後を終えることはさすがに出来ない。僕達は《人助け代行》をして欲しそうな人を探して回ることにした。
「じゃ、あたしは三階に行くわね!」
言い切らない内に歩は部屋を出て行った。よほど人助けが楽しみなのか、弾むように駆ける足音が聞こえてくる。
「……だるい」
「そう言わないでよ」
だが、紗智は対照的に面倒臭そうだ。
「当然ですよ。紗智は犯罪代行がしたかったんです。いいですか、静夜さん。犯罪が重要なんです! 代行とかは正直、どうでもいい……」
「まあまあ、さすがに犯罪代行は無理だろう」
駄弁りながら、僕達も部屋を出る。
この時間はすでに物語科の生徒は全員、自由活動をしている。よって、僕達が歩き回るのは普通科になる。行ってみると、休み時間の廊下は普通科を示す青と黒の制服で溢れていた。
白状するなら、修正者養成所は普通科の方が生徒数はずっと多い。確かに修正者は特殊な資格だ。しかし、一人残らず幻想文学を扱う語り部で構成する必要はない。
当然ながら、修正者にも事務や雑務がある。全てを語り部で揃えるのはどうやっても不可能だ。
……しかし、世界の根幹に関わる修正を専門知識のない人間に任せるはずはない。そのためにこの専門学校があるとも言える。
実際、ここで学べば語り部でなくとも専門的知識は手に入るだろう。加えて修正者となれば、社会的地位は十分すぎる。
よって、幻想文学を扱うより事務の方がいいという人も多い。中には語り部であるにも関わらず、普通科に入る生徒もいたりする。
「まあ……裕福な家ばかりだけどね」
この学校を卒業すれば、学歴としては申し分ない……実際、ここにいる大半はそのクチだろう。その中を僕と紗智が見て回る。
奇異の目で見られた。それでも一通り眺めたが、困っている人なんて見付からない。
「……そうだよね。当然だ」
気が付けば、笑みが漏れていた。
「? どうしたんですか、静夜さん。変な笑い方してますよ」
「いや、何でもない。ちょっと、思い出し笑いをね」
昔の歩と似たことをやっていた。あの時も、困っている人なんていなかったなあ。
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