結……(5-4)

「はあ……絶対、許さないんだ、から……」

 職員室に向かう前とまったく同じ台詞を吐いたものの、歩の声は疲れきっていた。無理もない。僕達二人だけで校舎全ての窓拭きをさせられたのだから。

 テノールが言うには、匿名の手紙が届いたらしい。内容は――

「刃間静夜、飛剣歩、高音紗智の三名が先日の誘拐事件に関与している……か」

 誰が送ったのか。そもそも僕達が倉庫にいた事実を知る人は少ない。さらに、密告して利益がある者なんていないはずだ。

 しかし実際に密告されて、僕達は夜の九時まで罰として労働をさせられたのだった。やっと終わり、帰ろうと廊下を歩いているのだが……不満は消えない。

 おのれ、テノール――僕達が関与した証拠があるわけでもないのに。

「一人だけ逃げて! 今回ばっかりはガツンと言ってやるんだからっ」

 歩は僕と違い、紗智が許せないようだ。怒り心頭とばかりに騒ぎ続けている。その様子を見て、ふと疑問に思った。

「あのさ……怒ってる割には、楽しそうだね?」

 ビク、と歩の肩が震えた。

「……どうしたの?」

「別に……楽しくなんてないわよ?」

「……」

「ただ、あたしは喧嘩とか……あまりしたことがないから」

 ――なるほど。喧嘩する相手がいなかった、と。

「だから変な勘違いとか――何笑ってるのよ!」

 歩が僕を軽く小突こうとして、止まった。

「……おかしい」

「? どうしたのさ」

「九時なのに、警備がいない」

「そんな馬鹿な――」

 長い廊下の先まで目を凝らすが人の気配はない。

「――本当だ。どう思う?」

 この学校のセキュリティは厳重で、一晩中警備員がいなくなることはない。間違いなく異常事態だった。

「何か事件が発生してる可能性があると思うけど、確証が……」


「優月静夜、常無歩、今すぐに屋上まで来い……逃げれば班員を殺す」


 先ほどと同じ……幻想文学による音声が響いた。しかし、明らかに質が違う。

 ――学校を占拠された? この間のテロリストの残党か?

「常無……? まあとにかく、紗智が危ないってことよね……急ぐわよ」

 歩が走り出した。僕は頷いて、現実逃避をやめた。

 そう――【優月】と【常無】の名が出ている時点で、テロリストだなんてあり得ない。

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