起……(2-3)
かつて、世界を創ったのは神様だったらしい。いや、旧世界を語った存在を神様と呼んだ。矛盾もなく、細かく練られた世界観。神様の創った世界はよく出来ていたそうだ。しかし世界は滅んだ。そして今の世界を創ったのは……人間ということになる。
「――許して、くれ」
ここに教訓がある。簡単な話だ。いずれ世界は滅ぶということ。言うまでもないが、物語には必ず終わりがあるのだから。ましてや神様の創ったストーリーが終わったんだ。人間が永遠の物語を創れるはずはない。よって、今僕が暮らす世界は結末までがすでに用意されている。
世界の名はファンタジア。寿命は約二千年。
旧世界の中世を元とし、剣と魔法の世界を想定している。要するに、ファンタジー小説の世界観を引き継いでいるのだ。
ファンタジアへ移住した人間が安定して暮らせるように。そんな考えを根底において、設定は練られた。
だから、この世界には旧世界で猛威を振るったらしい病気の類は存在しない。加えて、人間の寿命は百年で固定された。
これで人々は事故などを除けば寿命を全う出来るはずだった。
実際、ファンタジアは順調に回り始める。だが、そこで予想外の問題が発生したんだ。それが矛盾症候群。そう、まさに矛盾だ。
世界の結末が用意されているのだから、人間がその結末と矛盾した行動を取る。あるいは破綻させる出来事が起こると、世界はその矛盾を修正するように創られている。矛盾が積み重なれば、世界はあっという間に終わるからだ。
例えば、このファンタジアの世界では極端に科学技術を発展させることは出来ない。やろうとしたら何らかの形で阻止されるはずだ。なぜなら、この物語はあくまでファンタジーなのだ。滅ぶ瞬間までそれは変わらない。つまり、科学が進んでは世界観に矛盾があるわけだ。
「悪かった、俺が悪かったから……」
あらゆる物語は、より大きな物語の流れに正される。
要するに――いつか世界に支障をきたす人間は矛盾に食い殺されるということ。
それが矛盾症候群だ。この世界に存在する唯一の病気とも言える。だが必ず死ぬわけではないから話がややこしい。
突然十歳以上老ける人間もいるし、精神を病んで凶暴になる人もいる。体が石化したという症例も聞いたことがあった。
そうでなければ、世界の物語に矛盾が生まれるから。
問題は、治療が出来ないことだ。治す技術などないし、治せても再発するだけだ。そもそもこれは世界の運営にどうしても必要なシステムだった。だから、苦痛を和らげる程度しか手の施しようがない。
「た、助けてくれっ!」
助けたら世界が滅ぶ……なら、助ける馬鹿はいないだろう?
――ベキ。
そんなことを考えながら、僕は病院帰りに襲いかかってきた奴の骨を折った。
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