承……(3-13)

 その次の日、歩は《人助け》をしなかった。

 ――あれだけ助けたいと豪語したくせに。

 そう思った僕が訊いてみると、

「あれじゃ、本当に助けたい人は助けられない気がしてねぇ」

 なんて妙に年寄り臭い言い方をされた。

「……じゃあ、もう誰も助けない?」

 訊ねると歩は首を横に振った。ベンチに背を預け、大きく空を仰ぐ。

「最後の最後まで助ける。ほら……こんな悲劇的な場面には都合のいい、困った人が現れるに決まってるよっ」

「……なんて脳天気な」

「ほら! 今に病棟から困り果てた老人が……」

 歩が両手を広げて病棟を示す。

「……」

 少しだけ待つが、老人どころか患者一人出てこなかった。

 歩が今度は憂いを帯びた微笑を浮かべた。まるで、その表情こそが本当と言ってる気がして――

「なーんてねっ」

 冗談めかして笑い、もう一度空を仰いだ。

「……私、昨日は徹夜しちゃった」

「そっか……」

「ていうか、眠れなくて」

「怖いの?」

「んー? どうだろ……。怖いのかな?」

 自分でも分からないという表情を長いこと張り付けて、

「ん! そっか、私怖いんだね! 考えてみたら、昨日は寒くないのに震えてた」

「なんで……」

 笑いながら言えるんだ。そう、訊ねそうになった。とっさに止めたが、伝わってしまう。

「だって、これが怖いっていうことなら……今までずっと怖かったから」

 それでも笑うが――憂いは、消えていなかった。

「ねえ――」

 そのままの表情で、歩は一つ提案をする。

 僕は断ることが出来なかった――何故だろう?

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